#110 Official髭男dism「I LOVE…」に潜むJポップ×ブラックミュージックの美学
導入──耳がほどける瞬間 🎺🎵
音楽を聴いていて、「あ、これは特別だ」と心が引っかかる瞬間がある。Official髭男dismの「I LOVE…」には、その引っかかりがいくつも仕掛けられている。特に、イントロから1番サビに至るまでの流れは、彼らの音楽的アイデンティティを凝縮した“物語”の最初の数ページだ。
この曲は、Jポップのメロディ・感情の豊かさと、ブラックミュージック(ソウル、R&B、ファンクなど)のグルーヴ感を、まるで異なる絵の具を同じパレットに広げるようにつなぎ合わせている。楽器経験者なら、コード、リズム、音色の選び方からその意図が見えてくるはずだ。音楽好きのあなたなら、たった数小節でもこの曲の世界観に引き込まれることだろう。
背景──ヒゲダンが歩んできた音の交差点
Official髭男dismは、2010年代後半に急速に人気を拡大したバンドだが、彼らの根っこには“黒い”音楽の香りがある。ブラックミュージックは、ジャズを源流にし、ソウル・ファンク・R&Bへと進化し、その後世界中のポップスに吸収されてきた。
特に「I LOVE…」のような楽曲には、70〜80年代ソウルのホーンアレンジや、都会的なR&Bのコード進行が息づいている。メロディの親しみやすさ、歌詞の情緒、サウンドの洗練——これらが同居するのは、ヒゲダンがブラックミュージックの理論と感覚を消化したうえで、日本語ポップの文脈へ再構築しているからだ。
この曲がリリースされた当時、ストリーミングの時代はすでに成熟し、世界中の音楽が瞬時にアクセスできる環境が整っていた。だからこそ、日本のポップバンドが世界水準の音色感覚を持ち込み、国内外の耳を引き寄せることが可能だったのだ。
ジャンル間のつながり──イントロとサビの“異例の演出”
イントロ:ゆるやかなテンポと、立ち上がる勢い
「I LOVE…」のイントロは、不思議な二面性を持っている。テンポそのものは落ち着いているのに、ホーンセクションのアタックが小気味よく響き、聴き手は「さあ、始まるぞ」という勢いを感じる。この感覚は、ジャズやソウルでよく見られる“スローバーン”のアプローチと通じる。
ホーンは単なる装飾ではなく、楽曲の空気を決定づける要素だ。アレンジ的にはドラムやベースと連動しながらアクセントを付け、コード進行の中で緊張感と解放感を小刻みに与えている。これによって、曲が動き出すのを心が予感し、次の展開への期待が高まる。
楽器経験者なら、このイントロがシンプルなようでいて動的な構造を持っていることに気づくだろう。例えばホーンの和音構成はポップス的明るさとR&B的な色の濃さを兼ね備えており、休符の置き方によって“間のグルーヴ”を生み出している。
1番サビ入り:大胆な“引き算”の魔法
多くのポップスでは、サビに入る瞬間は音数・リズム・勢いを最大化する。しかし「I LOVE…」は逆だ。1番サビの入りで、ドラムのキックとスネアが消える。残るのは歌とコードを支える最低限のサウンドだけ。
この“引き算”は、緊張の糸を一度緩め、歌詞の感情をまっすぐ聴き手に届ける効果を持つ。同時に、ブラックミュージックに見られる“スペースを活かす美学”とも通じる。音が少なくなることで、残された音への注意が集中し、わずかなニュアンスも豊かに感じ取れるようになる。
リズムセクションが薄くなるサビの冒頭は、日本のポップスではあまり見られない手法だ。これは、ヒゲダンが“物語の展開”として音楽を構造化している証拠だろう。サビ後半に向けてリズムを再び立ち上げることで、音楽は一気に加速し、聴き手の心を掴んで離さない。
ブラックミュージックとJポップが交差するポイント
コード進行の選び方:メジャーとマイナーを滑らかに行き来し、感情の陰影を演出
リズムの間合い:16分音符の細かい刻みと休符の配置が独特の呼吸感を生む
アレンジのダイナミクス:引き算を用いたサビ導入で歌詞を際立たせる手法
音色の質感:ホーンやエレピの音が暖かさと都会的洗練を両立させる
これらの要素が絡み合うことで、「I LOVE…」はポップスでありながらソウルでもあり、バンドサウンドでありながらシンガーソングライター的な繊細さも持ち合わせる楽曲となっている。
まとめ──聴くたびに見える新しい景色へ 🌈
「I LOVE…」は単なるヒット曲ではなく、ジャンルを超えて音楽の歴史的な文脈を吸収し、再構築した作品だ。イントロのホーンによる温度感、サビ前の大胆な引き算、それらはクラシックな手法と現代的なポップセンスの融合だ。
これをきっかけに、70年代ソウルやR&Bの名曲に触れてみると、「I LOVE…」の中に隠れていた引用や影響が見えてくるかもしれない。そして逆に、「I LOVE…」を聴き直すと、そのニュアンスがより鮮明に感じられるはずです。
音楽を深く聴くことは、過去と現在を何度も往復する旅だ。あなたのプレイリストにブラックミュージックの名曲を数曲加え、その後に「I LOVE…」を再生してみよう。きっと、音の色彩が今まで以上に豊かに広がって聴こえてくるはずです。🎧✨
