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エンジニアの経験年数は、等級を決めていない|求人339件とITSS原典で確かめたジュニア・ミドル・シニアの境目

シリーズ第3回です。



「実務経験3年以上」と書かれた求人を、339件読んで数えました。

そのうち肩書きつきの求人だけを取り出して、要求している年数と肩書きをクロスさせたところ、「3年」がジュニア・ミドル・シニア・リードの4階層すべてに出てきました。

ジュニア職で「開発経験3年以上」を必須にしている求人と、シニア職で「いずれか1年以上」で足りる求人が、同じ媒体に並んでいます。

第1回で、ジュニア・ミドル・シニアという区分に公的な定義はない、と書きました。第2回では、求人票に書かれていることと実態がずれている話をしました。

今回はその2つが交わる場所です。

こんな人に向けて書いています

  • 「実務経験3年以上」の求人に応募していいのか迷っている方

  • 自分がジュニアなのかミドルなのか、判断がつかない方

  • 次に何を経験すれば一段上がるのかを知りたい方

結論を先に3行

  1. 求人票の年数は、階層とほぼ無関係に使われています

  2. 公的な等級は、年数ではなく「回数」「監督の度合い」で測っています

  3. 壁は「独力でできるか」ではなく、「課題を自分で見つけられるか」にあります




同じ「3年」が、4つの階層すべてに出てきます

まず実際の求人から見ます。肩書きつきのエンジニア求人86件のうち、必須要件に年数が明記されていた55件を集計しました。

最低要求年数×肩書きのクロス集計

数字を文章でも置きます。要求年数「3年」はジュニア1件・ミドル5件・シニア13件・リード6件。4階層すべてに登場しています。 そして「シニア」の要求年数は、1年から10年まで10倍の幅で散っていました。別の媒体で同じ検証をしても、幅はほとんど縮みません。

もうひとつ、媒体によって年数の使われ方がまったく違いました。年数を必須要件に書いている割合は、ある大手媒体の技術職で19.7%、一方でハイクラス媒体のシニア系求人では81.8%。**年数は「上位求人の言語」**です。未経験歓迎の求人が多い媒体ほど年数を書かず、年収の高い求人ほど年数で線を引いています。

そして、年数を書いている求人70件のうち、「何ができればよいか」も併記していたのは23件(32.9%)だけでした。残りの67.1%は、年数だけで能力を語っています。 さらに26.7%の求人は、年数も能力も書かず、技術名が並んでいるだけです。必須要件欄の文字数は中央値で115文字。この長さで、応募していいかどうかを判断することになります。

求人票を読むとき、実際に見ている点 「実務経験3年以上」を見たら、まず「何を3年やった人を想定しているか」が書いてあるかを探します。書いていなければ、年数の条件はそれ以上考えません。そのかわり、業務内容の欄に出てくる動詞(設計する、レビューする、決める、など)を数えます。求める階層はそちらに出ます。


公的な等級は、年数を使っていません

では、年数でないなら何なのか。国のものさしを見ると、答えが書いてあります。

IPAの「ITスキル標準(ITSS)」は、7段階のレベルを定めています。原典の要旨はこうです。

  • レベル1:情報技術に携わる者に最低限必要な基礎知識

  • レベル2:上位者の指導の下に、要求された作業を担当。基本的な知識・技能

  • レベル3:要求された作業を全て独力で遂行。応用的な知識・技能

  • レベル4:独力で業務上の課題の発見と解決をリード。経験の知識化とその応用(後進育成)に貢献

  • レベル5〜7:社内、社内外、市場全体へと、創造とリードの範囲が広がる

7段階のどこにも、経験年数は出てきません。

そして重要なのが壁の位置です。レベル3の時点で、すでに「要求された作業を全て独力で遂行」しています。 ですから壁は「独力でできるかどうか」ではありません。壁はレベル3と4のあいだにあって、その中身は**「与えられた作業を独力でこなす」から「課題を自分で見つけて解決をリードし、人を育てる」への転換**です。

もうひとつ、ITSSの測り方そのものが示唆的です。この標準は達成度を**「〈回数〉以上、成功裡に達成した経験と実績を有する」**という形で記述しています。年数ではなく回数です。 3年在籍していても、任された案件が1つなら1回です。

なおIPAの原典には、ITSSは基準や仕様ではなく参照モデルであり、人事制度上の役職を表すものではない、という留保も明記されています。これは会社の等級表ではなく、ものさしです。


英国の枠組みも、同じ場所に壁を置いています

面白いのは、日本だけの話ではないことです。

IPAは、ITSSの7段階が英国のスキル標準であるSFIAなどを参考に定められたと明記しています。そこで現行のSFIA 9を確認しました。

ITSSとSFIAの対応

SFIAも7段階です。レベル1はFollow(近接した監督のもとで定型作業)、レベル2はAssist(通常の監督のもと、定型的な問題には自分の裁量)、レベル3はApply(標準的な手法を用い、一般的な指示のもとで自分の裁量で仕事を進める)、レベル4はEnable(他者を支援・指導し、必要に応じて任せ、一般的な指示のもとで自律的に働く)。

全レベルが「監督の度合いと責任の範囲」だけで定義されていて、年数の記述は一つもありません。 そして壁の位置がITSSと一致します。レベル3から4へ上がるところで、「自分の仕事をする」から「他者を支援・指導する」に切り替わる。

米国の実務側も見ておきます。エンジニアの等級データを集めているlevels.fyiは、ソフトウェアエンジニアに企業横断の標準的なレベル体系は存在しない、と冒頭で明言しています。標準がないのは日本固有の問題ではありません。 そのうえで、企業を横断して共通に現れる評価軸として3つを挙げています。曖昧さ(ambiguity)、スコープ、インパクト。 年数への言及は入社直後の階層にしかありません。

表:年数の代わりに何を見ているか

日本のITSSは「回数」、英国のSFIAは「監督の度合い」、米国の実務は「曖昧さ・スコープ・インパクト」。別々に作られた3つが、揃って年数を使っていません。 経験年数が等級を決めていない、というのは意見ではなく、公的枠組みの設計そのものです。


いま、ジュニアの入口で起きていること

もうひとつ触れておくべき話があります。

スタンフォード大学のデジタル経済ラボが、給与データをもとにした調査の改訂版を2026年8月に公表しました。そこでは、AIの影響を受けやすい職種において、22〜25歳の雇用が、影響の小さい職種の同年代と同じペースで伸びた場合に比べて19%低い、と報告されています。同じギャップは経験者には出ていません。

米国のソフトウェア開発者の雇用水準・年代別

ソフトウェア開発者に絞ると、より鮮明です。2022年11月を基準にした2026年半ばの雇用水準は、22〜25歳が約20%減、対して41〜49歳が約20%増。同じ職種のなかで、年代が正反対に動いています。

いくつか留保が必要です。これは米国のデータで、日本にそのまま当てはまるとは限りません。 著者自身も因果関係の証明ではなく早期の記述的な指標だと位置づけています。加えて、減少の中身は離職ではなく採用の減少で、給与のほうは下がっていません。

日本側の数字も並べておきます。Googleトレンドで直近5年を前半と後半で比べると、「未経験 エンジニア」の検索は約25%減り、「経験年数」は約32%増えています。求人件数でも、あるハイクラス媒体では「ジュニアエンジニア」22件に対して「テックリード」1,368件でした。日本のハイクラス市場にも、入口に当たる求人はほとんどありません。

読み方として大事なのは、これが「経験の浅い人は不利」という話ではないことです。閉じかけているのは「作業を割り振られて覚える」という入口です。ITSSでいえばレベル2の場所で、AIが最も置き換えやすい領域と重なります。逆に、レベル3から4への壁——課題を自分で見つけてリードする部分は、年数を積むだけでは越えられないかわりに、AIにも代わられにくい場所です。


では、何を確かめればいいか

自分がどのあたりにいるかを判断するなら、年数を数えるより次の3つのほうが早いです。

  • 回数:同じ種類の仕事を、最初から最後まで何回やり切ったか

  • 監督の度合い:どこまでを自分の裁量で決め、どこから確認を取っているか

  • 範囲:自分の担当分だけか、他の人の仕事も含めて考えているか

そして、この3つの答えは自己申告では確かめられません。社外の基準で測ってもらう必要があります。 転職するかどうかとは別に、いまの自分がどの階層の求人に当たるのかは、市場側から見たほうが正確です。前回書いたとおり、条件面まで含めた求人情報の多くはエージェント経由でしか見られません。応募するかどうかを決める前の、位置確認として使えます。

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まとめ

「実務経験3年以上」という条件は、ほとんどの場合、階層を意味していません。同じ3年が、ジュニアの求人にもリードの求人にも書かれていました。書いている側も、年数で何を測っているかを説明していないことのほうが多い。

そのかわり、公的なものさしのほうは、測るものをはっきり決めています。ITSSは回数、SFIAは監督の度合い。どちらも、次の段階に上がる条件を「独力でできること」ではなく「課題を自分で見つけ、人を育てること」に置いています。

年数は勝手に増えますが、回数は自分で増やせます。次に一段上がるために必要なのは、たぶんもう1年ではなく、もう1回です。

次回は、その「回される仕事」の中身が、日系SIerと事業会社と外資でどう違うかを扱います。同じエンジニアという肩書きでも、任される範囲が構造的に違います。


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次に読む

  • 日系SIer・事業会社・外資はどう違うのか|同じ「エンジニア」の中身(第4回)

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参考にした一次情報

  • IPA「ITスキル標準(ITSS)とは -ものさしとしてのスキル標準」レベルの概念

  • IPA「ITスキル標準 キャリアフレームワーク」

  • SFIA Foundation「SFIA 9 Levels of responsibility」

  • levels.fyi「Software Engineer Level Framework」

  • Stanford Digital Economy Lab「Canaries in the Coal Mine?」2026年8月版(米国データ)

  • Google トレンド(日本・ウェブ検索)

  • 求人媒体の公開求人ページ 計339件(2026年8月取得)


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