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30年前のバッグがふたたびブレイクする理由――リバイバルには「3つの型」がある

フォレスト出版編集部の寺崎です。

先日、『プラダを着た悪魔2』の映画感想文で、アン・ハサウェイが劇中で使用したオールドコーチのバッグを取り上げました。

30年前に作られたバッグが、新しい映画に登場した瞬間、別の価値を持ちはじめる。

この現象がとても痛快で面白く感じたので、似た事例がないか調べてみました。すると、世の中で「リバイバル」と呼ばれているものは、よく見ると大きく三つの型に分かれることに気づきました。


型①「外側の物語」が引き金を引く

『プラダを着た悪魔2』のオールドコーチはまさにこの型です。古いモノが、映画やドラマという「外からやってきた物語」に偶然乗って、一気に再評価される。

この型の事例で面白いものがありました。

ケイト・ブッシュの「神秘の丘(Running Up That Hill)」という曲です。

この曲が発表されたのは1985年。それがNetflixの人気ドラマ『ストレンジャー・シングス』シーズン4(2022年)で印象的に使われたことで(マックスが墓場でぶわーーーっと宙に浮くシーン)、世界中で再ブレイクしたのです。

全英シングルチャートでは、なんと1位を獲得。これはケイト・ブッシュにとって1978年のデビュー曲以来、実に44年ぶりの首位で、リリースから首位までの最長ブランク記録でもあります。アメリカでもキャリア初のトップ10入り(最高8位)を果たしました。

これまた痛快な後日談があります。

データ会社ルミネイトの試算では、再ブレイク後のわずか1か月ほど(2022年5月末〜6月下旬)で、この曲は推定およそ230万ドル——日本円で3億円規模のストリーミング印税を生んだと報じられました(CBS、Fortune ほか)。しかもケイト・ブッシュは原盤権を自身の独立レーベルで保有しているため、その大半が彼女自身の取り分になるとみられているそうです。

この型の本質は、「受け手は古さを探していたわけではない」という点にあります。物語のほうが、向こうから引き金を引いてくる。だから作り手にはコントロールできない。半ば事故のように、再評価が起きる。なので、再現性はありません

型② 受け手が「古さ」を読み替える

二つ目は、特定の起爆剤がないのに、受け手のほうが集団的に「古いこと」を新しい価値として読み替えていく型です。

代表例はビルケンシュトックです。

ビルケンシュトックといえばドイツの健康サンダル。あることをきっかけに入手困難のステータスシンボルになったのですが、このことを「映画『バービー』で火がついた」と語られますが、順番は逆のようです。

ファッションの側がこのサンダルを発見したのは、ずっと前。きっかけは、発売から20年の1993年、マーク・ジェイコブスがグランジをテーマにしたコレクションで、自ら買ったビルケンシュトックの定番モデル「アリゾナ」をランウェイに出したことでした。広告でもコラボでもなく、「本物だから格好いい」とデザイナーが勝手に見初めた。そこから2019年以降のラグジュアリーブランドとのコラボ、コロナ禍の在宅需要、セレブの着用が積み重なって、再評価は数十年かけてじわじわ育っていったという。

ここで型①の話とつながります。2023年の映画『バービー』で、ビルケンシュトックが“人間界”の象徴として登場したのは、この長い助走の「後」でした。しかもビルケンシュトック自身は映画の有料スポンサーの誘いを断り、ただ商品を送っただけ。監督のグレタ・ガーウィグは脚本の段階から、「アリゾナでなければ、バービーの“変化”は描けない」と考えていたといいます。つまり、映画がビルケンを有名にしたのではなく、すでに「本物」という意味を溜め込んでいたから、映画がそれを使えた。

つまり、①の物語が乗れたのは、②が先に意味を貯めていたから。リバイバルの型は、しばしばこうして重なります。

似た現象は、ほかにもあります。

若い世代に人気の「写ルンです」のようなフィルムカメラ、今や高級品のアナログ・レコード、ひと昔前なら野暮ったいとされたダッドシューズ、ただのアウトドア用水筒だったはずのスタンレーのタンブラーの爆発的ヒットなど、数え切れません。

なかでもスタンレーは痛快で、ほぼ廃番寸前だった無骨な水筒を、女性主導のレビュー集団「The Buy Guide」が「これは売る相手を間違えている」と読み替えたのが発端でした。中身はほぼ同じカップのまま、新色とSNSの後押しだけで、会社の利益は2019年の約7000万ドルから2023年には推定約7.5億ドル(!)へ跳ねています。

これらに共通するのは、不便さや粗さ、手触りといったものが、「本物っぽさ」「味」として読み替えられていくことです。デジタルで何もかもが滑らかになった反動として、わざわざ手間のかかるものを選ぶ——ここにも近年顕著になった「デジタル飽和」の裏返し現象が見られます。

これって、文明クラスで眺めると「再流行」というより、「価値観の地殻変動」に近いかもしれません。ただし、これも再現性があるかと言われれば、黙ってしまうところ。

型③ 作り手が意図して「文脈」を変える

そして三つ目。これは①②と決定的に違います。運や偶然ではなく、作り手が意図的に文脈を変えて、眠っていた価値を甦らせる型です。

鮮やかな例が、皆さんおなじみのワークマンです。

もともとは現場の職人向けの作業服専門店。機能性は高いのに、一般の消費者からは「おじさんの作業着」として、ほとんど無視されていた。ところが2018年、同社が一般向けの新業態「ワークマンプラス」を立ち上げたとき、そこに並べたのは新商品ではありませんでした。既存の約1700種類の商品から、一般受けしそうなアウトドア系の約320品を選んで並べただけ(同社は公式に「ワークマンとワークマンプラスは100%同じ製品です」とまで言い切っている)。

では何を変えたのか。
売り場と、見せ方だけ。

作業着がぶら下がる無骨な棚の代わりに、マネキンを立て、内装を木目調にし、スポットライトを当て、手に取りやすい低い陳列にした。それだけで、同じ作業着が「機能的でおしゃれなアウトドアウェア」に見えはじめた。結果は大ヒットで、「ワークマン女子」という流行語まで生まれました。

モノは、1ミリも変えず、変えたのは、置かれた文脈だけ。眠っている価値、あるいは「ダサいもの」として視界の外に追いやられていた価値を、文脈を差し替えるだけで表舞台に引っぱり出せる。これは、どんな業界でも工夫次第で再現できるやり方かもしれません。

リバイバルの3つの型の共通項

3つの型を並べてみて、共通点にひとつ気づきます。

どの例でも、モノそのものは何も変わっていないという事実です。

コーチのバッグ、ケイト・ブッシュの曲、ワークマンの作業着……。

ぜんぶ中身は当時のまま。変わったのは、それを見る角度であり、たまたま乗った物語であり、置き直された文脈のほうです。

そう考えると、自分の身のまわりにも——本棚にも、クローゼットにも、もしかしたら頭の中の引き出しにも——まだ値段がついていないだけの「オールドコーチ」が、案外たくさん眠っているのかもしれません。

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