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取次がいよいよ「撤退」する!?――衝撃ニュースから考える出版社の未来

フォレスト出版編集部の寺崎です。

今週月曜日、目にしたニュースの一文に衝撃を受けました。

29日の決算記者会見で富樫建社長は「取次事業の撤退も検討しなければならない環境が迫っているという危機感を持っている」と述べた。

日本経済新聞 2026年6月1日記事より

国内に2社しか残っていない大手取次の、大きいほうのトップが、取次事業からの撤退も検討せざるをえない――そういう趣旨の強い危機感を、公の場で口にしたんです。

これ、業界に静かな冷気が走ったんじゃないでしょうか。

「危機感を持っている」という言い回しだから、「明日からやめます」という話ではありませんが、額面どおりに受け取らないほうがいいのと同じくらい、軽く受け取ってもいけない気がします。

社長が決算会見という最もフォーマルな場で「撤退」という単語を選んだこと自体が、これまでとフェーズが違うことを示しています。

そこで、まずは出版業界に何が起きているのか、今後どんな展開が予想されるのか。そして、われわれ出版社はどう立ち回るべきなのか。今日はそのあたりを考えてみたい。

【念のため補足】
取次(とりつぎ)とは、出版社と書店のあいだに立つ卸売業者のこと。出版社が作った本を全国の書店に運び、どの書店に何を何冊置くか(配本)を差配し、さらに本が売れる前に代金を立て替える――いわば物流と金融の両方を一手に担う重要な存在。日本の出版流通は、長くこの仕組みに支えられてきた。そして全国規模の取次は、いまや実質二社(トーハン・日販)しか残っていない。その一社が「撤退」を口にした、というのが今日の話の前提になる。

※本記事は編集部・寺崎個人の見解で、社としての公式見解ではありません。


まず、数字で何が起きているかを見る

両社とも、本業が赤字に沈んでいます。

日販は最終損益が20数億円の赤字に転落し、取次事業の部門損益はさらに悪化。全社売上高は1割減。トーハンも前年の黒字から最終赤字に転落し、早期退職にともなう特別損失まで計上しています。

取次が苦しむ理由は3つ。

❶輸送コストの上昇
❷書店数の減少
❸返品率の高止まり

これらが同時に効いて、薄利のビジネスモデルを二期連続で押し下げているというわけです。

一方、販売の最前線である書店の現実はもっと容赦ありません。

全国の書店店舗数は1年で約4%ずつ、止まる気配なく減り続けています。小型店にいたっては、この20年でほぼ半減した。書店が1軒もない自治体は、すでに全国の3割近い。

過去10年の減少ペースがこの先も続けば、書店数は10年後の2034年には約6200店。2024年度比で約4割減になる計算です。

こうなると、店頭流通の前提は大きく変わってきます。

ただ、ここで一つの仮説を立てたい。

書店の減少によって「面(売り場)が消える」こと。それは、すなわち「本が売れなくなる」とはイコールではないんじゃないか。街の書店を支えていたのは雑誌とコミックで、その雑誌が崩れたことが減少の主因です。書籍そのものの需要が同率で消えたわけではない。

真の問題は、書棚という「読者と本をつなぐ発見装置」が縮んでいくこと。つまり、本当の恐怖は「売れない」ではなく、「読者と本を出会わせる場所がなくなる」ことのほうにあるのではないか。

そう考えると、まだ希望を見出せる気がします。

出版社の屋台骨は取次のレールの上にある

他社さんの事情は詳しくはわかりませんが、中堅のビジネス書版元の典型を例にとると、売上のおよそ8割はいまだに紙=取次経由というのが現状ではないでしょうか。電子化率が100%、つまり全点を電子で出せる体制が整っていても、ビジネスの本体は紙のレールに乗っているわけです。

だからこそ「取次の撤退検討」は他人事では済まされない。そもそも取次が出版社に提供してきたものを改めて分解してみると、次の3つの機能に出版社はこれまで救われてきました。

1つは「配本」――全国の書店に本を届け、どこに何冊置くかを差配する流通機能。2つめは「返品の吸収」――売れ残りを引き取り、精算する仕組み。そして3つめが、いちばん見えにくく、いちばん効いている「金融機能」です。

取次の「金融機能」とは、どういうことかというと・・・取次は、本が売れる前に代金を立て替えてくれます。出版社は、刷った時点で当座の現金を手にできる。多くの版元が「次を刷るための資金繰り」を、この立て替えに支えられてきました。ゆえに「自転車操業」状態に陥る出版社が多いわけですが、こういう特殊な業界構造が戦後数十年かけて構築されてきた、と。

で、取次の撤退、あるいは縮小が意味するのは、この3点セットが薄くなるということです。配本が細れば、書店の棚に自社の本が並びません。返品の受け皿が変われば、在庫リスクが自社に返ってくる。そして金融機能が縮めば、規模の小さい版元ほど、黒字でも資金繰りで足をすくわれる。

もっとも怖いのは最後の「金融機能の縮小」です。中小出版社にとっては赤字そのものより、現金が回らなくなることのほうがよっぽどヤバい。もともと黒字倒産が多いのも、この業界の特徴です。

「取次・書店がダメなら直販すればいい」という発想の落とし穴

そこで、逃げ道として真っ先に挙がるのが「直販」です。つまり、取次や書店を通さず、読者に直接売る、という発想です。

方向は、正しい。ところがこれ、「じゃあ、直販すればいいじゃん」と言うほど、話は簡単ではないんです。

落とし穴が2つ。

1つ。電子に逃げても、それがネット書店経由なら、構造は何も変わらないという落とし穴です。取次という中間者を、Amazonなどの巨大プラットフォームに置き換えただけになる。しかもそちらのほうが、価格の支配力も、「どの本を読者の目に入れるか」という発見の支配力も強い。粗利を抜かれ、入金サイトを握られ、顧客データも握られる。むしろ、取次のときより状況は悪化するかもしれません。

2つめ。取次と書店は、本を運ぶだけでなく、棚という"発見の場"を通じて集客まで肩代わりしてくれていました。直販に振るということは、その集客コストを、いままで他人が払ってくれていた分も含めて、まるごと自社でかぶるということになります。やはり、なんだかんだいって「書店」という集客装置は存在としてデカい。

現時点での一つの解――サンマーク出版の挑戦

直販の難しさを踏まえたうえで、それでも具体的な解を立ち上げているのがサンマーク出版さんによる自社運営の電子書籍ストア「本とTREE BOOK STORE」です。

最大の特徴は、LINEの中で本が読めるという点。専用の端末も新しいアプリもいらず、いつも使っているLINEのトーク画面のメニューから、そのまま電子書籍が読める作りになっています。10万人を超える公式LINE「本とTREE」の読者基盤をベースに購入と読書の機能をつないだ形になっています。

読者との接点を自社で持つという点において、先に挙げた直販の二つの課題――中間者に顧客を握られること、集客を丸ごと自社でかぶること――に、正面から向き合った一つの到達点といえるでしょう。

今後、予測される4つの残酷なシナリオ

では、今後どうなっていくのか。正直、予測は難しいので、おおまかな見取り図だけ整理してみたい。

シナリオ①:緩やかな収縮・延命
取次は撤退せず、縮みながら生き延びる。代わりに、物流費の一部を出版社と書店に転嫁し、返品リスクを抑える責任販売制が広がる。配本は細るが、インフラとしては崩壊しない。いちばん穏当で、いちばん起こりそうな未来。ただし出版社にとっては、じわじわとコスト負担が増えていく未来でもある。

シナリオ②:取次の再編・実質一社化
2社が物流を統合するか、片方が取次機能から退く。全国配本のインフラが実質1本に集約される。効率は上がるが、出版社から見れば交渉相手が消え、条件を一方的に飲まされる立場に近づく。

シナリオ③:プラットフォーム化
主戦場が、ネット書店・電子・そして出版社直営ストアに移る。取次は物流専業に縮むか、消える。ここでは「直接読者を握れる出版社」と「握れない出版社」が、はっきり二極化する。前者は生き残り、後者は新しい中間者(巨大ECや先行版元のストア)に顧客を預けたまま、利益を抜かれ続ける。

シナリオ④:出版社の業態転換
本を売る業から、知見とIPを売る業へ。法人向けの研修・教育、著者を軸にしたビジネス、サブスクリプション。本そのものは商品の主役ではなく、信用と関係をつくる"入口"になる。

最後のシナリオは最も遠い未来に見えて、ビジネス書・実用書の領域では、最も現実的な未来のような気がします。

この方向を最も先鋭的に進めた例が漫画の世界にあります。集英社の「少年ジャンプ+(プラス)」です。少年ジャンプ+は、無料連載で作品を発見・育成し、単行本・アニメ・ゲーム・海外版権へと一つのIPを多面的に回収していて、もはや旧来の出版社のビジネスモデルを脱却しています。「本」は、巨大なIPビジネスの入口にすぎません。

出版社が生き残るための3つの打ち手

未来は読めない。だけど、4つのどのシナリオが来ても、「少なくともこれだけは言える」という打ち手はあるかもしれない。

読者と直接つながり、その関係を資産にする
配本網が細っても、ネット書店に顧客を握られても、自社の手元に残る読者リストと著者のファンだけは、誰にも奪われません。

返品ゼロ・前受けの売上比率を上げる
電子も直販も法人取引も、共通するのは「返品がなく、現金が先に入る」こと。取次の支払い条件が変わっても、ECの入金サイトに縛られても、ここが厚ければキャッシュフローは守られます。黒字でも資金繰りで死ぬ業界で、これは貴重な命綱となるはず。

本を「商品」から「IP・入口」に位置づけ直す
1冊1冊の損益ではなく、著者という資産の生涯価値で考える。本の外側に、講座も法人需要も版権も広がる。これができる版元から、順に強くなるかもしれない。

70年に一度の「冬」の時代?

フォレスト出版の看板著者でもある神田昌典さんが「時代は70〜80年周期で変化する」という説を唱えています。要は1つの世代が交代するサイクル。

日本の近代史でみると、明治維新の終結が1877年、その68年後が太平洋戦争の終結である1945年。そして次の節目が2015年です。

この歴史的な周期の仮説に当てはめると、いまの取次の軋みは異常事態ではなく、暦どおりです。現在の取次体制は戦後の1949年に整えられたから、2026年でちょうど77年。制度の耐用年数に、正確に達しています。

取次が「撤退」を口にしたこの日は、出版の終わりの記録としても読めますが、次の70年の最初の1ページとしても読める。どちらの物語になるかは誰にもわかりませんが、冬の時代(=春の予感?)であることは確かであり、時代の転換点の真っ只中にいると考えるとワクワクしてきます。

【音声解説はこちら】

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