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体重は脂肪ではない。ノイズ付き観測値である【制御ダイエット理論③】

第0章:その0.8kg、本当に太ったのか?

朝、体重計に乗る。

82.3kg。

昨日は81.5kg。

+0.8kg。

昨日は飲み会だった。炭水化物も塩分も摂った。

「やっぱり太った。」

そして人は動く。

  • 今日から削る

  • 有酸素を増やす

  • 夜は抜く

  • 取り戻そうとする

ここでひとつだけ冷静に考えてほしい。

脂肪1kg増えるには約7,000kcalの余剰が必要だ。

昨日1日で7,000kcal余分に食べただろうか?

ほとんどの場合、違う。

増えているのは脂肪ではない。

  • 水分

  • 塩分保持

  • グリコーゲン

  • 消化管内容物

あなたが見ているのは脂肪ではない。

脂肪+ノイズの合計値である。

今回は、日々の体重で一喜一憂することの無意味さを、
数理的に示す。


0.1 本稿の前提(データについて)

本稿は思想ではない。

実測ログの解析である。

使用データ:

  • 体重ログ:240日分(午前計測のみ採用)

  • 欠測日はカルマンフィルタで自然補間

  • 曜日効果は回帰で除去

  • 有酸素運動はStravaで全記録(ロードバイク中心)

  • 3時間以上または60km以上を「強イベント」と定義

  • 会食・旅行等は手入力で全記録

運動は基本的にすべてStravaに記録しているため、
逆イベントの抽出に恣意性はない。

順イベント(会食・旅行)も、
後付けではなく当時のログを使用している。

解析は再現可能である。

本稿で扱うのは

「単日の観測値にどう向き合うか」という問題である。

長期的な設計変更(食事構成、運動頻度、塩分管理など)は体重トレンドを変え得る。

本稿はそれを否定しない。

しかし、単日の体重変動に反応して設計を変更することは、統計的にも制御理論的にも合理性を持たない。

本稿はその構造を示す。


第1章:制御の前に「設計」がある

ダイエットは意思の問題ではない。

ダイエットは設計問題である。

まず決めるべきは:

  • 目標体脂肪率

  • 目標減量速度

  • 1日の総摂取カロリー

  • PFC(CPF)バランス

これが設計。

設計なき制御は破綻する。

カロリーも決めず、PFCも管理せず、

「増えたから削る」は制御ではない。

ただの反射だ。


第2章:イベントとは何か?

ここで重要概念を定義する。

本稿では日々の体重で一喜一憂することの無意味さを証明することが目的である。

そのため、日々の体重で一喜一憂しやすいポイント「イベント」に着目した。

2.1 順イベント(plusイベント)

体重が一時的に増える方向に働くイベント(外乱)。

例:

  • 会食

  • 飲み会

  • 旅行

  • 元旦

  • 忘年会、新年会

おそらく脂肪ではなく、主に水分・塩分・消化物による増加。


2.2 逆イベント(minusイベント)

体重が一時的に減る方向に働く外乱。

例:

  • 長距離サイクリングなどの長時間有酸素運動

  • 強い発汗

僕のStravaにあるサイクリングログより

  • 3時間以上

  • または60km以上

を逆イベントと定義。

重要なのは、

これらは脂肪変化ではなく、
水分変化による急減が多いという点である。



第3章:体重は2つの状態の合成である

ここでやることは単純だ。

体重を「分解」する。

なぜか?

体重をそのまま扱うと、
脂肪と水分が混ざって見えるからだ。

脂肪を見たいのに、水分の揺れを見てしまう。

だから、

  • ゆっくり変わるもの(脂肪)

  • 速く揺れるもの(水分)

を数学的に分ける。

これを最も単純な形で書くと、次のような状態モデルになる。

この式は難しそうに見えるが、
言っていることはこうだ。

  • x_fat:脂肪の流れ

  • x_fluid:水分の揺れ

  • y_t:体重はその合計

つまり、

体重は1つではなく2つの流れの合成である。

ここで ρ < 1 は、水分外乱が時間とともに減衰することを意味する。
つまり、水分変動は自己回帰的に消えていく揺れとして扱える。


第4章:240日ログを“推定”する

体重は観測値であって状態ではない。

本当に知りたいのは「脂肪量」という状態だ。

しかし脂肪量は直接観測できない。

したがって、観測体重から状態を推定する問題になる。

ここでやっているのは、

本当に脂肪がどう動いているかを推定すること。

観測体重はノイズを含む。

だから直接見ない。

カルマンフィルタという手法を使い、
「見えない脂肪状態」を推定する。

まず、観測体重と推定脂肪状態を重ねてみる。
この図を見ると、体重の揺れの正体が分かる。

Fig1 観測体重と推定脂肪状態(カルマン推定)

観測体重は大きく揺れているが、
推定された脂肪状態は滑らかに減少している。

脂肪は滑らかに減少している。

つまり、

あなたが毎朝見ている体重は
“真の変化”ではない可能性が高い。



半減期とは何か?

Fig2 イベント前後の脂肪傾き差 Δb

「増え方は急、戻りは指数」

ここでやっているのは、

水分の揺れがどれくらいで消えるかを測ること。

難しい式に見えるが、意味はこれだけ。

「旅行で増えた体重は、何日で半分になるか?」

ρ = 0.846 のとき、
半減期 t₁/₂ = ln(0.5) / ln(ρ) ≈ 4.15日。

半減期は約4日である。
したがって、翌日に食事制限を強める合理性は低い。

だから、

翌日削る必要はない。

ρ < 1 であることは、水分外乱が減衰系であることを意味する。


第5章:イベントは本当に減量を壊すのか?

ここでやっているのは、

“壊れた気がする”を検証すること。

飲み会や旅行の後、
人は「減量が止まった」と感じる。

それが本当かどうかを、

イベント前後で脂肪の傾きを比較して確かめる。

本当にイベントが減量を壊しているなら、脂肪トレンドの傾きが変わるはずだ。

結果は、

p = 0.884。

有意水準5%では棄却されない。

統計的に壊れていない。

p値が高いということは
「傾きが変わったとは言えない」という意味である。
つまり、「イベントが減量を壊した」という仮説は統計的に支持されない。

つまり、

壊れているのは脂肪ではない。

感情である。

「Δbは0付近に集中=イベントは傾きを壊していない」

Δbは0付近に集中している。
つまりイベントは脂肪トレンドの傾きを壊していない。

これが結論。

※2026年1月中旬以降、体重のギザギザが目に見えて減った。
体感として「これは塩分だな」と気づき、塩分を設計変数として固定した。

ルールは単純で、食塩相当量を1日6g未満に抑える。
それまではPFCとカロリーがレンジ内なら塩分は実質フリーだったが、ここを明確に変えた。

具体的には、塩コショウをやめて黒コショウ中心にし、加工肉を排除。
間食も「1回あたり食塩相当1g未満」をルール化した。

結果として、体重の短期変動(分散)が体感でも統計でも大きく減った。
これは「痩せた」の前に「観測が綺麗になった」現象である。

ダイエットは脂肪を減らす前に、観測ノイズを減らせる
これもまた“ダイエットは制御問題である”ことの具体例だ。

このルール変更に対するリアクションの検定については別稿で検証する。


第6章:なぜ人はリバウンドするのか?

ここでやっているのは、

人間の制御を数式にすること。

多くの人はこうする。

増えたら削る。

これはノイズに比例して入力をかけることになる。

問題は、

観測値の大半が水分であること。

水分に反応して脂肪制御をする。

するとどうなるか?

行き過ぎる。

反動が出る。

制御工学ではこれを発振と呼ぶ。

削りすぎ → 反動 → また削る

という揺れが大きくなる状態だ。

これがリバウンドの構造。


第7章:制御ダイエット理論

ここで言いたいのは、

感情ではなく構造で勝て。

ダイエットは三段階。

  1. 設計(カロリー・PFC)

  2. 推定(トレンドを見る)

  3. 制御(ゆっくり修正)

単日体重を見て削るのは合理的ではない。

週単位で判断する方が、
数理的に正しい。


数理付録

推定パラメータ

推定パラメータ

b      -0.066 kg/day
ρ      0.846
半減期 4.15日


モデル比較


AIC比較表 or グラフ

AICは2状態モデルの方が低く、モデル適合度が高い。


Ljung–Box検定


Ljung–Box検定

lag    p値
10     >0.05
20     >0.05
30     >0.05

残差自己相関は確認されない。

残差自己相関なし。


最終結論


体重は脂肪ではない。
体重はノイズ付きの観測値である。

会食や旅行などのイベントは体重を乱すが、脂肪トレンドの傾きを壊すとは限らない。
本ログでは、イベント前後の傾き差 Δb は 0 付近に集中し、統計的にも有意な変化は確認されなかった(p = 0.884)。
p値が高いということは、「傾きが変わった」とは言えない、という意味である。

問題はここからだ。

多くの人は、増えたら削る。減ったら緩める。
単日の観測値 y_t に反応して入力を変える。
しかし、単日の体重変動の大半は脂肪ではなく水分ノイズである。

つまり、やっていることは

  • 脂肪(状態)ではなく

  • ノイズ(観測)を

  • 制御してしまっている

という構図になる。

制御工学では、ノイズに過剰反応して「削りすぎ→戻りすぎ→また削る」という揺れが増幅する状態を、過制御(発振)と呼ぶ。
リバウンドは根性の問題ではなく、構造的な現象である。

結論。

ダイエットは意思の問題ではない。
ダイエットは制御問題である。

必要なのは「気合」ではなく、次の順番だ。

  1. 設計(カロリー・PFC・目標速度)

  2. 推定(トレンドを抽出する)

  3. 制御(週単位で緩やかに調整する)

単日の観測値に基づく反射的な入力変更は、合理的ではない。
制御すべきは y_t(観測)ではなく、推定された状態(トレンド)である。

そして最後に。

本稿は思想ではない。
240日分の実測体重ログと、Stravaで全記録された運動ログに基づく解析である。
使用データおよび解析過程は整理済みであり、必要であれば生データと手順ごと公開する。
本稿の主張は、誰でも検証可能である。


追記:査読歓迎


本稿は個人ログに基づく解析である。
モデル仮定、パラメータ推定、イベント定義には改善余地がある。

特に、

  • 2状態モデル(fat + fluid)の妥当性

  • Δb検定の窓幅設定

  • fluid を AR(1)(指数減衰)とした仮定

  • 「単日反応=過制御(発振)」という制御解釈の妥当性

について、建設的な反論・代替モデルを歓迎する。

再現できない理論に価値はない。
本稿は再現可能である。議論はコメント欄で受ける。

次回は制御ダイエット理論の核
これまでの数理から導き出した結論をもって

ダイエットの設計について書きました。

▶ 続きはこちら
【制御ダイエット理論④】ダイエットは「設計」で9割決まる


このシリーズでは、ダイエットを
**努力ではなく「制御問題」**として整理しています。

思想・数理・実例・検証を横断しながら書いています。

全体の構成はこちらの記事一覧からどうぞ。

▶ 制御ダイエット理論|記事一覧
https://note.com/from100_control/n/n526e5811412c

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