ついにパニック発生。江戸の金融崩壊を救った幕府の「最終奥義」|古文書奮闘記 #109
明和から安永へと元号が変わった安永2年(1773年)。度重なる締め付けと、大名たちの財政破綻が限界を迎え、ついに最悪の事態が発生します。「デフォルト(債務不履行)」の連鎖です。
前回はこちらです
複数の蔵屋敷が完全に機能停止し、商人が切手を持って行っても「米は渡せない」と拒絶される事態が多発。大坂の市場は完全にパニックに陥り、史料には「商人とも切手を危踏、金銀通用も不宜、一統之難儀」(商人たちは切手を恐れて取引せず、金融が麻痺して誰もが大混乱に陥った)と記録されています。
市場の完全な死を前にして、幕府はついに、経済史上に残る前代未聞のウルトラCを放ちます。それが「政府による債務保証」でした。
「商人の損は、国が立て替える」
幕府が打ち出した新スキームは、現代の私たちが読んでも目を見張るほど強烈なものでした。
【安永二年二月】
商人共銀子を差出
取置候切手米蔵出相滞候はば(中略)
右商人
差出置候銀高者は右町人江
公儀より被下、切手米之分者
公儀え御取立ニ相成候
(商人が銀を支払って手に入れた米切手なのに、蔵屋敷からの引き渡しが滞った場合、商人が支払った分の銀は公儀(幕府)が立て替えて商人に返還する。その代わり、引き渡されるはずだった米は、公儀が責任を持って大名から取り立てる)

「投資家の損は政府が全額補填する。その代わり、踏み倒そうとした大名には国家が総力を挙げて取り立てを行う」という、究極の公的資金注入措置です。
国家の威信をかけた「強制執行」
この約束が口先だけではないことを示すため、幕府は不履行を起こした蔵屋敷の役人だけでなく、国元(藩)の責任者までも大坂奉行所に呼び出し、容赦なく厳罰に処す姿勢を見せつけました。
【安永2年二月】
若相滞候は
蔵屋鋪役人は勿論國元役人
大坂町奉行所江呼出吟味之上、
重御咎被
仰付米納方之儀茂急度御沙汰
可有之候
(もしそれでも米の引き渡しが滞るようであれば、蔵屋敷の役人はもちろん、国元の役人まで大坂町奉行所に呼び出して厳重に取り調べ、重罪に処した上で、米を強制的に納めさせる)


国家が牙を剥き、すべての不良債権の回収代行者となることで、大坂の市場はかろうじて全滅の危機を免れました。強大な「公権力」という力技でバブルの崩壊をねじ伏せた幕府。しかし、この一見完璧に見えた「最強の盾」もまた、厳しい現実の前に長くは持たなかったのです。
(最終回へ続く:国家のサイフも無限ではない――「政府保証」の限界と、ある特命官の泥臭い挑戦)
これまでの記事のまとめです
古文書を読む際の参考資料3点をご紹介します
画像から読み解きをサポートしてくれるツール
「ふみのは」
「おさらい古文書の基礎: 文例と語彙 (シリーズ日本人の手習い)」
例文が豊富です。典型的な言い回しに慣れるには良いと思います
新編・古文書解読字典
最初の頃は不要ですが、解読に慣れてきたら辞書が必要です。まだ辞書の力をいかせていない気がします・・
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