【9】骨のお守りは誰のために
枕元からゆらりと昇る香りが部屋を自由に彷徨う。
「触るね」
顔を覗きこむナナはコウの腕を軽く揉む。
気持ちがいい。
「クマ凄いね。最近眠れてる?」
瞼を半分閉じたコウは首を横に振る。
「ガクの葬儀以降、悪夢にうなされてて」
「悪夢? どんな?」
コウは口を横一文字にしてナナから視線を逸らした。
「言えない? 言いたくない? そんなに苦しい夢なの?」
悲しくも艶やかナナの声音にコウの口が自然と開く。
「――――殺される夢だ」
「誰に?」
恐怖が、痛みが、全身を襲う。
「力抜いて」
コウの身体に緊張が走った。
「話したほうが楽になるかもよ」
ナナに聞かせるのは心苦しい。だが、話したい。話して少しでも楽になりたい。
「……ユウが、殺しに来るんだ」
言葉にして、コウの全身から力が抜ける。
「ユウが? まさか。彼は自殺したのよ。どうしてコウはそんな夢を見るの?」
「わからない。今まで一度もそんな夢、見なかったのに」
「ユウに悪いことでもしたの?」
「何も、してない、と思う」
声に力がなくなってきた。コウは気持ちよくて微睡んでいる。ナナは丁寧にゆっくりとコウの腕をマッサージする。
「だったら、気にすることないんじゃない?」
頭上へと移動したナナは鎖骨から肩にかけてマッサージを始める。
「気になるんだ」
「どうして?」
瞼を閉じたコウは白い塊を思い浮かべた。
「お守りに骨が入ってた」
ナナが一瞬力を込めた。
「骨?」
「ナナが作ってくれた、お守りに入ってたんだ」
よく考えてみると、お守りをもらったのはユウが亡くなった後だ。
「本当に骨だったの?」
「同じ研究室の、友達に、調べてもらった」
「私の作ったお守りに入ってたの?」
「ああ。お守りを切って出したから間違いない」
ナナの手が首へと移動する。
「骨なんて知らないわ。誰か別の人が縫い目から入れたんじゃない?」
「骨を? もし入れた人がいるなら、何が目的なんだろうな」
「さあ。呪うつもりだった、とか?」
冗談交じりに口にしたナナはコウの首を絞めた。
「うっ……!」
「ごめんなさい!」
起き上がり咳込むコウの背中をナナは優しく撫でた。
「客だったらどうするんだよ」
「ごめんなさい」
茶目っ気たっぷりに謝るナナにコウは何も言えなかった。高校時代の彼女に戻ったようで懐かしかったからだ。それに首を絞められるまで意識を手離しそうになるくらい気持ちがよかった。
コウはうつ伏せになる。
「背中もお願いできるか?」
研究で細かい作業が多いせいで凝り固まっている。それが原因で悪夢を見るのかもしれない。
「わかったわ」
ナナは快く引き受けてくれた。
薄暗い施術室にナナの程よい力加減で眠気が襲う。
子守歌のように何かを囁いているナナの言葉に、コウは恐ろしさを感じつついつの間にか眠ってしまった。
