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「きみが死ぬとき思い出す女の子になりたい」最終話

あらすじ

沙奈はバンド[くる]の元バンドスタッフ。
ある日、想いを寄せていた[明くる日]のギター颯人が突然亡くなったことを知る。

葬儀にも参列したが、颯人が死んでしまったことをしばらく受け入れられず途方にくれていた。

もう颯人がいないと分かっていながらも、思い出を噛みしめるように、ひとり颯人の家に向かって歩いていると、沙奈の前に一匹の白い野良猫が現れ話しかけてきた。

もし人生で一度だけ過去に戻れるなら、あなたはどの日に戻りたいですか?

音楽家、文筆家であるさめざめ笛田サオリによる恋愛小説

#創作大賞2023 #恋愛小説 #小説


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「颯人さん!!大丈夫ですか!?」
しゃがみ込んだままずっと俯いてる。すごい辛そうだ。

「ああ、ちょっと目眩が。なんか最近こーゆーの多くて」

「颯人さん、自分が思ってる以上に無理してるんですよ。救急車呼びましょうか」

「救急車?全然そんなんじゃないから。俺、無理してないし。やるべきことやってるだけ。才能ないからやるしかないのよ」
そう言うとフラフラになりながらトイレに入っていった。

きっとあの日もこんな感じだったんだろう。
その中でご飯も食べないでお酒と薬を摂取して‥‥

颯人さんは別にあの日自ら死のうとしたわけじゃないんだ。
自分の限界を超えてまで明日も生きようとしただけなんだ。

トイレから出てくると顔色の悪い颯人さんにこんなお願いをしてみた。
「颯人さん、一旦、ベッドに座ってもらっていいですか?」

「なに?」重たい足どりでなんとかベッドまでたどり着いた。

「3年前のメジャービューした日が私の誕生日だったこと覚えてますか?」

「ああ、うん。覚えてるよ」

「あのとき、誕生日プレゼント考えておいてって言いましたよね?あれまだ有効ですか?」

「うん、思い出したわ。なにが欲しいの?」

「じゃあ、今日だけ私の言うこと聞いてもらえませんか?」

「言うことってなに?」

「今日はもう仕事やめて寝てください」

「それ誕生日プレゼントなの?他のにしなよ」
ものすごく不思議そうに私を見る。

「私の言うこと聞いてくれたら、それは私にとっての誕生日プレゼントです」

「いやーって言うか沙奈ちゃんがきた時点でもう時間が‥‥」

「分かってます、私のせいで今日の作業が遅れているのは本当に申し訳ないんですけど」

颯人さんがすごく困っている。
ちょっと言い方は冷たいところあるけど根は優しいから私のことも部屋に入れてくれた。
そんな中でこんなこと言われたら余計に困るよね。
でも今日は何としてでも休んでほしい。

「絶対に今日休んだ方が、明日からの作業も効率良くなると思うんです。仕事のために今日は休んでいただけないですか?」

私の真剣な眼差しに負けたのか、颯人さんが折れたようにP Cの電源を消しに行った。

「んー今から頑張っても今日は完成しないだろうし今日はもういっか」

時計は4時をまわっていた。
とりあえずいまは颯人さんを見守っていたい。

するとテーブルに置いてあったポーチの中の睡眠薬らしきものを取り出して飲もうとした。

「颯人さん、それって何?」

「え、睡眠薬」

「眠れないんですか?」

「眠れるかもしれないけど眠れなかったら嫌だなって思うと飲んだほうが楽っていうか」

「私、睡眠薬よりよく眠れる方法知ってますよ」

「なにそれ」

「とりあえずベッドの中に入ってください」

そう言うと、颯人さんをベッドに横にさせて、私はベッドの降りたところに座る。

「なにすんの?俺、沙奈ちゃんに襲われる?」

「違いますよ!」
そっと颯人さんのクシャクシャの髪をゆっくりと撫でた。

「え?」

「これ眠れますから、目を閉じててくださいね」

「何かと思ったら」
少し笑うと私の言うことを聞いて、大人しくしてくれた。どんどん息が落ち着いて来る。

「小さなころ、眠れない日にお母さんにこれやってもらうとすぐ眠れたんですよ」
ずっとずっと優しく颯人さんの頭を撫で続けた。

「ヤバイ、本当に眠れそう」颯人さんの目蓋が重たくなってきた。

「でしょ?大丈夫ですよ。そのまま寝てください。私ずっと颯人さんのそばにいますから」

「それカウンセラーなのか、ストーカーなのか微妙なセリフだな」

「まぁまぁ」
私はひたすら丁寧に丁寧に颯人さんの頭を撫でた。

頭を撫でて10分くらいだろうか。
静かな部屋の中で颯人さんが「ごめんね」目を閉じたままボソッと呟いた。

「ん?なにがですか?」小さな声で返す。

「あのとき好きって言ってくれたのに」何かを振り絞るような声。

きっと3年前のことだ。
「ああ、ありましたね、そんなこと」わざと忘れた風に言ってみた。

「あのときは自分でいっぱいいっぱいでちゃんとできなかった、ごめん。今もちゃんと言えなくてごめん」

そう言うと、颯人さんは自分の手で顔を隠すように嗚咽を殺しながら泣き出した。

「謝らないでください。私はそれ以上にたくさんの幸せを【明くる日】からもらってますから。颯人さん、これ以上無理しないでください。
私は、颯人さんが音楽をしててもしてなくても元気に生きてさえいてくれればいいんです。
それだけでいいんです、だから無理しないでください。辛いと思ったら休んでください。
お酒呑みすぎないでください。
睡眠薬も沢山飲まないでください。
もし、颯人さんが死んじゃったら今頑張ってる意味がなくなっちゃうんですよ。
ここまで頑張ってきた意味がなくなっちゃうんですよ」

私もいつの間にかボロボロと涙がこぼれ落ちていた。

「そんな簡単に俺は死なないよ」

そう言いながら颯人さんは少しの間、手で顔を覆ったまま泣いていたけど
いつの間にかゆっくりと寝息を立てていた。

きっと颯人さんは沢山のことを抱え込んでいたんだ。
誰にもそれを言えなくて辛かったんだろう。


携帯を覗くと朝の6時にこえていた。

颯人さんが生きている。良かった。
これで安心できるわけじゃないけど未来は変わった。

窓の向こうで猫が鳴く声が聴こえる。
もしかしてあの猫?
これは本当に現実なのか、夢なのか、どうか颯人さんをこのまま‥‥

私もいつの間にか眠くなり、そのままベッドの脇で横になって寝ていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

目が覚めると私は自分の部屋にいた。
え、あれは夢だったのか。
部屋は薄暗い。
思わず携帯で日にちと時間を確認する。

5月22日 P M21:00だった。

これは‥‥どういうことだろう。
元の世界に戻ったということ?颯人さんの家じゃないのはどうして?

慌てて携帯を見る。ツイッターのバンドのアカウントを開いてみるけど颯人さんが亡くなった訃報のツイートがない。バンドのH PもWikiにも何もそのことは載ってない。

ラインを開くと未読のラインがたくさんあった。
その中に今日の日付で颯人さんからラインが来ていた。

「生きてるか?」
この数日間、私はみんなからの連絡を無視していたことになってるみたいだ。

ラインを遡ってみるとちゃんと颯人さんが亡くなるはずだった日に、私と颯人さんに会った形跡があった。

颯人さんが生きてる!!!

そもそも颯人さんは死んでなかったの?私の夢の話?
どこからが夢でどこからが現実なのか頭が混乱しつつも、涙がまたこみ上げてくる。

颯人さんの死から仮病で一週間くらい休んでいたはずなのに、目覚めると本当に体が怠い。
颯人さんが生きる世界線になったことで少しいまが変わってるのかな。

ピンポーン

家のインタホーンが鳴った。
こんな時間に誰だろう。

連絡無視しすぎて誰か来たのかもしれない。
ミユからの連絡も未読スルーしていたことになっていたからミユかもしれない。

微熱のありそうな重たい体を無理やり起こして玄関の鍵穴を覗く。
そこには颯人さんが立っていた。

なんで颯人さんが‥‥生きてる!!本当に?

ゆっくりと玄関の扉を開ける。
「あ、はい」

開けた瞬間、颯人さんが私を見るなりに緊張が緩んだような表情に変わった。
「いた!よかった。生きてた」

その言葉をそのまま返したいと思えるくらいだった。
よかった、颯人さんが生きてる。

「え?生きてますけど」何もないようにふざけて言ったものの声がかすれて出ない。

「心配させんなよ。この数日間、グループラインの返信もないし、俺のラインも無視するし心配してたんだよ」

「あ、すいません。なんか体調悪かったみたいで」慌てて寝癖のついた髪を撫でて治す。

「ほんとよかった、焦った」

「心配かけちゃってすいません、よくうちの場所分りましたね?」

「ミユちゃんのツイッターにDMして家聞いた。一緒に行こうって言ったんだけどとりあえず先に行ってくださいって言われて。ミユちゃんも心配してたよ」

「そうだったんですね。なんか大事になっちゃった」

「実はもしかしたらって思って」

「もしかしたら?」

颯人さんの目が真っ直ぐに私を見ていた。
そっか、きっと颯人さんは私がもしかしたらって思ったんだろう。

「とりあえず家入れてくんない?」

「え、いやコロナだったらうつすかもしれないんでやめた方が」

「今更そんなのどうだっていいよ、俺わざわざ電車で梅ヶ丘から来てるんだよ?ちょっと休ませてよ」

「あ、はい。ほんと散らかっててもいいなら」

私も随分、気を失っていたからか部屋の様子を覚えてない。
この現状、颯人さんが生きてる世界線がまだ本当なのか信じられないままだ。

「慌てて来たから差し入れ的なもの何も買って来てないや、ごめん」

「大丈夫です。それより颯人さん、元気ですか?」

「俺?俺は元気だよ」

「それならよかった」

冷蔵庫に入ってるペットボトルのお茶を取ってグラスに注ぐ。
自分のために颯人さんが心配してくれただけで嬉しい。

「気分はどう?」

「まぁ、ちょっとだるいです。いつの間にかかなりずっと寝てたみたいで、なんかすごい嫌な夢を見てました」

「夢?どんな?」

「嫌な夢すぎて言いたくないです」

「誰か死ぬ夢とか?」

「まぁ」

「もしかして俺の死ぬ夢とか?」

「え、なんで分かるんですか」ドキッとして颯人さんを見る。

「じゃあ、俺長生きするな」なんだか少しニヤついてる。

「長生きしてほしいです」

あの時よりも颯人さんの顔色がいい気がする。よかった。

「なんか腹減ってない?」

「実はめちゃくちゃおなかすいてます」

「おにぎり作ってやろうか」

「おにぎり?」

「うん、この前作ってもらったお礼」

台所に立って意気込んで手を洗う颯人さんの背中が愛おしすぎた。

やはり私はあの猫のおかげで時が戻って、あの時、颯人さんの死を阻止したことで颯人さんが死なない世界線になった。


ずっとずっと我慢していた気持ちがもう抑えきれなくなって、そっと背中に抱きついた。
「ちょっと今、病人なんでやさしくしてください、何も言わなくていいんで」

颯人さんは何も言わずしばらくそのままでいてくれた。
生きてくれていてよかった。別に彼女になんてなれなくていい。
生きてさえいてくれればいい。これからもずっと。

ご飯が炊けると、炊き立ての白いご飯をしゃもじで勢いよくかき混ぜてお茶碗にご飯を入れると、塩を振りかけて大きな手で丁寧に握り出した。

私は何も言わずにその光景をただ眺めてる。
「あれ、なんか形がおかしいな」

出来上がったおにぎりは丁寧に握った割には少し歪な形をしていた。

でもそんな少し歪な形が颯人さんらしいなと思いクスッと笑ってしまう。

「いただきます」
私が大きな口を開けて食べるのを颯人さんが様子を伺うように見てる。

「美味しい!!すっごい美味しい」
口にたくさんのお米が入った状態で思わず喋りだす。
あれ、また涙が溢れ出す。

「ほんとよかった」

「美味しいです」

「実は、この前会ったきたとき、俺けっこうヤバかったかもしれない」
颯人さんも自分で握ったおにぎりを食べながら話しだす。

「マジで日々の色んなものに追い詰められてて、でも誰にも話せなくて、少しでも休んだら何かに負けそうで。でももうそんなこと考えるのも怠くて」
「はい‥‥」

「死にたいとかじゃないんだよ。なんか現実から逃げたいっていうか。そう思っていたら、沙奈ちゃんから夜中に電話かかって来て最初は無視しようと思った。でもずっと鳴り止まないから電話でた」

「あの日はほんとすいませんでした」

「ううん、ありがとう」

「いや、別に」

「あの日、そばにいてくれてありがとう。あの夜、一人だったら俺もっと追い詰められてたかもしれない」
颯人さんの目にも涙があふれていた。

それを見て、私は涙を隠すようにもう一口お握りを頬張る。
「いつでもそばにいますよ」

「バンドなんだけど‥‥あいつらとも話したんだけど少しの間、活休しようと思ってる」

「ユウさんとマッサンと颯人さんが決めたことならぜんぜん」

「コンペとか制作も一旦、辞める。音楽自体からちょっと距離置いてみる。それでもまたやりたくなったらやる。応援してくれてるのにごめん」

涙のせいか、颯人さんが作ったおにぎりは少ししょっぱく感じた。

おにぎりを食べると、颯人さんが換気扇の下で一服を始めた。
「ミユちゃんも心配して来ると思し、俺これ吸ったら帰るわ。ゆっくり休んで」

「ほんと遠くまでありがとうございました」

「また元気になったら呑みに行こうな」

「はい!」

玄関まで颯人さんを見送るとその10分後にミユが会いに来てくれた。
ミユが私の顔を見た途端に抱きついて来た。
「心配したんだから!!」

「ごめん」

「颯人さん、本当に沙奈のこと心配してたんだよ。愛されてるじゃん」
「うん、嬉しかった」

それから、【明くる日】は活動休止をして、ユウさんはソロ活動、マッサンは色々なバンドのサポートドラムをしながら変わらず居酒屋でバイトをして、颯人さんは楽曲コンペや制作を休んで、ピザの配達のバイトを始めた。

私はいつか颯人さんが言ってくれた言葉がきっかけで、自分の言葉で何かを作ってみようと思い、自分のnoteのアカウントを作り短編小説を書き始めた。
そして今回、創作大賞と言うnoteの作品のコンテストがあることを知り、白猫と会ったあの日の物語をヒントに新しい物語を書いている。

私もまだまだ夢の途中、まだ東京にいる意味は分からない。
でも東京にいる意味を探しながら生きるのも、東京にいる意味なのかもしれない。


二年後

「なんかさー今日の空の感じ、あの日の夜に似てる気がしない?」
線路沿いを颯人さんとふたりスーパーの買い物袋を持って歩いてると、颯人さんが思い出したかのように言い出した。

「あの日の夜って?」

「5年前にさ、白い猫がここらへんで現れてさ、俺が朝食用に買ったバナナを沙奈が勝手に猫に食わせたんだよな」

「勝手にって言い方良くない!私は猫ってバナナ食べれるよって提案しただけだし、そもそもあげたのは颯人さんだよ」

「そうだっけー。あの猫、可愛かったなー」

「うん、可愛かったね」

ピロン

ポケットの中の携帯が鳴ったので覗いてみると4人のバンドグループラインだった。

『そろそろライブハウスで集合しましょうか』ユウさんからだった。

もしかして‥‥
「颯人さん、今、バンドのグループラインきたよ!」
目の前にいる颯人さんに声をかけるけど、颯人さんはなぜだかそっぽを向いてる。

するとマッサンからもラインがくる。
『復活ライブすんぞ!!』

「颯人さん!え?なにこれ!聞いてないんだけど!!」

颯人さんは私の言葉に何も答えないまま、目の前でそのグループラインに返事をする。
『沙奈ちゃん、スタッフよろしく』

「え!本当に?復活するの?嬉しい!!」
嬉しさのあまり買い物袋を置いて、颯人さんに抱きつく。
「早くちゃんとグループラインでみんなに返信してよ」
颯人さんが少しニヤつきながら携帯を指差す。

『復活おめでとうございます!!もちろんです、任せてください!!』
秒で返信をした。

「もう!何で教えてくれなかったの?!びっくりした!!」
「え?だって驚かせたかったから」
「じゃあ、今日はお祝いカレーだね」
「腹へったー」

また颯人さんの家に向かって歩き出す。

「ミャー」

どこからか猫の鳴き声が聴こえた気がした。
振り返ると、一瞬猫の白い後ろ姿が駐車場の奥に入っていくのが見えた。

ありがとう。
本当にあの日に戻してくれてありがとう。

私は心の中であの白い猫に何度も何度もお礼を言った。


今日はとびきり美味しいカレーを作ろう。


終わり

さめざめ「きみが死ぬとき思い出す女の子になりたい」

全話、読んでくださりありがとうございます。

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