作品に値段をつけて生きていく
忘れられないお金がある。
自分の作品に値段をつけて、それを買ってもらった時のことだ。
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僕が20歳くらいの頃、バイト先のサイゼリヤで出会ったひとつ歳上のFさん。最初から気が合ってすぐに仲良くなった。
その頃、僕は芸人をやっていたんだけど、いかんせん仕事はない。やることは月に1回だけのライブと日々のブログ更新くらい。でも数少ない活動をFさんは追ってくれてて、僕の言語感覚をよく褒めてくれた。
一方、彼は音大を出てて(中退だっけな?)、ピアノがべらぼうに上手い。自宅のピアノ教室でがっつり小中学生にピアノを教えているレベルだ。家に遊びに行ったとき、ツヤッツヤのグランドピアノが鎮座しているのを見たときにはさすがに驚いた。
彼はときどきピアノ弾き語りのライブをしていた。何度も足を運んだことがあるけど優しさと力強さが共存するピアノは最高で、伸びやかな高音で歌うユーミンの「卒業写真」は圧巻だった。
端くれとはいえ共に表現者。お互いが尊敬し合う関係がとても心地よかった。
ある日のバイト帰りのある日、いつものように仕事終わりの深夜にすた丼の肉と飯をかっこんでいた。そのとき突然「詞、書いてみない?」と言われる。オリジナルの曲を作りたいから力を貸してくれとのことだった。びっくりしたけど快くOK。だって『詞の提供』だなんてカッコいいじゃん。作詞家じゃん。
こっちが先に歌詞を作って後から曲をつけてもらう。いわゆる詞先と呼ばれるスタイル。ある程度自由度は高いとはいえ、文字数を調節したり、ちゃんとサビで盛り上がるようにしたり慣れない作業に奮闘した。
そして『夢へ』という詞ができた。今考えるとストレートすぎてちょっと恥ずかしいけどなかなか熱量のこもった言葉が書けたと思う。
ルーズリーフに並べた書いた言葉たちを見せたら「軽い気持ちで頼んじゃったけどとんでもないものが届いたなぁ。いい曲作ります」と彼は微笑んだ。
1週間後くらいには曲ができてた。曲ってそんな早くできるんか。彼の家で軽く聴かせてもらっただけで泣きそうになった。いや、嘘。なんならちょっと泣いた。Apple Musicに入ってないのが悔しいくらいの名曲だ。
そこから時を経てまた彼のライブがあった。お得意のカバー曲が続いて最後にふたりの合作がきた。家で聴いた時とは違って、ライブハウスのフルパワーで歌われたら迫力がとんでもない。
自分が初めて書き下ろした詞であるという贔屓目はあるものの、あまりによすぎた。大きい塊が頭上に降ってきたみたいな衝撃。おかげで僕の瞳のダムはぶっ壊れて滝が流れた。
終演後、何て言ったか覚えてないけど確実に「ありがとうございます」って言った気がする。なんかそれが1番ぴったりくる言葉だったのだ。
僕がノートに書いた歌詞は音を纏って空に舞った。紙の上で寂しがっていた言葉に彼が羽をつけてくれた。
📚
月日は流れ、夢が破れ、涙がこぼれ。
僕は芸人を辞めた。
これから何をしていこうかなと模索してたけど「言葉で人を笑顔にしたい」という根底の思いは変わらなかった。だから次は「書く」ことに情熱を注ぐことにした。
書き溜めてた言葉の切れ端をかき集めたり、図書館に通い詰めてひたすら机に向かったり、人生を振り返ったり、大切な人たちのことを思い浮かべたりして1冊の詩集ができた。
詩集のタイトルは『散るくせに咲く』
人間はいつか散る。それなのに咲こうとする。
いや、いつか散るから今を咲き誇るんだろう。
力強く生きていくことを決意した詩集だ。
自分で作った初の詩集に1000円という決して安くない値段をつけた。これって結構、勇気がいることである。
だって今日び文豪たちの本だって安く手に入る。夏目漱石の文庫本が700円くらいで買える。価格だけで言ったら漱石越えちゃってる。漱石以上のものが書けてるんだろうか?当然イエスとは言い難い。
でも、僕は値段をつけた。
人の作品は知らん。自分の本が好きだ。人生を詰め込んだ。お金をもらっても恥ずかしくないものを書き上げた。という自負があるから。
ただ、お世話になってる人で欲しがってくれる人には献本しようかなと思っていた。当然Fさんにも。でも彼はしっかりと1000円を渡してきた。
「これは価値があるものだから」と真剣な表情で頷きながら。
こうして初の売り上げが立った。
料理を運んだり、皿を洗ったり、テーブルを片付けたり。そういった仕事じゃなくて自分の作品でもらったはじめてのお金だ。作品が売れると「稼いだ」というより「認められた」という気持ちになる。
原価が400円くらいだから差し引いて600円の利益か。数字にするとちっさいから腹立つ。確実にそれ以上の輝きがある。こっちには一生、消えない輝きがあるんだよ。
僕はこの輝きを手にしたいから、
これからも作品に値段をつけて生きていく。
そういえば詩集の中に『夢へ』をこっそり忍ばせておいた。ふたりの思い出は本の中に存在し続けてる。
こちらはnoteの自主コンテストへの応募作になります。書いた人全員が100円もらえるというおもしろい試み。チップの嬉しさは格別だもんね。
こういう自主コンテストが気軽に開催できたり、挑戦できるのがnoteの楽しいところ!これからも一緒にnoteを盛り上げていきましょう。
主催の無職さん、スポンサーの瀬戸内note研究所さん、どうもありがとうございます!!
■ ちょっと自己紹介
📕noteコンテスト『ハマった沼を語らせて』にて優秀賞いただきました。
📙めちゃくちゃ読まれたnote
📘自己紹介的note
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