MARTTEIN「Argentina Is Daing」“ラテンアメリカはアメリカの南にある村だ” 皮肉と絶望で描く国家風刺ポップ
最新リリースシングル 2026/06/10
Argentina Is Daing
MARTTEINが新曲「Argentina Is Daing」をリリースした。まず目を引くのはタイトルだ。
本来なら Argentina Is Dyingつまり「アルゼンチンは死につつある」となるはずだが、ここでは Daing と綴られている。単なる誤字ではなく、壊れた国家、崩れた言語、機能不全の現実そのものを示すような、MARTTEINらしい皮肉に見える。
『Argentina Is Daing』歌詞のAI全訳/要約
アルゼンチンの若者言葉(ルンファルド)や社会風刺が効いた、剥き出しの歌詞の全訳です。
俺たちには気になることがあるんだ。
一日中、部屋(ピース)に閉じこもっていること。
「あいつら一体、何(クソ)で食って生きてるんだ? 働きに行けよ」
なんて言われるけど、
要するに、俺たちはこの「ポップミュージック」ってやつにのめり込んでるんだよ。
ドアの下には何枚もの請求書、
テーブルの上は(コカインの)白い山でいっぱい。
テレビをつければ、アルゼンチンのニュース。
なんたる狂気、なんたるサプライズ。
見てみろよ、この泥沼から誰が俺たちを救い出してくれるっていうんだ?
俺たちはどこへ行けばいい?
お前はどこに隠れるつもりだ?
通りへ飛び出すべきか、それともクローゼット(プラカール)に閉じこもるべきか、それすら分かりゃしない。
俺はただの一般市民(シビル)なのに、奴らは推進弾(プロジェクティル)を撃ち込んできやがる。
ここは企業なのか? それとも国家なのか?
でも、俺は前より落ち着いているんだ。
なぜって、新聞で読んだからさ。
もう「特効薬(キュラ)」は存在しているんだって。特効薬がね。
問題ないさ、もうすぐ「援助」がやってくる。
海外からの援助がね。
世界には人々がいる、善い人々がいるんだ。
そして幸運なことに、彼らはサウスアメリカ(南米)をとても愛してくれている。
アルゼンチンは命がけで戦っている。
奴らは死にかけている。
アルゼンチンは命がけで戦っている。
アメリカ。
ラテンアメリカは、米国の南にあるひとつの村。
ラテンアメリカは、米国の南にあるひとつの村。
アメリカはひとつの村、米国。
ラテンアメリカはひとつの村、米国。
曲は、部屋に閉じこもる若者たちへの視線から始まる。「一日中、部屋に閉じこもっている」「何で食ってるんだ?」「働けよ」
これは、若者やアーティストに向けられる典型的な説教の声にも聞こえる。
それに対して、彼は「俺たちはポップミュージックをやっている」と返す。ここにあるのは、働く/働かないという単純な話ではない。
経済が壊れ、未来が見えず、それでも何かを作るしかない世代の感覚だ。中盤では、テレビや新聞の言葉が皮肉として登場する。
テレビをつければ、またアルゼンチンの混乱が流れる。誰かが「救ってくれる」と言う。
新聞には「もう治療法はある」と書かれている。外国からの援助も来るらしい。
でも、それは本当に救済なのか。MARTTEINはここで、アルゼンチンが繰り返してきた「危機」と「救済」の物語を笑っている。
IMF、アメリカ、外資、投資家。
いつも外から助けが来るように語られるが、生活者の不安は消えない。そして曲の核心が、最後のフレーズにある。
「Latinoamérica es un pueblo al sur de Estados Unidos」
「ラテンアメリカは、アメリカ合衆国の南にあるひとつの村だ」これはかなり強烈だ。
アメリカから見れば、アルゼンチンも、チリも、コロンビアも、メキシコも、すべて“南側のひとまとめ”にされてしまう。文化も歴史も違う国々が、経済的にも政治的にも「アメリカの影」の中で扱われる。
この一節には、ラテンアメリカ全体に対する植民地主義的な視線への怒りがある。
「Argentina Is Daing」は、アルゼンチンについての曲でありながら、ラテンアメリカ全体についての曲でもある。
若者批判、テレビ報道、外国援助、国家の危機、アメリカ中心の世界観。それらを直接怒鳴るのではなく、MARTTEINは皮肉とユーモアで包み、ポップソングとして鳴らしている。
『ESPECTACULAR』で描いていた「資本主義に取り憑かれた社会」の風刺が、この曲ではさらに国家そのものへ向かっている。笑えるのに、かなり苦い。ふざけているようで、実は絶望が深い。
サウンドの特徴
インダストリアル、エクスペリメンタルロック、ガバ、クンビア——ジャンルの境界線など最初から存在しないかのように、あらゆる要素をひとつの塊にぶち込んでくる。
そのカオスは単なる「実験」ではない。アルゼンチンで実際に生きること、経済危機、社会不安、出口のない日常、そのリアルな手触りが、そのままサウンドに煮詰められている感覚だ。ドラム(Andres Vilanova)が叩き出すビートは生々しく、ハードで、逃げ場がない。歌詞の世界とサウンドが完全に一致している。
プロデュースはCamilo JusidとManuel Canoが担当。
🔹 LinkedInの亡霊とピザの夢
「LinkedInの亡霊とピザの夢」=
「成功幻想に取り憑かれた社会で、素朴な幸せを夢見る矛盾した若者たち」
現代資本主義に振り回される私たちの欲望と不安のねじれを、MARTTEINはこの言葉で表現している?
MARTTEINはブエノスアイレスを拠点に活動するシンガー、プロデューサー、パフォーマー、俳優。
は演じるキャラクターたちは皆、アルゼンチン社会の腐敗・偽善・階級格差を戯画化した存在だ。2025年7月、新作EP『ESPECTACULAR』を発表し、“資本主義が生んだLinkedIn男”を主役に据えた短編映画と音楽作品で、再びシーンに殴り込んだ。
🔹プロフィール
• 本名:Martín Olveira(マルティン・オルベイラ)
• 出身地:アルゼンチン・ブエノスアイレス、プラテンセ競技場近くの中流家庭
• 生年:2001年
• 両親:弁護士、社会主義思想を持つ家庭環境
• 祖父:ルンファルド(アルゼンチン俗語)研究家・著述家
• 音楽歴:11歳でギター、13歳でDTM。10代でDillomとバンド結成(The Slots)、15歳頃からレイブ文化にどっぷり
• 音楽教育:エスナオラ音楽高校(演劇・クラシック専攻)→夜のクラブにのめり込み退学
MARTTEINの最近のインタビュー記事
上のインタビュー記事の日本語訳になります。⬇️
🔹MARTTEINの思想と表現スタイル
「政治家を責めてるんじゃない。狂ってるのは、僕たちの“日常”だ。」
◆ 社会全体を風刺する視点
MARTTEINの作品は、いわゆる「反政府的」ではありません。
彼が狙いを定めるのは、政治家そのものではなく、それを支える社会の空気や価値観。言い換えれば、「政治が狂ってるんじゃなくて、僕たちの日常がすでに狂ってる」と鏡を突きつけるような視点です。
◆ “敗者”を主人公にしたキャラクターたち
彼のMVや作品には、よく「成功者ぶっているけど中身が空っぽ」なキャラクターが登場します。
高級スーツを着ていても実は母親と同居していたり、カリスマっぽいけど信者もいない自称・教祖だったり。
これらはすべて、「自分をだまして、やっと自分を保てる」人々の姿を象徴しています。
つまり、“勝者”ではなく、不安と虚栄のなかでもがく“現代の敗者たちです。
◆「演じることでしか、本音は語れない」
MARTTEINは、作品ごとに異なる“キャラクター”になりきります。
この“演じる”という行為そのものが、彼にとっては社会批評の手段です。
「素直な言葉で批判しても届かないなら、滑稽に演じて見せる方が響く」そんな思想が、彼の演劇的なパフォーマンスにも現れています。
◆ “ポップ”を風刺の武器に
彼の曲は中毒性のあるメロディや、思わず踊ってしまうビートに満ちています。
でも、それに乗っているのは、
「偽りの成功」や「崩壊寸前の社会」に対する鋭い風刺。
つまり、「笑えるほどポップで、気づいたら刺さっている」そんな毒入りキャンディのような音楽がMARTTEINの真骨頂です。
🔹MARTTEINが演じるキャラクターたち
それぞれが“アルゼンチン社会の病理”を象徴する存在
MARTTEINの作品には毎回、“架空の主人公”が登場します。
彼らは全員「社会のどこかに実在しそうな人間」であり、アルゼンチンの資本主義、階級格差、若者文化を戯画的に表現しています。
本人いわく「これらはすべてナルシシズムに取り憑かれたキャラ」であり、それぞれ異なる社会層の思考停止を映し出しています。
👨El Rubio(エル・ルビオ)
• 登場作:アルバム『Marttein』(2023)+
短編映画『Una película argentina』
• 特徴
– パンクっぽい見た目で「シーンの覇者」を気取り、夜の街で大口を叩く
– だが実態は「母親と同居する引きこもり気味の青年」
– ルンファルド(アルゼンチンのスラング)で話し、承認欲求が爆発している
• 象徴するもの:自信だけが先行する“無自覚な中産階級”の若者
🟤 El Marrón(エル・マロン)
• 登場作:ダブルシングル「El Marrón」(2025年5月)
• 特徴
カルト教祖のように振る舞い、SNS上で“予言者”ムーブを決める
「言葉巧みに他人を騙す」「ミック・ジャガーばりにステージで煽る」本人は神秘思想にハマっているつもりだが、実態はただの詐欺師
• 象徴するもの スピリチュアル商法や「情報商材」の胡散臭さをまとうSNS世代
💼 Espectacular男(リンクトイン男)
「LinkedIn(リンクトイン)」は、主にビジネス向けのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)です。
• 登場作:EP『ESPECTACULAR』(2025)+短編映画(18分)
• 特徴
自信満々、スプレータンを塗りたくり、LinkedInを盲信する若手証券マン
高級車で出勤し、会議室で部下に激昂し、ピザとシャンパンをむさぼる
最終的には狂気に呑まれ、世界の“歯車”と化す
• 象徴するもの “資本主義こそが正義”と信じる新自由主義的エリート
• 監督:Valentín Mutti
• 脚本・主演:MARTTEIN
• 構成:各曲が章(チャプター)として登場
• 演出ポイント:
- スーツが中身を持たずに動く=資本主義の幽霊
- 時計が溶ける=労働時間に食われる個
- 鏡で顔が歪む=“自分”がわからなくなる演出
- 最後のセリフ:「No sé si soy yo, o soy todos」=「俺が俺なのか、みんななのかもわからない」
🔹EP『ESPECTACULAR』(2025)
• リリース日:2025年7月25日
• 形式:5曲入りEP+18分の短編映画+マルチキャラクター構成
• キャッチコピー:「俺が欲しいのは成功とピザ。いや、ピザだけかもしれない」
🎵 収録曲
1. Espectacular
イントロ。街、ビル、スーツ、沈黙、不穏、始まり。
モノローグ:「Ya está… vamos con todo」
2. Superofertas
• キャラクター:「Espectacular男」
• 内容:アメリカン・サイコ風のMVで、証券会社に乗り込み暴動を起こす若手証券マンを演じています。高級スーツ、専属運転手、高層ビル…といった象徴的な映像で、名フレーズ “Es el sueño sudamericano, champán y fugazzeta” が強烈に刺さります。資本主義の虚構と暴力を描いた代表作です。
アップテンポ×狂気のテクノ・バンガー。
歌詞に登場する名フレーズ:「Champán y fugazzeta, eso es el sueño del sur」
3. Sábado
週末逃避ソング。「土曜の夜にだけ正直になれる」
甘いビート、夜のクラブ、鏡に映らない自分
4. La Intervención(feat. Tomás Rebord)
政治解説者Rebordによる語りで「自己の危機」が宣言される
構成:ポエトリー×音響×リズム不在
5. Pizza Party(feat. Six Sex)
ピザとチャンパン、狂気と陶酔。ディスコ調+ユーモア+空虚。
Six Sex参加でクィアなラテン・ミックス感が爆発。
🔹プロダクション・共演者・チーム構成
• プロデューサー陣(2025年現在)
Bbynito:ベース・リードトラック
Punga:構成・インダストリアルな質感
El Pepe:ギターサウンド(旧バンド仲間)
• 映像:Valentín Mutti
監督歴:『Marttein』『Espectacular』の全映像を手掛ける
美術・衣装・シンボリズム演出に強み
• ゲストボーカル:
Tomás Rebord(政治系インフルエンサー/作家)
Six Sex(アルゼンチンのクィアクラブ系コレクティブ)
🔹過去作ディスコグラフィー詳細
◆『Antro』(2017)
• アンダーグラウンド(クラブ、夜、仲間たち)の記録
• 無名時代にSoundCloudに上げて話題に。Dillomが初登場
◆『Guerra』(2018)
• 軍事政権のスピーチ音源を大胆に引用。
• 「内戦ではなく、日常のなかにある暴力」を描く
タイトル「Guerra(戦争)」が示す通り、武力衝突よりも社会に染み込んだ“日常的な暴力を焦点にした実験的EP。
• 軍事政権下のスピーチ、デモ音源、銃声などのフィールドレコーディング的素材を大胆に引用。
• 暴力は見える形で存在するのではなく、経済格差や抑圧、家父長制、教育制度などあらゆる場所に潜むという問題意識。
🗣️ MARTTEIN本人の発言(Bandcamp掲載コメントより):
「これは“戦場”の話ではない。戦争は、家庭、職場、通学路、オンライン空間にもある」
📻 収録曲(Bandcampより)
• 1. Patria(祖国)
• 2. Guerra(戦争)
• 3. Ataque(攻撃)feat. El Plvybxy
• 4. Traición(裏切り)
• 5. Partida(出発)
• 6. Miseria(悲惨)
🧠 音楽性
• 重厚なノイズ、軍靴のようなドラム、ラジオボイス風のボーカルが交錯する、不穏で攻撃的なサウンド。
• トラップ、インダストリアル、エクスペリメンタルが融合し、冷たい都市の空気と心理戦を描出。
◆『Némesis』(2019)
• 政治と自己復讐の終着点。三部作完結。
• リリース後、一時活動休止
概要
• 『Antro』『Guerra』と続いた三部作の完結編。テーマは「政治的報復と個人の怒りの終着点」。
• タイトル「Némesis」はギリシャ神話の復讐の女神に由来し、社会的な破壊と私的な復讐が融合する世界観。
• EP/LPとしてではなく視覚作品と連動する形で公開され、一部ではアート展示として上映も行われた(記録は現存せず)。
🗣️ 本人インタビュー(Remezcla, 2025)より:
「この作品は、僕にとって“音楽をやめる覚悟”を持って作った最後のメッセージだった」
「社会の外で叫んでも、誰も耳を貸してくれない。だから中に入り、内部崩壊を描こうとした」
🧠 音楽性
• ノイズ、弦楽器、断片化された声サンプルが縦横無尽に交差。
• ロックの爆発力と、音響インスタレーションのような緊張感を併せ持つ。
• 感情の爆発と内面の沈黙、両方を冷たくも美しく描く。
🎥 映像作品
• 公開当時、インスタレーション形式で上映された映像作品『NÉMESIS – RECONSTRUCCIÓN』が存在。
• 高速点滅の都市風景と、顔にペイントを施したMARTTEINが「目を見開いたまま沈んでいく」シーンが象徴的。
(映像は現在非公開)
📌 影響
• リリース後、約1年の活動停止期間に突入。
• この空白期間を経て『Romántica』(2021)以降の“ポップ路線への転換”が始まる。
◆『Romántica』(2021)
• 初の“聴きやすさ”重視。恋愛を扱うも、重苦しい
• 「ポップと耽美を混ぜて、孤独を歌った」
◆『Marttein』(2023)
• 自身名義アルバム。キャラ“El Rubio”が主役
• 映画『Una película argentina』と連動(30分)
• 全曲を連続で聴かせる形式。長回し映像
• 話題:「路上でエアギター」「ATMの前で泣く」シーンなど
• Rolling Stone Argentina「年間ベスト」
• ガルデル賞ノミネート、Spotify RADAR入り
🌎 海外評価・メディア掲載・業界の反応
• Remezcla(US)「今ラテンアメリカで最も政治的で美的なポップスター」
• Rolling Stone Argentina「MARTTEINはメディア批評と音楽の交差点にいる」
• Página/12「成功を戯画に変えた男」
• MOR.BO(Chile)「タンゴの亡霊がクラブで踊る、その瞬間を記録したような音楽」
• Spotify RADAR南米代表(2025)
• YouTube MVが話題に(“Superofertas”)
🎤 さいごに
ピザとスーツと資本主義。この三つをこんな風に笑えて、怖がれて、そして踊れる形に変える人が、今ほかにいるだろうか?
MARTTEINは、成功を信じてる。でも、それが空っぽだってことも、誰よりわかってる。だからこそ、あえてその空っぽを全力で演じて、見せつけてくる。
“社会批評をポップでやる”というこの姿勢は、ラテンポップの外からも注目されるべきだ。アルゼンチンの現在が詰まったこの作品、ぜひ、“楽しい狂気”とともに、飲み込まれてみてほしい。
