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第32話|黒ひげ危機一髪|負けたくなくて腹を割った日

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第1話|抱っこと決意|シングルファザーとなった最初の日https://note.com/fast_deer7937/n/n74aef03be245 

夕飯後だった。
何かで当てた黒ひげ危機一髪。

前の日にやって、
パピコは惨敗した。

それが悔しかったらしく、
今日もそれを持ってきて、

「やろう」

と闘志むき出しで言うてきた。

当然、受けて立つ。

パピコは刺す前に、
穴が空いているところを
穴が空くほどじっと覗く。

真剣そのもの。

何度かやったが、
パピコの負けが込んできた。

黒ひげを持ったまま、
また穴を覗き込みながら、

「これってなんで飛ぶん?」

お。

娘たちには、
疑問を持ちなさいと言うてきた。
それがようやく芽を出したかと思えて、
ちょっと嬉しかった。

「分解するか」

机に工具を広げて、二人で腹を割る。

中には軸が一本あって、
人形の向きで当たりが変わる仕組みだった。

回して確かめて、
差し込んでみて、
また回す。

「はあーーー、なるほど」

と、低く唸る。

その横で、
わしは少し得意になっとった。

組み立て直して、
ここだと決めた穴に刺す。
飛ぶ。もう一回人形を刺す。
回してみてから剣を刺す。
飛ぶ。

外れんことを確かめるみたいに、何度もやる。

最後に振り向いて、

「もう負けんよ」

パピコは満足げだった。

 

流行りかけた黒ひげは、
二日目にして腹を割られ、
その日を境に、
ただの置物になった。

あいつ、
今何処におるんじゃろ?

-------とっちゃRECO-------

子どもが
「なんで?」と聞く時。
それが純粋な知識欲か、
勝つための分析かは、
外からは案外わからん。

心理学では、
動機には大きく分けて
「内発的動機」と
「外発的動機」があると言われとる。

知りたいから知る。
それが内発。

勝ちたいから調べる。
負けたくないから仕組みを探る。
それは外発に近い。

どちらが良い悪いではない。

ただ、
外発的動機は目標を達成した瞬間、
急に熱が冷めることがある。

今回の黒ひげは、
たぶんそれだった。
仕組みを理解した瞬間、
遊びは「勝負」から「作業」になった。

勝てることが確定すると、
勝負は終わる。

親としては、
「疑問を持て」が届いた気がして
少し嬉しくなる。

でも子どもの中では、
別のエンジンが回っとることもある。

動機の違いは、
後になってから
やっと分かることが多い。

-------とっちゃRECO-------

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