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人工衛星をパカッと解剖:中身はまるで「人体の不思議」?

​前回は、宇宙にある人工衛星たちのビジネスモデルを「駅ビルのお店(静止衛星)」と「キッチンカー(周回衛星)」に例えてお話ししました。
身近なお店の構え方や戦略で宇宙の衛星を知ることができるということに驚かれたかもしれません。

さて今回は、その数百億円もする衛星の中身って、一体どうなっているの?というお話をしたいと思います。

「宇宙のハイテクメカだから、きっと最先端の超技術が詰まっているんだろう」

​そう思われるかもしれませんが、実はそんなことはありません。
人工衛星の中身を突き詰めると、私たちが毎日使っている「スマホ」や「パソコン」、あるいは「自動車」や「人の体」と、驚くほど同じ仕組みで動いています。
​今回は、まさにこの人工衛星の設計を担当していた僕が、衛星をパカッと解剖して、その知られざる中身を「自動車」や「人間の体」に例えて分かりやすく解説します。​



人工衛星は「乗り物」と「仕事道具」でできている​

解剖を始める前に、まず知っていただきたい大原則があります。人工衛星は、どんなに複雑に見えても、大きく「2つの部分」にしか分かれていません。​

  • 衛星バス部(乗り物部分): 衛星が宇宙で「生きていく」ための土台

  • ​ミッション部(仕事道具部分): 宇宙へ行った「目的」を果たすための機材

​わかりやすく前回の例えで使ったキッチンカーで言うなら、「トラックの車体(エンジンやタイヤ)」が衛星バス部で、「後ろに載せている厨房設備」がミッション部です。
​気象衛星ならミッション部は「雲を撮る高性能カメラ」になりますし、通信衛星なら「電波を中継する大型アンテナ」になります。

​実は、新しい衛星を作るとき、この「ミッション部(仕事道具)」は毎回新しく開発しますが、「バス部(生き残るための土台)」は、自動車のプラットフォームのように「実績のある既存の型」をベースとするのが、特に高い信頼性が求められる大型衛星開発における世界共通のセオリーです。​

では、衛星が宇宙という過酷な環境で生き残るための土台となる「衛星バス部」を、今度は「人間の体」に例えて主要な5つの臓器(サブシステム)を解剖してみます。


​衛星を形作る「5つの臓器(サブシステム)」

​① 電源系(EPS) = 「心臓」と「食事」

​人間の体で言うなら: 心臓(血液を送り出す)と、食事(エネルギー摂取)

​衛星の左右に大きな翼のように広がっている「太陽電池パドル」。これが太陽の光を浴びて電気を作ります(食事)。
そして、作られた電気は衛星の内部にある「バッテリー」に蓄えられ、すべての機器に24時間、安定した電圧で配られます(心臓)。
電気の供給が1秒でも止まれば、数千億円の衛星はただの「宇宙のゴミ」になってしまうため、様々な異常を考慮し、細心の注意を払って設計されます。

② 姿勢制御系(AOCS) = 「三半規管」と「筋肉」

​人間の体で言うなら: 目や耳の奥の三半規管(バランス感覚)と、姿勢を保つ筋肉(体幹)​

宇宙空間には地面がないため、油断すると衛星はどっちが上か下か分からなくなり、宇宙空間でぐるぐると回転してしまいます。
これでは、カメラを地球に向けたり、アンテナを日本に向けたりできません。

そこで、「加速度センサー」や「星センサー」で自分の向きを正確に把握し(三半規管)、内部にある「ホイール」の回転やスラスタの噴射でピタッと姿勢をコントロールします(筋肉)。​

③ 通信系(TTC) = 「耳」と「口」​

人間の体で言うなら: 耳(人の話を聞く)と、口(自分の状況を話す)

衛星は宇宙にぽつんと浮いているため、地上の管制室と連絡が取れなくなったら終わりです。
地上からの指令(「カメラのシャッターを切れ!」「アンテナを東に向けろ!」)を受け取る「耳」と、今の衛星の健康状態(「現在の温度は20度、バッテリー残量は80%で元気です」)を地上に知らせる「口」の役割を果たします。

​④ 熱制御系(TCS) = 「汗」と「毛細血管」

​人間の体で言うなら: 汗をかく、あるいは血管を伸縮させて体温を保つ仕組み​

​実は、宇宙空間の温度管理は地獄です。太陽が当たるところは「プラス120度」の灼熱、地球の影に入ると「マイナス180度」の極寒になります。
この猛烈な温度変化から精密機械を守るため、衛星は保温材でくるめられており、さらに「毛細血管」のように内部で温度を均一に保つための工夫や、逆に「汗」のように熱を外に逃がすための放熱板(ラジエーター)がついていたりします。

⑤ 衛星制御系(SCS) = 「脳」と「神経」

​人間の体で言うなら: 脳(考えて判断する)と、神経(全身に命令を伝える)

そして、これら4つの臓器すべてを統括し、コントロールしているのが、「衛星制御系」、つまり衛星の「脳」です。
この衛星制御系は、神経のように張り巡らされた配線を使って、全身(衛星全体)をコントロールしています。

この衛星制御系は、僕も数機に渡って設計を担当していた​ことがあります。
衛星全体のコントロールをつかさどるだけあって、衛星の様々な部分・運用へと影響力を持ちます。
ありとあらゆる想定の下でも絶対に大丈夫か、破綻するインタフェースはないか、細心の注意を払って設計を詳細化していました。


プロの設計思想:宇宙には「医者」も「JAF」もいない

​これら5つのシステムが、まるでひとつの生き物のように完璧に連動して、初めて人工衛星は宇宙で機能します。​

ここで、僕たち人工衛星の設計エンジニアが、地上でパソコンや車を設計するときと決定的に違う「頭の使い方の裏側」をひとつだけお話しします。​
それは、「宇宙に打ち上げたら、絶対に修理に行けない」という冷酷な現実です。

​地上のパソコンなら、フリーズしたら「再起動ボタン」を押せばいいですし、人間が体調が悪いと感じたら、病院に行って医者に診てもらいます。
車が故障したら、JAFを呼んで修理工場に連れて行ってもらうことでしょう。

しかし、宇宙に打ちあがった人工衛星は、1つでも想定しない動作が起きてフリーズしたりしても誰も物理的なボタンを押しには行けません。
そのまま永久に連絡が取れなくなります。

​だからこそ、僕たち衛星設計者は、システムを作る際、異常が起きたときのことを死ぬほど考えます。​

「もし、宇宙から飛んできた放射線のせいでメモリのデータ(0と1)が勝手にひっくり返ってバグを起こしたら?」
「もし、姿勢制御のホイールが1つ故障して動かなくなったら?」

​そんなとき、衛星自身が自分で異常を検知し、自動的に予備に切り替えたり、他の方法で姿勢を保ったりして「自律的に生き残る(セーフモードに入る)」ための賢いルール(衛星のシステム要求)を、あらかじめガチガチに設計しておくのです。

​人工衛星の設計とは、単にハイテクな部品を組み合わせる仕事ではありません。
「絶対に人が助けに行けない絶海の孤島で、機械を15年間、一人きりで生き残らせるための知恵比べ」。
それこそが、衛星設計の本質であり、エンジニアの腕の見せ所なのです。

​さて、修理の効かない一発勝負の宇宙ビジネス。だからこそ、私たちは宇宙に打ち上げる前に、地上でこれでもかというくらい「しつこい試験」を行います。
​次回は、宇宙という環境がどれほど「最悪なブラック環境」なのか、そしてそのブラック環境に耐えるために、愛ゆえに厳しい試験を繰り返す「環境試験」の舞台裏をお話しします。​



また、今回も記事で書ききれなかった、ディープな衛星制御系の話を下記の通り別記事で公開しています。こちらもどうぞ!

(本投稿は、画像や文の一部に生成AIを使用しています。)

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