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僕と娘と覚醒剤 #003|犯罪者と田舎町


身内に犯罪者がいる。


これはいったいどういうことだろう。自分が犯した罪ではない。自分が示唆したわけでもない。僕はただの平凡な中年のくたびれた男だ。

しかし『身内が犯罪者』、という響きには、自分の一部がどこかしら悪に染まってしまったような感覚がある。白いシャツにこぼしてしまった、ほんの僅かなワインのシミ。

そして、そのシミはどんなに頑張ってシャツを洗っても消えはしない。



僕は、東京で逮捕されて保釈された娘と、伊豆半島の先端の町にいた。

人口2万人ほどの、海が綺麗で静かなところだ。

その町には、僕のサマーハウスというか、別荘というか、そんな家がある。僕は釣りとかサーフィンとかのアウトドアが好きなのだ。僕の住民票もその町に設定されている。

普段、僕はそれなりの都会に暮らしてはいるが、娘の保釈にあたって「都会はよくない」という見解が元妻と弁護士から示されたので、保釈地をここに設定した。僕は娘の『身元引受人』となり、2人で裁判までの期間をこの町で過ごす。

まず、保釈されたばかりの娘の服装をなんとかしなければならなかった。

いきなり地元を飛び出し、東京に出て、飛び込みで性風俗業で働いていた娘の服装は、『いかにもそういう仕事の人』だった。まだ肌寒いのに、ヘソが見えているTシャツ。パンツが見えそうなスカート。


「お前、なにそれ?ケツとかハラとか見せたいの?」


「え~?かわいいでしょ~?」


「サイズ小っさくね?カネないの?そんな小っさいのしか買えんの? 笑」


「そうそう。ビンボーでね~ 笑」


僕は娘に1万円札を渡し、駅前のファストファッション店で、とりあえず家で過ごせるくらいの服を買うように指示する。


「いいか?ここは外だけど、刑務所だと思え。お前にとっては刑務所の町だ。刑務所の服屋で買い物するんだからな。下着とか部屋着とかだぞ。派手なの選ぶなよ」


「わかった。や~…刑務所ね…」


田舎の駅前の服屋だ。逮捕される前は渋谷で買い物をしていたという娘には物足りないだろう。それでも数週間、拘置所にいた娘にとっては久しぶりのショッピング。ウキウキと小走りに店内に入っていった。



「あなたとBB(娘)は、本当にそっくり」


元妻はよくそう言っていた。今でも言う。自分でもそう思うし、おそらく娘もそう思っているだろう。

ファッションや音楽が好きで、気になるものを見つけたらすぐに行動してしまう。衝動的で快楽的。あまり後先は考えない。気になる異性を見つけたら、すぐに付き合いたいしセックスしたい。困難があっても気にせずに、とにかく前へ前へと進みたがる。

こういう性格だと、良いときはとにかく良い。万事快調オールオッケー!超ハッピーの無敵状態!という感じになるが、逆に悪いときはとことん悪い。終わりなきこの世の生き地獄、みたいな状態が一定期間つづく。

僕はトシをとって、世界のルールもある程度学んでいるので、ブレーキをかけられるようになったし、良い時も悪いときも永遠に続くわけじゃないと知っているけど、娘はまだそこまで達していない。

悪いときに悪いモノが近くにあれば誘惑に屈してしまう。

本当は助けにならないと分かっていても、その時の心がつらすぎるので、一時的にでも苦しみから逃れる為に、その方向へ突っ走る。

たとえそれが間違っていると知っていても、だ。

釈放され、再会したときの、「パパ、ごめんね」の言葉と、反省の足りないような笑顔で僕には全てが解った。

そう、僕と娘は似すぎているゆえに、僕は娘の気持ちや行動の理由が、手に取るように解ってしまうのだ。

親として本当によくない。



よく『相手の気持ちになって考えろ』とかいうが、こと親子関係においては、子供の気持ちになって考えてばかりいたら教育が成立しなくなる。

「パパばっかお酒飲んでズルい」「パパばっか好きに買い物してズルい」「パパばっか夜更かししてズルい」などの非難に『そうだよなー不公平だよなー。よしよしお前も酒を飲め』、などといちいち公平性を担保してしまったら、その瞬間に『親』という教育機関は崩壊し、『友達みたいなパパ号』という奇妙な船を出港させることになる。

僕はマヌケにも、その『友達みたいなパパ号』のてっぺんで、『娘と仲良しのパパでぇ~~~す!』みたいなアホなことが書いてある旗を得意げにバタバタと振り回して、『社会』という海の中で、子供を間違った方向へ導いてしまっていた。

「BBは、あなたの言うことなら聞く」と、元妻は羨むが、そりゃそうだろう。親の言うことは聞かなくったって、友達の言うことは聞く。

つまり僕は、親として娘に完全に舐められているってことだ。

親なんて、理不尽で当たり前なのだ。だって社会が理不尽なんだもの。それを身をもって教えるのが、親の務めってもんだろう。



娘が息を切らせながら、下着や服を満載したビニール袋を抱えて戻ってくる。買ったものをチェック。よしよし、普通のスウェットに普通のパンツ、普通の靴下に、その他もろもろ。問題なし。


「パパに言われたとおりにした!」


「よし!」


「そもそも…そういう服しか売ってない! 笑」


「知ってる。ここ田舎だし 笑」


こうして、僕は逮捕されてしまった娘と一緒に暮らすことになった。