教えてください、烏丸先生 #29 選択と決断
教えてください、烏丸先生 #29
最終章・第4話 選択と決断
私は、選ばなければならない。
鶴田先生を選べば、烏丸先生は戻ることができる。
けれど、烏丸先生とはもう仕事以外で話すことはなくなるのだろう。
選ばなければ、烏丸先生は――
結局、烏丸先生は私をなんだと思っているのだろうか。
私はただの事務職員で、守るべき生徒でもない。
私の代わりはいくらでもいる。
でも、生徒たちにとっては、烏丸先生は烏丸先生しかいないのだ。
出会ってきた教え子たちを振り返る。
杉本はボクサーの道を目指した。
楠は作家として評価された。
実結は才能を後押しされた。
桜井は家から救い出された。
凪は選択を認められた。
ノートには、私の名前は無かった。
そして私自身は、烏丸先生をどう思っているのか。
12月の初めのことを思い出した。
年末調整と高校入試の書類作成に追われ、事務室には私ひとりだった。
先生というのは、なぜか事務処理が苦手な生き物だった。生徒には宿題を忘れるなというのに、自分たちのことができていない先生が多い、と私が勝手に行った統計調査で出ている。
「手伝おうか」
事務室に来たのは烏丸先生だった。
どうやら他の先生はもう帰ってしまったようだった。
「ありがとうございます。烏丸先生も、帰れるときに帰ったほうが良いですよ」
「牛山さん一人残して、帰れないね」
「おばけが出るかもしれないし」と烏丸先生は笑った。時々、私を子ども扱いしているような気がする。
生徒には怖いと言われることもあるが、笑うのが下手なのだと思う。
「それじゃあ、給与関係は個人情報なので、証明書のほうを」
「これだな」
烏丸先生は隣の席に座ると、書類の山の頂上を1枚ペロンと手にし、1分ほど見つめて、山に戻した。
「よくわからないかもしれない」
「手伝いに来たんじゃないんですか」
「そうなんだけど、人には向き不向きがあるみたいでして」
ペロンと舌を出す。夜の烏丸先生は時々愛嬌がある。
それを昼に出せばもう少し周りとの距離も縮まると思うのだが。
「手伝いはいいですから。なんか面白い話でもしてください」
「そうだなぁ」
烏丸先生は手を顎に当てながら唸った。
「牛山さん、クリスマスは何してんの?」
「邪魔するなら帰ってください」
私が睨むと、烏丸先生は笑いながら、すごすごと職員室に戻っていった。
「鶴田先生」
目の前の鶴田先生の目をまっすぐ見た。
鶴田先生は目をギラギラさせながら、私の全身を舐めまわすように見た。
「俺を、選んでくれるんだね」
深く息を吸う。
「私は、あなたを選びません」
「でも、逃げません」
手に力が入る。震えていた。
「なっ」
鶴田先生は口を大きく開けて固まっていた。
隣で息を飲む音がした。
私の肩に置かれた手に、少し力が入ったのを感じた。
そのまま前を向く。
「烏丸先生」
私は隣を見た。
「今から、ドライブしませんか」
