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煙の結界 〜 俺は、サウナーの盾となる 〜

湯気に包まれた静寂の外気浴。
その静けさを守るべく、煙をくゆらせる者がいた。

これは、蚊取り線香の視点から語られる、
ととのいの舞台裏。


火が灯されてから、
どれくらい経っただろうか。

今日も俺は、
テントの片隅で静かに煙を吐きながら、
あいつが来るのを待っていた。

頭上には、
いつもと変わらずランタンがぶら下がっている。

何も言わず、
ただそこにいるだけなのに、
なぜだろう。

俺の働きをずっと見守られている気がして、
少しだけ背筋が伸びる。

山の空気はひんやりとし始め、
夜の気配が静かに降りてくる。

湯けむりの向こうから、
ふらりとサウナーが現れた。

――さあ、今夜も任務の時間だ。

白い煙をくゆらせながら、
あたりを見渡す。

静けさに満ちているように見える
この空間の裏側では、
すでに“奴ら”が動き始めていた。

羽音も立てずに忍び寄る影。

あの小さな敵たちは、
今日も血を求めてやってくる。

「突撃準備よ!」

「了解。今夜は三人で一気にいくわよ!」

「…………」

煙の外から、
虫たちのささやきが聞こえてくる。

だが、忘れるなよ。

この輪の内側には、
俺がいる。

たかが一本の蚊取り線香かもしれない。

だけど、
この煙は“ととのい”を守るための結界なんだ。

俺は煙を厚くし、
円を描くように広げる。

――この結界は、破らせない。

しかし、その時だった。

風が向きを変え、
煙が薄くなる。

そこへ虫たちが
突破口を見つけたように押し寄せてきた。

強まる風。

近づく虫たち。

消えかける火。

俺は残された渦巻きを燃やし尽くす勢いで、
最後の力を振り絞った。

煙は渦を巻きながら広がり、
夜の空気へと溶け込んでいく。

その瞬間――

サウナーの肩に止まりかけた一匹の虫が、
「ぐふっ……」
と小さくうめき声を上げ、
煙に巻かれながらふらりと墜ちていった。

静寂が戻る。

やがて煙は細くなり、
俺の役目も終わりに近づいていく。

その頃、
サウナーはゆっくりと立ち上がり、
大きく息を吐いた。

「あぁ……ととのった……」

満ち足りたような、
そのひと言。

それを聞いた瞬間、
胸の奥に安堵と誇りが広がった。

そして俺は、静かに灰となる。

燃え尽きる、
その瞬間まで。

俺は盾であり、
静けさの番人だ。

ふと見上げると、
ランタンの灯りが、
ほんの少しだけやさしく揺れた気がした。

……あいつも、見ていてくれたんだな。

ととのいは、誰かひとりでは作れない。
サウナーがいて、風がいて、灯りがいて。
そして、その片隅に俺がいる。

灰になるまで、いつもそうだった。



写真をきっかけに物語が生まれました。
楽しんでいただけたらうれしいです。

最後まで読んでいただき、
ありがとうございます。

🔗 シリーズ|サウナの片隅で − 三部作 −
🌀 第1話|煙の結界 ~ 蚊取り線香の物語 ~
小さな火に命を灯し、煙の輪で“ととのい”を守る夜。
▶ こちらの記事になります。
🕯 第2話|灯りの下で ~ ランタンの視点 ~
何も言わず、すべてを照らし、すべてを覚えている灯り。
記事を読む
🪑 第3話|静けさを受け止めて ~ ととのい椅子の夜 ~
誰かの重さをそのまま受け止める、静けさの番人。
記事を読む


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#夏の1コマ #夜サウナ #俺たちのサウナ防衛戦 #蚊取り線香とサウナー #煙の向こう側


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