第33話|似顔絵|眠れない二週間
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第1話|抱っこと決意|シングルファザーとなった最初の日https://note.com/fast_deer7937/n/n74aef03be245
保育園に迎えに行った帰りだった。
「ピノちゃんのお父さん、似顔絵でお仕事されてるって聞いたんですが?」
急に声をかけられた。
仕事にはしとらん。
昔、頼まれて描いたことは何度かある。
誰から聞いたんじゃろ、と思いながら
「いや、仕事ではないですが、描けますよ」と返した。
「先生二人に寄せ書きを贈りたいんです。似顔絵、お願いできますか?」
先生二人なら、まぁええかと思い、
「いいですよ」と言った瞬間。
「本当ですか!ありがとうございます。
じゃあ先生と、園児たちの似顔絵を」
園児たち?
聞き間違いかと思った。
49人と先生2人。51人分。
おお。
騙された、とは言わんけど、なかなかの展開じゃ。
引き受けた手前、やるしかない。
写真を集めてもらい、下描きを始めた。
ピノに見せて「あ、○○ちゃん!」と当てられるまでは描き込もうと決めた。
普段からピノと一緒におる子は、
動いてる姿を見慣れている分、すぐに似てくれる。
写真でしか見たことない子は、なかなか似ん。
そもそも写真にちゃんと写っとらん子が一定数おる。
横向き、遠目、目をつぶっとる。
こりゃある程度写真が揃うまで、あきらめるしかない。
それと、ピノ。
描くと三割増しで可愛くなる。なんでじゃろうな。
親の欲目が勝手に補正をかけよる。
「こんな可愛くないなぁ」と消して、描いて、また消す。
誰に忖度しとるんか分からん。
母親同士の打ち合わせにも顔を出した。
本題に入るまでが長い。
議題が一本道で進まん。
幸い、わしが描く側じゃったけぇ、
途中から半ば強引に話を進めさせてもらった。
卒園式までの二週間。
睡眠は三、四時間。
朝は弁当を作り、仕事に行き、帰って似顔絵。
体力的には問題なかった。
でも、なんか余裕が無い日が増えた。
ピノの声が少しうるさく感じる瞬間があったり、
パピコに返す言葉が一段きつくなったり。
おお、いけんいけん、と思いながら作業を進める毎日じゃった。
完成して印刷したのは、卒園式当日。
感謝もされた。ありがたいとは思う。
でも正直、
「終わった」
という思いが勝っとった。
式が始まる。
泣くと思っとったけど泣けんかった。
周りではスマホのシャッター音がずっと鳴りよる。
パピコの時もそうじゃったけど、
あのピッコラピッコラ鳴る音、
わしの感情をすっと引かせる力があるらしい。
クラスに戻って先生が一人ずつ言葉をくれた。
最後に園長先生がわしに一言。
「おとうさん、頑張りましたね。お疲れさまでした。」
その時だけ、ちょっと崩れた。
保育園生活が終わるんじゃな、と。
成長は嬉しい。
卒園も嬉しい。
この保育園での生活が終わるのは、やっぱり寂しい。
その寂しさがあるくせに、
もう二度とこの生活はしたくない、という思いは
はっきりしとった。
ほんま、長かった。
-------とっちゃRECO-------
余裕が削れた状態は、
アンガーマネジメントの世界では「一次感情が短絡する」と説明されることがある。
怒りが増えるというより、
疲労や焦りが、そのまま外に出やすくなる。
対処法としてよく言われるのは、
「反応を遅らせること」。
一呼吸置く。
その場を離れる。
水を飲む。
理屈は分かる。
でもな、これがくっっっそ難しい。
頭に血が上がっとる時は、
「今まさにそれをやれ」と言われても、
たぶん無理じゃ。
だから実際には、
怒らないことよりも、
怒ったあとに戻せるかどうかの方が現実的かもしれん。
時間を置くのは理想。
戻すのは技術。
机上の理論はそう簡単に実践できん。
-------とっちゃRECO-------
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