【4】骨のお守りは誰のために
コウは瞼を震わせて目を開いた。天井が見えない。
起き上がると真っ暗な空間がどこまでも続いていた。
自分の部屋ではない。
確かにベッドに横になった。目を閉じて暗闇に意識が遠のいたのを覚えている。
では、夢か。夢にしてはリアルだ。感覚も意識も起きている時となんら変わらない。
立ち上がったコウは足元を見る。床も暗い。どこが床なのかわからなくなりそうだ。
「久しぶりだね、コウ」
懐かしく優しい声音にコウは振り返った。そこにいた人物を認めて身体が凍りつく。
「ユウ、なのか……」
震える声は自分のものではないようだ。
コウに呼ばれた男は微笑んで頷いた。
「悪かった!」
頭を下げたコウは奥歯を噛みしめる。溢れ出そうになる涙を必死に飲みこんだ。
「俺、助けられなかった! 怖かった! あいつらのことが‼ 謝っても遅いのはわかってる。ユウは戻らない。でも謝らないと俺は――」
「自分のこと、許せないんだよね?」
コウはがばりと顔を上げた。不気味に唇を歪めて笑うユウに心臓が一瞬止まる。
「謝れば許される? 解決する? それって自己満足だろう? 一生苦しむんだよ、コウ」
ユウはゆっくりと近づく。
真っ直ぐと見つめていたコウは身体に何かが刺さる衝撃がして胸元に視線を落とした。その柄を掴むのはユウだ。
「え?」
高揚したユウの笑い声で恐怖に包まれる。
痛い。苦しい。息ができない。
ごぼりと音を立てて異に溜まったものがせりあがってきた。吐いた血と共に体温が流れ出る。視界が歪む。
冷ややかな瞳で笑うユウは膝から崩れ落ちるコウの胸から包丁を抜きとり、振り上げた。
背中に衝撃が走る。何度も何度も。
声にならない悲鳴がコウの口から洩れる。
どんなに刺されても心臓が止まることはない。
だから、夢なのだ。いつか終わる。
手から、指から、足から、全身から体温も力も抜ける。流れ出た生温かい海にユウの冷たい身体が包まれる。
「もう終わりか?」
子供のようにいたぶるユウは優越感に浸り興奮している。彼の瞳はコウを捕えて離さない。
馬乗りになりコウの身体に包丁を突き立てる。何度も何度も。
ユウの笑い声が響く。楽しそうにしているユウがいる。それはコウが高校時代願っていたことでもある。笑顔でいてほしい、と。
「た、……す、…………け、……、て………………」
瞳に近づく包丁の先を最後に意識が途切れた。
