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「テディ」の経歴



原作再読


先日サリンジャー「ナイン・ストーリーズ」の読解をしました。

最終の第9章「テディ」が気になっていました。
作品の主人公は天才少年テディ。彼は日本人の暗喩です。水の入っていないプールに突き落とされて死にます。

ところで映画「シャッター・アイランド」の主人公の名前もテディ。

同じく日本人の暗喩です。ロボトミー手術を強制されます。つまり人格ある人間としては死にます。

両者は関係がありそうです。「ナイン・ストーリーズ」全体は対称構造を持ちますが、

第9章と対称の第1章の「バナナフィッシュに最良の日」は原爆投下の罪を主人公が贖う話。第9章の前の第8章の「青の時代」はあからさまに原爆投下の話です。
対して映画「シャッター・アイランド」は原爆投下の罪をアメリカが糊塗する話です。内容も似ており、テディという愛称も共通します。

映画「シャッター・アイランド」には原作があります。デニス・ルヘインによる2003年の小説です。

昨年映画版を読解する時に、参考として図書館で借りました。いかにもミステリーの本でした。最終節が袋とじになっていました。テンション一気に下がって、パラパラめくって終りにしました。「日本」という感じでもなかったです。主人公の相棒のシーハン(映画字幕ではシーアン)の、

恋人が日本人、というだけでした。

原作でははっきりと病院が嘘

今回、今一度原作を真面目に読んでみようと中古の文庫本(袋とじにはなっていない)を買って、それなりに真面目に読みました。
驚きました。映画「シャッター・アイランド」は、主人公が正気でも狂気でも、どちらでも解釈できる設定でしたが、

原作では全く違いました。
プロローグ部分は、「レスター・シーハンの日記」と題されています。1993年の手記です。事件は1954年、つまり日記は事件の39年後です。その中で、

「~前略~ネズミが砂地に上がるのを見ながら、テディのことを思った。テディと、彼の亡き妻、可哀そうなドロレス・シャナル、恐るべきレイチェル・ソランドとアンドルー・レディスのふたり、そして彼らがわれわれ全員にもたらした大混乱のことを。」

と書かれています。
これだけ読めば不思議ではないのですが、原作「シャッター・アイランド」本編での結論は、主人公テディ(エドワード)・ダニエルズと殺人犯アンドルー・レディスは同一人物ということになるのです。
主人公テディの本名はアンドルー・レディス、妻殺しの犯人です。彼は妻を殺したことが辛すぎて受け入れられず、

Andrew Laeddis=Edward Danielsと、同じアルファベットの順序を入れ替えてテディ(エドワード)・ダニエルズになりきり、現実逃避して生きてきた、というのが病院側の主張です。
テディは病院の主張に執拗に反発しますが、最終的には「俺の名前はアンドルー・レディス」と認めてしまいます。

ところが事件後39年経過した、「レスター・シーハンの日記」では
「テディと、彼の亡き妻、可哀そうなドロレス・シャナル、恐るべきレイチェル・ソランドとアンドルー・レディスのふたり、そして彼らがわれわれ全員にもたらした大混乱のことを。」
と書かれています。

つまりテディ(エドワード・ダニエルス Edward Daniels)とアンドルー・レディス(Andrew Laeddis)は、はっきり別の実在した人物として語られているのです。
病院の主張は嘘でした。主人公は殺人犯でも精神病でもありません。病院に騙されて「自分はアンドルー・レディスだ」と思い込まされただけです。原作では明快にそうなっています。

暗号解読

主人公テディは島で暗号メモを見つけます。映画版ではシンプルな暗号です。

原作ではもっと凝っていて、

4の法則
わたしは47
彼らは80

+あなたは3

われわれは4
でも
67は誰?

となっています。
これを主人公は解読してゆきますが、なかなかの切れ味で周りの人間は驚きます。大戦中は情報部に居たのではと聞かれ、主人公はいいや普通の陸軍だと否定しますが、情報部に居た人間が「情報部出身」と公言するとは考えにくい。情報部出身の可能性も残ります。

テディが解読に使うのはゲマトリア(文字数字変換)です。計算するのが面倒なので、

https://charactercalculator.com/ja/gematria-calculator/

で検算しましたが、計算は正確でした。以下テディの解読です。

だいたい見ればわかると思いますが、最後の行の「67は誰?」は「あなたが67番目の患者」という意味です。島が収容していた精神病患者は66人だったのです。
「その67番目がテディ、お前だ」と病院側は主張しました。この暗号メモ自体病院の捏造ですから、元来そういうストーリーに彼を嵌めたかったのでしょう。

「テディと、彼の亡き妻、可哀そうなドロレス・シャナル、恐るべきレイチェル・ソランドとアンドルー・レディスのふたり、そして彼らがわれわれ全員にもたらした大混乱のことを。」
この4人とも実在します。彼らのゲマトリア数と文字数の一覧です。ゲマトリア数は男性同士、女性同士で共通しています。文字数は4人全員共通です。

ゲマトリアが出来るコーリー医師(元OSS、つまりCIA)は、Andrew Laeddis=Edward Daniels、つまりテディこと連邦保安官エドワード・ダニエルズと、殺人犯アンドルー・レディスが、アルファベット順序を組み替えて相手の名前に出来ることを知っていました。

左下のレイチェル・ソランドは実は患者ではなく、病院で働いていた女医です。彼女の失踪から事件は始まりました。
彼女の名前のレイチェル・ソランドのゲマトリア数127、文字数13が、たまたまテディの妻の名前ドロレス・シャナルのゲマトリア数127、文字数13と同じだと、コーリー医師は気づきました。
そこで病院として前々から抹消したかった存在である連邦保安官テディの、洗脳言いくるめ作戦をコーリー医師は企画立案、実行したと考えられます。

レイチェル・ソランドの失踪により、テディは捜査のために島に呼び寄せられました。
テディも以前から島に渡りたいと思ってました。愛した妻を殺した殺人犯レディスが島に居るとにらんでいたからです。だから島に渡ってしまった。
言い換えれば、テディを引き付けたり、滅亡させたりする存在は、ゲマトリア数127で文字数13の女性です。

強制収容所

エドワード・ダニエルズの愛称はテディです。
サリンジャーの「ナイン・ストーリーズ」の第9章は、前述のごとく「テディ」というタイトルです。主人公の名前はTheodore McArdle(セオドア・マカードル)で、ゼオドアの愛称がテディです。

エドワードの愛称がテディで、セオドアの愛称もテディ。本名と愛称の対応関係が日本人的には理解不能ですが、しかしとにかくそのように呼ばれていますから、素直に受け入れるしかありません。

第9章の「テディ」のラストで主人公テディは、妹のブーパーに空のプールに突き落とされて死にます。ブーパーの正式名称はブーパー・マカードル。ゲマトリア数と文字数は、

です。「シャッター・アイランド」の女性陣と同じです。この作品でもテディは、ゲマトリア数127で文字数13の女性に滅亡させられます。
以上まとめると「シャッター・アイランド」原作と、サリンジャー「テディ」は、

この三項目が共通です。これだけではただの偶然という気もしますが、実はサリンジャーは軍隊時代、ユダヤ人強制収容所解放をしているのです。これも「シャッター・アイランド」のテディことエドワード・ダニエルズと同様です。

テディことエドワード・ダニエルズはダッハウ収容所の解放をします。サリンジャーが解放したのはカウフェリング収容所です。ダッハウの外郭収容所だそうです。両者の距離は今地図で見ると46km程度です。

加えて「シャッター・アイランド」原作のテディは情報部出身の可能性が暗示されますが、サリンジャーは経歴として確実に情報部出身です。以上の情報まとめます。

スコセッシの映画「シャッターアイランド」も加えるとこうなります。

デニス・ルヘインの「シャッター・アイランド」は、J.D.サリンジャーの「ナイン・ストーリーズを下敷きに書かれたと言ってよいです。

バナナフィッシュ

サリンジャーの「ナイン・ストーリーズ」は対称構造を持ちますが、第9章「テディ」に対応する章は第1章「バナナフィッシュに最良の日」です。

97名がたむろするホテルの507号室が死に場所です。9と7の間は8、5と7の間は6、つまり8・6という原爆投下を暗示する数を導き出しています。「バナナ」は「シャッターアイランド」と同じく数遊びをしているのです。「ナイン・ストーリーズ」の他の章ではこういう数遊びは(有るのかもしれませんが私は)発見できていません。

では「シャッターアイランド」原作にあった、ゲマトリア数127、13文字に該当する数字は「バナナフィッシュ」から導き出せるのか。127は導き出せていません。13は導き出せました。

バナナフィッシュはバナナを78本食べます。シビルの見たバナナフィッシュは、口のバナナを6本咥えていました。78÷6=13。つまりバナナフィッシュはバナナを13回食べるのです。
バナナフィッシュがバナナを食べるとはつまり共食いですから、共食いという悪行を13回する呪われた存在がバナナフィッシュなのです。

ではバナナフィッシュの13という数字はどこから来ているのでしょうか?
nagiさんが読解済みです。「バナナフィッシュ」には「ちびくろサンボ」の話が登場します。

ちびくろサンボのラストで、虎が変化したバターで焼いたホットケーキを、家族みんなで食べます。サンボは169枚も食べました。169=13×13。13の二乗です。
「バナナフィッシュ」の主人公シーモアは、なぜかバターになる虎の数を間違えて、(本当は4頭なのに)6頭と思い込んでいます。バナナフィッシュが口にくわえるバナナの本数と同じです。作者はどうしても「6」という数字を強調したかったようです。読者に78を6で割って、13を導き出してもらうためです。

「テディ」の経歴

1、はじめにイギリス人女性、ヘレン・バンナーマンが「ちびくろサンボ」を書きました。インドの植民地支配を批判した作品でした。

2、作家J.D.サリンジャーは、「サンボ」作中の169枚のホットケーキの意味がわかりました。「サンボ」および13を作品に埋め込んだ「バナナフィッシュ」を書きました。原爆投下による一般人殺傷の罪をアメリカは背負ったという内容でした。

3、サリンジャーはのちに、その後の短編いくつかを集めた「ナイン・ストーリーズ」を上梓しました。全体としてはアメリカの原爆投下を非難し、それはユダヤ人差別に代表される人種差別から発生したことだと主張しています。「テディ」が誕生します。

4、作家デニス・ルヘインは、「ナイン・ストーリーズ」全体、および背後にある「ちびくろサンボ」を読解できました。ユダヤ人強制収容所の解放および軍情報部出身という、サリンジャーの属性を主人公テディに付与した小説「シャッターアイランド」を書きました。「日本」という要素は後退しています。「原爆」という要素は残っています。アメリカが国家ぐるみで白を黒と言いくるめる話に仕上がりました。

5、映画監督マーティン・スコセッシは、ルヘインの「シャッターアイランド」を読み、内容を理解した上で、下敷が「ナイン・ストーリーズ」がある事にも気づきました。無論「ナイン・ストーリーズ」の内容も読めています。ただし「13」という要素は入っていませんから、「ちびくろサンボ」を認識したかどうかは定かではありません。
日系アメリカ人によるユダヤ人の氷漬け死体の発見というエピソードを組み入れ、原作よりテディの日本要素を増やしました。テディはサリンジャーと「日本人」を合わせた存在になりました。

底流

一連の流れを表にするとこうなります。

これは戦後アメリカ文化の最深部の水流です。アメリカは考えも無しに覇権を謳歌していただけの国に見えますが、国家の最大のタブーと呼ぶべきものに対しても、真摯に考え続けた人達が居たのですね。
この流れを認識できたのは、nagiさんの「バナナフィッシュ」の読み解きによってです。

そして「バナナフィッシュ」を明解に読み解けたのは、nagiさん自身が「ちびくろサンボ」を正確に読み解いていたからです。「サンボ」の理解が不十分ですと、「バナナ」は絶対に読み解けません。
そしてnagiさんが「サンボ」を正確に読解できたのは、おそらく宮沢賢治を

(加えて新見南吉まで)、がっつりと読み解いていたからです。

それはnagiさん自身の資質、努力も無論ありますが、別の見方をすれば日本は既に国民文化として、外国の文学を自在に読み解ける実力を持っているのです。賢治が読めればサリンジャーが読める。nagiさんはサリンジャー「ライ麦畑でつかまえて」を読解した上で、今はフォークナー、カフカを読解されています。

どうも我々日本人は、貴重な資産を倉庫に収納して目に触れなくしていたようです。もったいないことでした。nagiさんは倉庫の扉を開けたと思います。

アメリカについて言えば、現在とめどない凋落の過程にあるのですが、この流れを見ると、いつの日にか必ず復活できる国だと思います。まずい状況を表現できる言葉を既に十分持っている。読める人達が先人の努力を受け継ぎ、しっかりとした流れを形作ってきました。ひょっとするとこれは、今のアメリカの持つ最大の資産の一つかもしれません。

アメリカは、ゲーテやドストエフスキーのような絶対的な天才を産出できませんでした。カイザーの国でも、ツァーリの国でもありませんから、それは仕方がありません。しかし人材がこんこんと湧き出る国ではあるようです。

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