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Juana Rozas『TANYA EN EL CRUCERO』──クラブを抜け、海へ向かったTANYAの新章。快楽と虚飾が導く、新世代ラテンポップの航路


最新EPリリース 2024/04/23 
TANYA EN EL CRUCERO

直訳すると
「クルーズ船の上のターニャ」
または
「ターニャ、クルーズへ行く」

 つまり今回のEPタイトル『TANYA EN EL CRUCERO』は、前作で描かれた“TANYA”というキャラクターの次章として機能しているように見える。
 舞台はクラブのフロアからクルーズ船へと移り、より華やかで、より享楽的で、どこか虚飾にも満ちた世界へ進んだ印象だ。夜の街で燃え上がっていた主人公が、今度は海の上で新たな物語を始める。そんな続編的な読み方ができるタイトルになっている。

 今年発表された3曲については後段であらためてまとめて触れているので、ぜひそちらもあわせて見てほしい。こうしてEP全体が出そろった今振り返ると、それぞれのシングルが『TANYA EN EL CRUCERO』へ向かう流れの中にあったことがよくわかる。「CAPITÁN」はクルーズ船というコンセプトを先取りする導入曲であり、「BOTONES」はJuliana Gattasを迎え、欲望や自己演出をポップに広げた一曲だった。そして「QUISIERA CHOCAR DESPACIO」は感情の揺れや危うい恋愛模様を描き、作品に繊細な陰影を与えていた。単発のシングルに見えた3曲が、結果的にこのEPの世界観を形作る重要なピースになっていた。

 そうして完成した『TANYA EN EL CRUCERO』は、単なる先行曲の寄せ集めではない。豪華な船の上で踊り、酔い、恋をし、少しずつ壊れていく――そんな一本のショートフィルムのような作品として成立している。航海、夜、快楽、キャラクターとしての自己演出、破滅寸前のロマンス、そしてラテン新世代ポップの感覚が20分の中に凝縮されている。

 前作『TANYA』がクラブのフロアで起こる地上戦だったとするなら、今作はその主人公が海へ出て、さらに大きなステージで騒ぎ、揺れ、感情をこぼしていくスピンオフ作品のようにも感じられる。

Juana Rozas, Six Sex - SPLASH

EPリリースと同時に公開されたのが
「SPLASH」MV

Six Sexはアルゼンチンのクラブ/ネオペレオ/テクノ文脈で存在感を増している存在で、身体性・夜・挑発・レイヴ感を象徴するアーティスト。

 「SPLASH」は水しぶきや飛び込み音を意味する言葉で、今回のクルーズ船テーマとも自然につながるタイトルだ。さらに、クラブで弾ける高揚感やSix Sexとの派手な共演まで重なり、海・夜・快楽・登場感を一気に想起させる。短い一語ながら、このEPの華やかさをよく表している。

リリース 2026/04/09

Juana Rozas feat. Juliana Gattas「BOTONES」

「BOTONES」は、グラマラスでエネルギッシュなダンスポップだ。
 Della & Bbynotoによるプロダクションはリズミカルでパーティー感に満ち、前シングルの内省的な暗さとは真逆の祝祭感に溢れている。
 でもこれは方向転換じゃない。「CAPITÁN」の解放感、「QUISIERA CHOCAR DESPACIO」の緊張感、その両方を経たうえで辿り着いた、クルーズ船「Tanya」の世界におけるクライマックス的な一曲だ。

 そしてJuliana Gattas——アルゼンチンの国民的ポップデュオMiranda!のボーカル。

 Juana Rozas自身が以前のインタビューで「いつか一緒にやりたい」と語っていた念願の相手だ。その声が加わることで「BOTONES」は単なるダンストラックを超え、二人の女性が舞台を支配する演劇的な一幕へと昇華している。

QUISIERA CHOCAR DESPACIO

 静寂の中で激突する、痛切なまでの愛の渇望。 「CAPITÁN」で鮮やかな80'sポップへの舵取りを見せたJuana Rozas(フアナ・ロサス)が、休む間もなく放った新曲「QUISIERA CHOCAR DESPACIO」
 今作で彼女が描くのは、祝祭の後の静寂か、あるいは深淵な海辺で繰り広げられる「愛と暴力」の境界線だ。

QUISIERA CHOCAR DESPACIO  (ゆっくりと衝突したい) AI日本語訳

それが私の望んでいることなのか、自分でもわからない
ゆっくりと衝突したい
あなたの体にぶつかって
触れることができる
泡はあなたの涙になるのか
それとも私の唾液と混ざり合うのか
あなたを自由にさせておきたい
踊る私にぴったりと寄り添って
私の暴力性を受け入れて
そして私の愛の形も
あなたの肌は甘いの? それともしょっぱいの?
喉が渇いた、もっと欲しい
うつ伏せで果てるまで、私の口を支配するのが好きなんでしょ
あなたの肌は甘いの? それともしょっぱいの?
喉が渇いた、もっと欲しい
うつ伏せで果てるまで、私の口を支配するのが好きなんでしょ
あなたのお母さんはどんな人?
あなたの友達はどこにいるの?
私なら彼らの代わりになれる
そのすべて、それ以上のものにだってなれる
あなたを自由にさせておきたい
踊る私にぴったりと寄り添って
あなたの暴力性を受け入れて
そしてあなたの愛の形も
私を真ん中まで引きずり出して
完全なエクスタシーを感じている
あなたの重い体を感じる
海のように私を窒息させて
そんなに何度も振り回さないで
私を放さないで(私から離れないで)
これがあなたの暴力
私の愛の形なんて欲しくない
私の愛の形なんて欲しくない

祝祭の航海から、静かなる深淵へ
 前作が豪華客船での煌びやかな「外向きの解放」だったとするならば、今作は深い霧に包まれた海岸線で繰り広げられる「内向きの執着」だ。サウンド面では前作の80's的なシンセの質感を継承しつつも、よりミニマルで研ぎ澄まされたエレクトロ・ポップへと深化。そこへ彼女のバックグラウンドである演劇的素養が、肉体性を伴った「静かなる狂気」として覆い被さる。
「海のように私を窒息させて」──愛と暴力の境界線
 リリックは痛切なまでに官能的だ。「Quisiera chocar despacio contra tu cuerpo(あなたの体にゆっくりと衝突したい)」という独白から始まり、「Asfixiame como el mar(海のように私を窒息させて)」と願うその姿は、愛と暴力、快楽と痛みが未分化だった時代の原初的な感情を呼び覚ます。まさに彼女が標榜する「ホラーポップ」の真髄が、この一曲に凝縮されている。

 ハイパーポップから伝統的フォークロアまでを飲み込んできた前作アルバムの実験性を経て、今、Juana Rozasは「ポップス」という器の中に、より純度の高い「毒」を盛り込み始めている。
 立て続けに公開されたこの2曲は、次なるEPやアルバムが単なる楽曲集ではなく、緻密に構成されたひとつの「演劇的体験」になることを予感させる。

CAPITÁN

 「CAPITÁN」は、クルーズ船という閉じた空間を舞台にした、完璧なEscape Fantasyだ。海の上には法律も常識もない。
 そんな解放感を、スペイン語特有の軽やかなリズムに乗せて歌い切る。

 前作アルバムでハイパーポップ、EDM、インダストリアル、そして伝統的なフォークロアを解体・再構築してみせた彼女が、今作で選んだのは意外にも「80's Pops」へのオマージュだった。
 一聴すると、ラテン・ポップの軽快なリズムと煌びやかなシンセサイザーが耳を奪う。
 しかし、そこはJuana Rozas。単なる懐古主義には着地しない。歌詞に目を向ければ、「キャプテン、これは合法なの?」という不穏な問いかけや、逃れられない「隠れんぼ」の暗喩が散りばめられ、彼女独自の「ホラーポップ」なエッセンスが全編を支配している。

 本作は、次なるEP(あるいはアルバム)への重要な布石となる先行シングルだ。
 実験的な音響工作を経て、よりストレートで、かつ、より深い「恐怖と悦楽」を表現し始めた彼女。次作では一体どんな物語を演じてくれるのか。Juana Rozasという底知れないアーティストの「第二幕」から、片時も目が離せない。



はじめに

 21世紀のアルゼンチン音楽シーンにおいて、フアナ・ロサス(Juana Rozas)ほど音楽、演劇、そして視覚芸術の境界線を自在に、かつ暴力的に往来するアーティストは稀です。

 1996年、ブエノスアイレスに生まれた彼女を形作るのは、極めて対照的な二つの背景です。
 一つは、伝統的なコンサバトリー(音楽院)での厳格な教育。
 そしてもう一つは、ブエノスアイレスのクィア・ナイトライフに渦巻く混沌としたレイヴ・カルチャー。この一見相反する要素を統合し、彼女は独自の領域「ホラー・ポップ」を切り拓きました。
 彼女の表現は、単なる楽曲の提示に留まりません。自身の内面的な不安や怒りを「キャラクター」というフィルターを通して外部化する、高度に概念的なプロセスに基づいています。

プロフィールと教育的背景:アカデミズムと身体性の融合

 フアナ・ロサスの芸術性の根幹には、幼少期から積み上げられた多層的な教育背景が存在する。
 彼女は10歳の時に演技の勉強を開始し、これが後に彼女の音楽活動における「キャラクター主導型」のアプローチの礎となった 。
 音楽面では、アベジャネーダ大衆音楽学校(EMPA)およびマヌエル・デ・ファジャ音楽院という、国内でも有数の教育機関で声楽と楽器の基礎を学んでいる 。
 彼女自身、自身のギター奏法を「コンサバトリー出身のジャズ奏者のよう」と定義しており、即興性と理論的裏付けを兼ね備えた技術を保持していることが伺える 。  
 2015年から2016年にかけては、著名な劇作家であり演出家のマリアーノ・テンコーニ・ブランコや俳優ジュリアン・カブレラの下で師事し、演劇的な深みを深化させた 。
 この演劇的訓練は、彼女を「ただ歌う歌手」ではなく、「シーンを支配するパフォーマー」へと変貌させた。彼女のステージ上での身体表現は、しばしば「何かが燃えていて、それを消す方法がわからない者のよう」と評され、視覚的な歪みと感情の噴出が同時並行で進行する 。

フアナ・ロサスの教育的背景と師事した専門

 まず音楽教育として、アルゼンチンの名門である学校法人アベジャネーダ大衆音楽学校(EMPA)にて学び、声楽および音楽理論の基礎を修得。ここでボーカル技術と理論的構造理解を身につけている。

 楽器面ではマヌエル・デ・ファジャ音楽院にてギター演奏技術を習得。作曲とパフォーマンス双方に活きる実践的スキルを磨いた。

 さらに演劇分野では、演出家マリアーノ・テンコーニ・ブランコのもとで劇作と演出理論、そして舞台上での身体性について学ぶ。
 加えてジュリアン・カブレラから演技指導を受け、俳優としてのキャラクター構築技術を強化している。

 また、演劇芸術学校において実践的な舞台パフォーマンス訓練も重ねており、理論だけでなく現場経験も積んでいる。

音楽遍歴とキャリアの進化:ロックからデジタル・エレクトロニクスへ

 フアナ・ロサスの音楽的ルーツは、意外にもクラシックなアンサンブルの中にありました。彼女のキャリアを紐解くと、伝統的なロックの構造から、パンデミックを経てデジタル・エレクトロニクスへと至る、鮮やかな変容のプロセスが浮かび上がります。

伝統への敬意とバンド時代:スピネッタから「Gruv in Furs」まで

 キャリアの初期、彼女は地元のシーンでジャズ、ロック、ファンク、R&Bといったジャンルを横断するバンドに身を置いていました。
 特筆すべきは、アルゼンチン・ロックの至宝ルイス・アルベルト・スピネッタ(特にAlmendra時代)からの強い影響です。

 彼女が持つ叙情的でメロディックな感性は、この時期に培われたクラシックなロックの構造に深く根ざしています。

 また、エレクトロポップ・トリオ「Gruv in Furs」での活動は、彼女の表現の多面性を象徴しています。

• 役割: 彼女はボーカルを担当。
• 構成: 友人がダンスを、別のメンバーが作曲を分担。
このユニットでの経験は、音楽を「聴覚」だけでなく「身体(ダンス)」や「演出」と不可分なものとして捉える、後のトータル・アート的な視点の萌芽となりました。

2020年:パンデミックがもたらした「孤独な武装」

 彼女の音楽的ベクトルを決定的に変容させたのは、2020年のパンデミックによる隔離期間でした。他者とのセッションが物理的に断絶されたこの空白の時間は、彼女にとって「内なる狂気」と向き合う時間となりました。
 彼女はYouTubeのチュートリアルを頼りに、AbletonやGarage BandといったDAW(デジタル音声ワークステーション)の使用法を独学で習得します。この「デジタルへの転向」は、単なる制作ツールの変更ではなく、彼女の表現における決定的なパラダイムシフトでした。

肉体性の解体と、人工的人格(キャラクター)の構築

 楽器を抱えた「生身の人間」としてのセッションから解放された彼女は、デジタル空間の中で自身の声を加工し、分解し、再構築する手法を手にしました。この隔離期間に制作されたプロトタイプこそが、後にプロデューサーのマヌエル・デンギスと共に完成させるデビューアルバム『Vladi』の原型となったのです。

デビュー作『Vladi』:キャラクターという防壁

 2022年11月11日にリリースされた初のフルアルバム『Vladi』は、彼女の芸術的アイデンティティにおける「キャラクター」の重要性を世に知らしめた 。このアルバムにおけるキャラクター「Vladi」は、自身の内面にある臆病さや恐怖を隔離するための「盾」として機能していた 。  

 音楽的には、ミニマルなエレクトロニクスと高度にチューニングされたロボットのような歌声が特徴である 。これは隔離生活中の孤独とデジタルな繋がりを象徴しており、「ホラー・ポップ」という概念の萌芽が見て取れる 。収録曲「Cementerio」のように、死や孤独を扱いながらもダンスフロアに適したリズムを刻むスタイルは、ブエノスアイレスのレイヴ・シーンにおける彼女の立ち位置を確固たるものにした 。

『TANYA』(2025):怒りと心理的ホラーの集大成
2025年4月17日にリリースされたセカンドアルバム

 『TANYA』は、前作『Vladi』のコンセプトをさらに拡大・深化させた作品である 。本作は、過去から逃走し、未知の都市で自身の悪魔と対峙する一人の女性「Tanya(ターニャ)」の物語を描くコンセプト・アルバムとなっている 。  

1. 創作の動機と感情的背景

 本作の根底にあるのは、フアナ・ロサス自身が直面した強烈な怒りとパニック障害、そして死に対する恐怖である 。彼女は自身の精神的な苦痛をキャラクター「Tanya」に投影し、それを芸術として外部化することで、苦痛からの距離を保とうとした 。制作過程では、自身の内面を「掘り起こす」ような激しいプロセスが必要とされ、結果として『Vladi』よりも肉感的で攻撃的なサウンドに仕上がっている 。  

2. 楽曲分析とキャラクターの進化

 『TANYA』のサウンドは、EDM、インダストリアル、ロック、そして伝統的なフォークロアの要素が複雑に絡み合っている 。アルバムは全13曲で構成され、物語の進行に合わせてTanyaの変容が描かれる。

「PUERTA」: 物語の入り口。まだフアナ自身の断片が残っている状態から、Tanyaへと変容し始める瞬間を描く 。復讐心と逃走の意志が、インダストリアルな質感の中で歌われる 。

「BAD CHOICE」: Tanyaとしてのキャラクターが完全に構築された段階。クラブ・ミュージックの要素が強く、ハイテンションな狂気が爆発する 。

「QUÉ IMPORTA」 (feat. MARTTEIN): パンク的で工業的な強度の高い楽曲。夜のシーンでの「ふざけ」と「無垢の喪失」を象徴し、追跡者の存在を知りながらも「認知不協和(デメンシア)」を装う Tanyaの姿が描かれる 。

  MARTTEINについてはこちらをぜひ⬇️

「RIDÍCULO」 (feat. Santiago Motorizado): アルバムの中でも特異な位置を占める、ロマンティックで不器用なインディー・ポップ 。アメリカのティーン向け映画『恋のからさわぎ(10 Things I Hate About You)』から着想を得ており、愛に対して無防備なTanyaの側面を照らし出す 。

「BESITO A LAS FLORES」 (feat. CHITA): フォークロアの根源的なリズムとメタルの重厚なギターが融合した爆発的なナンバー 。視覚作品(短編映画)では、ChitaによってTanyaの眼球が摘出されるという衝撃的なシーンが伴い、「治癒のための犠牲」という暴力的な救済を表現している 。

視覚芸術としての『TANYA』:短編映画と美学の統合

 フアナ・ロサスは「音楽を視覚的に考える」アーティストであり、アルバム『TANYA』は30分の短編映画を伴って発表された 。この映画は、リーン・バスケス(Lean Vazquez)とファン・ウルフ(Juan Wolf)の監督の下、わずか1日の超過酷なロケで撮影された 。  さ

 映画のビジュアルは、デヴィッド・クローネンバーグやダリオ・アルジェント監督の『サスペリア』といったボディ・ホラーやクラシック・ホラーの影響を色濃く受けている 。

 特に赤と白の色彩、そして「血」の表現は、生々しい痛みと浄化を象徴している 。また、キャラクターの造形においては、ドラマ『ホワイト・ロータス』に登場するタニアの「過剰に整形された唇」へのオマージュを取り入れるなど、大衆文化と個人的な執着が混在している 。  
この視覚的作品において、Tanyaは単なる被害者ではなく、自身を破壊しながらも再生を試みる「不屈のクリーチャー」として描かれる 。ロサスによれば、この映画は音楽を補完するものではなく、音楽と映像が不可分な一つの「プロット」として機能している 。

アルゼンチン音楽シーンにおける立ち位置:異端のポップスター

 フアナ・ロサスは、現代アルゼンチンの音楽界において「異端のポップスター」としての地位を確立している。彼女の表現は、メインストリームのポップスの枠組みを利用しながらも、その中身をアヴァンギャルドなインダストリアルや実験的な演劇性で満たすという、破壊的な手法を取っている 。  

ガルデル賞(Premios Gardel)2025での評価

 彼女の芸術的探求は、業界内でも高く評価されている。2025年のプレミオス・ガルデル(アルゼンチンで最も権威のある音楽賞)において、彼女は「最優秀新人アーティスト(Mejor Nuevo Artista)」部門にノミネートされた 。これは、彼女のような実験的でダークな美学を持つアーティストが、ディロム(Dillom)やビサラップ(Bizarrap)、ラリ(Lali)といったメインストリームの巨星たちが並ぶ場において正当に評価されたことを意味する 。  

フェスティバルとライブ・パフォーマンス

 ロサスのライブ活動は、初期の小規模な会場から、プリマベーラ・サウンド(Primavera Sound)、ロラパルーザ・アルゼンチン(Lollapalooza Argentina)、

フェスティバル・バンデラ(Festival Bandera)といった巨大なステージへと急速に拡大した 。彼女のステージは単なるコンサートではなく、演劇的な演出と爆発的なエネルギーが同居する「儀式」に近いものとして受け止められている 。

その他活動:演劇と映画への進出

 フアナ・ロサスの活動は音楽に限定されない。俳優としての教育を背景に、彼女は舞台演劇や映画においてもその才能を発揮している。彼女にとって演技と歌唱は同一線上にある表現であり、キャラクターを「生きる」という点において両者に境界はない 。
特に注目すべきは、ブラッドリー・クーパーが監督を務める映画作品『¿Está funcionando esto?(これは機能していますか?)』への出演である 。

 この作品ではローラ・ダーンと共演しており、アルゼンチン国内のアーティストという枠を越えて、国際的なエンターテインメント界への足掛かりを築いていることがわかる 。
 また、舞台演劇『Todo tendría sentido si no existiera la muerte(死が存在しなければ、すべてに意味があるだろう)』における彼女の演技は、自身の音楽的なペルソナ構築にも多大な影響を与えた 。

インタビューから読み解くフアナ・ロサスの哲学

 数多くのインタビューにおいて、フアナ・ロサスは自身の創作プロセスにおける「脆弱性の活用」について語っている。彼女は、現代社会のスピード感や不安、パニックといった個人的な経験を、あえて極端なフィクションの形(キャラクター)に変換することで、観客との感情的な対話を試みている 。

 狂気とユーモアの境界
 彼女によれば、Tanyaというキャラクターには「狂気」と同時に「滑稽さ(ユーモア)」が含まれている 。例えば、激しく叫びながら「私は天使だと言って」と歌う矛盾した態度は、人間が苦痛の中で見せる不合理な振る舞いを反映している 。また、彼女の音楽において「怒り」を表現することは、自分自身を解放するための不可欠なプロセスであると述べている 。  

コラボレーションの精神
『TANYA』における客演アーティストの選定も、自身の物語に必要なピースとして慎重に行われた。サンティアゴ・モトリサード(Santiago Motorizado)との共演について、彼女は「自分がインディー・ソングを作りたいと考えた時に、サンティの声がそのパズルの欠片のように完璧にハマった」と回想している 。また、盟友Martteinとは、共にブエノスアイレスの夜をサバイブしてきた仲間として、自然な流れで共作が生まれた 。

今後の展望:クルーズ客船への脱出と進化

 フアナ・ロサスは、すでに『TANYA』以降のプロジェクトを見据えている。次なるコンセプトとして語られているのは、「豪華客船(クルーズ)に乗ったTanya」という物語である 。これは90年代の夏のバカンス的な美学に基づいた、よりポップで「スター」としての煌びやかさを追求するプロジェクトになると予測されている 。  
 しかし、彼女の表現の核にある「プロットへの執着」と「身体的な違和感」が消えることはないだろう。彼女は、自身のキャラクターが常に「落下し続けている」状態であることを好んでおり、その不安定さこそが彼女の創作のエネルギー源となっているからである 。


3-2 トラックリスト

曲名|注目ポイント

1. PUERTA
 オープニングからキック連打、Tanya世界への“入口”。


2. BAD CHOICE

 恋の誤算を叫ぶエレクトロ・アンセム。MV も話題。


3. QUÉ IMPORTA (ft. MARTTEIN)
 スペイン語 × オートチューンで放つ刹那的バウンス。


4. TU AMIGA TANYA

 主人公の自己紹介。タメ拍クラップがクセになる。

5. ANTONIO

 トキシックな元恋人を撃つレイヴ・パンク。

6. WANNA HOTEL
 90s ユーロダンスを引用、刹那の逃避行。


7. BUENÍSIMO

  “最高!”と絶叫する高速ハードポップ。


8. TANYA LOCA
 ヒステリックなシンセが暴走、本人監督 MV。


9. UN ÁNGEL
 ゴシック調コード×ダブステップ風ベース。MV あり。 


10. RIDÍCULO (ft. Santiago Motorizado)
 インディーロック界の重鎮を迎えた異色バラード。 


11. G
 1分台のノイズ・スケッチ。


12. BESITO A LAS FLORES (ft. CHITA)

 フローラルな歌詞とレゲトン調グルーヴ。MV 公開済。 

13. DEJÁNDOTE IR
 エピローグ。浄化と別れを歌うピアノ・ブレイクス。


🎬 映像でも語られる“TANYA”という物語

 『TANYA』には、ほぼ全曲にミュージックビデオが存在し、アルバム全体が映像作品としてもコンセプトを貫いているのが大きな特徴。

 中には自ら監督を務めたMVもあり、彼女がこれまで演劇で培ってきた表現力やキャラクターの構築力が、音楽だけでなく映像でも遺憾なく発揮されている。

 その映像美・編集センス・演技も含めて、『TANYA』は“見るアルバム”としても非常に完成度が高い。

 特に「TANYA LOCA」や「UN ÁNGEL」「BUENÍSIMO」などのビデオでは、楽曲の情動を視覚的に増幅させる演出が際立つ。

4. 『Vladi』(2022)からの進化

● サウンドの違い

『Vladi』
 ドリーミーR&B/ベッドルームポップ
 やわらかく繊細、ささやくような歌声

『TANYA』
 ラテン・レイヴ/ハイパーポップ
 歪んだボーカルと高速ビート、クラブ仕様に変化

● テーマの違い

『Vladi』
 自分の気持ちや恋愛をそのまま綴った「日記」的作品

『TANYA』
 架空の主人公“Tanya”を通じて怒り・解放を描く「物語」型アルバム

● ボーカル表現

Vladi:ナチュラルで素肌感のある歌唱
TANYA:オートチューン&ディストーションで人格すら変化

● テンポとビート感


Vladi:ゆったりしたR&B調(90〜110BPM)
TANYA:140〜150BPMのクラブ仕様、高速キック連打

● 成長ポイントまとめ
• 表現が“内向き”から“攻撃的”に
• 自分の感情→フィクションを通じた普遍性へ
• 歌のスタイル・ビート・演出すべてが拡張&深化

🔁 ピックアップ曲(旧作)

• Bendición – ネオソウル×スペイン語メロ、祝福を乞うささやき。


• Hola Mami – 軽快スラップ・ベースで“母性と自由”を歌う夏曲。

 成長ポイント
1. ビート – 90-115 BPM ➜ 150 BPM 超へ。
2. ボーカル表現 – 素肌感 ➜ デチューン+ディストーションで人格変換。
3. 物語性 – 日記的歌詞 ➜ キャラクター “Tanya” を通したコンセプト化。 

6. インタビュー抜粋

• EN EL VACÍO #12(YouTube)
「Tanya は “常に落下し続ける女の子”。だからこそビートも休まない」 


• Indie Club(2025/05 掲載)
「『Vladi』は私の日記。『TANYA』は私の悪夢。」


• MapSound(2025/05 掲載)
「ファンには “この世界に飛び込め” と言いたい」 

• 日本語レビュー(note 記事)


• 『今月の1枚:Juana Rozas “TANYA”』で “ラテンZ世代が聴くべき怪作” と紹介。 

7.S.A.M.A(Sindicato Argentino de Mostras Amigas)──“モンストラたち”が支える『TANYA』という視覚と連帯の物語


アルゼンチン発・“モンストラ姉妹組合”とは?─
メンバー
フアナ・ロサス、Six Sex、Vera Frod、Chita、Fiah Miau、Faraonika の 6 名。

Six Sexのnoteまとめでメンバーについても書いてますのでこちらもよろしければ。


• 結成
2023 年、ブエノスアイレスの DIY クラブシーンで合流した女性/クィア・アーティストが「お互いを守り合う“組合”を作ろう」と発案。名称の Mostras(モンストラス) は「怪物的な女の子」を意味するスラングをあえてポジティブに再解釈したもの。  
• 目的
1. ギグやツアーを共同で組み、出演料・機材・プロモーションをシェア
2. クィア & 女性表現者が安全にパフォーマンスできる空間づくり
3. 南米‐欧州間を横断するショーケース・イベントを企画 (2024 年秋はベルリン〜パリで開催) 
• 活動実績
• 2024.05 共同ショーケース〈Mostras y Reinas de la Noche〉@Niceto Club
• 2024.10 欧州ツアー(ベルリン Berghain/パリ La Station ほか)
• ポッドキャスト「EN EL VACÍO」#12 でフアナが S.A.M.A を語る回が配信 

Juana Rozas との関係
『TANYA』期の MV 撮影チームや衣装デザインも S.A.M.A のメンバーが担当。特に「TANYA LOCA」はフアナ自身が監督し、Six Sex が振付に参加──演劇で培った表現力と、コレクティブのクリエイティブが融合した映像美は必見。

POINT
『TANYA』は“聴くアルバム”であると同時に、S.A.M.A のネットワークを総動員して 「見せるアルバム」 として完成。ほぼ全曲に MV が用意され、怒りと解放の物語を 音+映像+パフォーマンス で多層的に体感できる。


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