【創作童話】あなあきホロとひびわれココ⑤ 夜風とつながり
痛みのあとに残ったのは、あたたかい時間でした。
ホロとココはひとつ屋根の下で、新しい日々をはじめます。
――これは、寄り添うことで“カタチ”を整えていくお話です。

その夜。
ホロが眠ったあと、ココはそっとホロの穴から抜け出しました。
部屋を出て、静かに玄関のドアを開けます。
ドアの前の階段に腰を下ろし、夜風を浴びました。
「早く治らないかなぁ」
そんな独り言をつぶやいていると、
夜遊び帰りの“マル”たちが通りかかりました。
「お、ひびわれココじゃないか」
その声に、ココは視線を向けました。
けれど、大きな声も出せず、手を上げて挨拶だけしました。
「そんな言い方やめろよ」
“マル”のひとつが止めましたが、
「なんだよ? 見たまんまじゃないか」
「大変なケガだったんだぞ! ココ、ごめんな」
ココは手を軽く振って答えました。
それでも、
口の悪い“マル”は続けて言いました。
「だって、あなあきと、その穴に入ったひびわれだぞ? なんという“カタチ”なんだ?」
「やめろって!」
「“マル”の“カタチ”に誇りがないのか? ははは、我々は同じ“カタチ”だから仲間なんだ!」
そのとき。
「ふーん」
ココの後ろに、いつのまにかオトが立っていました。
「“マル”生まれの“ホシ”のことを言ってるの?」
オトがいつも通りの声で言うと、
口の悪い“マル”は慌てて、
「ち、ちがうちがう! オトは選ばれた“カタチ”じゃないか!」
と否定し、まわりの“マル”たちも、
「だからやめろと言ったじゃないか」
と慌てて引き上げていきました。
「なんだあれ……」
「オト、いつからいたの?」
「今だよ」
「オトが私たちについてきてくれるのって、ああいう悪口が聞こえないようにでしょ?」
「あはは、そんなことはないよ」
「オトはいいヤツだねぇ」
「そうかい? そろそろ戻ろう。ホロが起きたら大騒ぎだよ」
「今日、野原で、ホロの何を気にしてたの?」
「んー……いや、ホロが少し小さくなった気がして」
「え?」
「気のせいだよ。さぁ、戻ろう」
「……うん」
⸻
翌朝。
「ねえホロ、体つらくない?」
「平気だよ。ココは?」
「……平気」
ホロとココは、朝からそんな会話を交わしながら出かける準備をしていました。
そこに、部屋をのぞき込みながらオトが言いました。
「ごめん。今日のお出かけはなしだ。ヒゲの爺さんと話があってね」
「そうなんだ。しょうがないね」
ココは小さい声でそう答えましたが——
「もう二人でも行けるよ? ね?」
ホロは普段より大きな声で、オトとココに問いかけました。
「そう? 無理せず近場の……川の土手くらいならいいかな?」
「やった……! ね、ココ行こう!」
オトの許可が出て、ホロがココを誘うと、
「うん!」
と、ココはハッキリ答えました。
⸻
ココのケガ以来、ホロの穴に入って以来、
ふたつだけで歩くのは初めてでした。
ココを穴に入れ、意気揚々とホロは歩きます。
「あ、ほら。雲がココに似てる」
「あんなにまるくなくなっちゃったよ」
「そんなことないよー。ココはまるいよ」
「ホロもね、まるいよ」
歩きながら雲を見て、
いろんな“カタチ”を指さしながら、
二人は川の土手へ向かいました。
⸻
道中、あの口の悪い“マル”と出会いました。
「お、お二人さん、仲いいね」
「……こんにちは」
ホロが答えます。
ココは、あの夜のことをホロには伝えていませんでした。
「“あなあき”と“ひびわれ”。お似合いだな」
ホロにまで、なんてことを言うんだ——と、
ココは言い返そうとしましたが——
「ほんとに!? ありがとう!」
珍しくオトとココ以外の“カタチ”とハキハキ話すホロに、
ココは目を大きく開けました。
同じく目を大きくした口の悪い“マル”も、
「お、おう……。よく似合ってるよ」
とだけ言って去っていきました。
⸻
土手に着くと、ココが言いました。
「ありがとうって?」
「え? 変だった?」
クスクスと、ココは笑いました。
「仲間って言われた気がして」
「あの“マル”の?」
「ちがうちがう! “あなあきホロとひびわれココ”」
「悪口じゃない」
「悪口か。そうだね……お礼言っちゃったよ!」
「いいからいいから」
ココはまたクスクスと笑いました。
「穴があいてからふたつで呼ばれたの、初めてで」
「ホロとココみたいに?」
「“あなあきとひびわれ”だったけど」
今度はホロもココも、声を出して笑いました。
⸻
「あまりに“カタチ”が違うと、仲間になれるのかな?」
「“カタチ”が壊れた仲間かな?」
ホロはココを穴に入れたまま、ゴロっと斜めになりました。
「それだとオトが入れないよ?」
「オトはこの国でひとつだけど、壊れてないから」
「だから、同じ“カタチ”が居ない仲間だ」
「そんなの初めて聞いたよ」
ホロとココは、
あとでオトにこの話を聞かせようと決めました。
「オトはどんな顔するかな?」
穏やかに、川の光の反射と風を見て、
いつもより少し早く帰るのでした。

【つづく】
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🕊️ 作者プロフィール
心の余白に、物語を。
少し昔の話、どこにもない国の話を紡いでいます。
物語の見やすさや挿絵には、AIの力を少し借りています。
言葉の奥にある“やさしさ”を、ひとつずつ形に。
