もし発行元が倒産したら?江戸の幕府が隠した「投資家保護」の裏ルール #107
宝暦の空米禁止令から3年。大坂の市場は、別の深刻な危機に直面していました。それは「クレジット・クランチ(信用収縮)」です。
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幕府が厳罰をチラつかせた結果、商人たちは疑心暗鬼になりました。「今俺たちが持っているこの米切手は、本当に本物の米と交換できるのか?」「もし発行元の大名家が破産(闕所など)したら、この手形は紙クズになるのでは?」――。恐怖した投資家たちが一斉に財布の紐を閉じたため、市場から急速に流動性(お金の回りやすさ)が失われていったのです。
国家が認めた「例外的な聖域」
明和2年(1765年)、大坂経済の完全停止を恐れた幕府は、驚くべき方針転換を打ち出します。それは、マーケットの安心感を担保するための「異例の投資家保護ルール」でした。
【引用①:明和2年八月】
「公事出入奉行所吟味中に而茂無障、切手の義は通用可致候」
(たとえ切手の所持者が裁判で取り調べを受けている最中であっても、何ら支障なく、その米切手は市場で流通・使用させてよい)


なんと、民事トラブルに巻き込まれている当事者の資産であっても、米切手だけはフリーズさせずに流通を認めると宣言したのです。
お取り潰しでも「手形は別格」
幕府の保護姿勢はこれだけにとどまりません。もし発行元の武家や商人が重大な罪を犯し、全財産没収(闕所)の刑に処された場合でも、米切手だけは政府が没収しないという「聖域」を作ったのです。
【引用②:明和2年八月】
妻子江不拘御仕置被
仰付闕所等ニ相成候節も切手の分ハ
妻子江可被下置候、尤吟味中家財改
封付候共米切手の分者封外ニ候間是又
通用可致候
(重罪によって全財産没収となった場合でも、米切手の分だけは(連座させず)妻子に渡してやりなさい。取り調べ中に家財が差し押さえ(封印)されても、米切手は対象外(封外)としてそのまま流通させてよい)

ここまでして幕府が米切手を守ろうとしたのは、商人を愛していたからではありません。米切手という「江戸の基軸通貨」の信用が落ちれば、幕府の心臓部である大坂の金融システムそのものが崩壊することを知っていたからです。しかしこの「優しすぎる保護ルール」が、次なるモラルハザード(倫理観の欠如)を呼び込むことになります。
(第3回へ続く:過去の不良債権をあぶり出せ!幕府が仕掛けた「闇のマネロン規制」)
これまでの記事のまとめです
古文書を読む際の参考資料3点をご紹介します
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「おさらい古文書の基礎: 文例と語彙 (シリーズ日本人の手習い)」
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