初めての保護猫 第8話(#シロクマ文芸部)
<あらすじ>
妻に先立たれ、やもめ暮らしの75歳の主人公は、買い物帰りに近所の田んぼのあぜ道で、泥だらけになっている猫を『初子』と名付け保護することにした。ところがその猫は妊娠していて、しかも猫エイズキャリアだった。 数日後、5匹の仔猫の出産に立ち会い、仔猫の里親探しをする為、『ポチたま保護の会』主催の里親譲渡会への参加をすることになるり、近所のホームセンターで勤める理恵さんに手伝ってもらうことになった。生後2ヶ月を前に仔猫5匹のワクチン接種に連れて行った。その傍ら、初子がFIVを発症し日に日に弱っていく。
ハチミツは猫にも食べさせて良いと聞いた。
ビタミン類がたっぷり入っているし、人間だって老化防止や癌予防を期待して食べている人もいるくらいだ。猫にも疲労回復だとか免疫力UPだとか、色々効果があるはずだ。初子の餌や飲み水に少しだけ混ぜてやろう。
妻は癌に冒されて死んだ。
固形物が食べられなくなった時も、ハチミツを舐めたりお湯で薄めて少しずつ飲んだりしていた。「甘い、美味しい」と言って。
免疫力が落ちて、口の中は口内炎だらけ。流動食も飲み込むのが辛そうだった。食欲も落ちていたから、何とか力の付くものを食べさせたいと思っていたが、プリンやゼリーを流し込むように食べるのがやっとの状態だった。
それでも妻は私に心配かけまいと「大丈夫、元気になったらご馳走をいっぱい食べさせてもらうから」と言って笑っていた。
息子たちも母親の痩せてやつれた姿を見るが辛そうだった。面会の時は必死に涙を堪えているようだった。
ケージの中でうずくまる初子を見ていると、当時の妻の顔が脳裏に浮かんでくる。また同じように日に日にやつれ衰えていく様子を目の当たりにしなければいけないのかと思うと、初子には申し訳ないが逃げ出したくなる。
ただそんな衝動をかろうじて抑えていられるのは仔猫たちの存在だった。 度々母猫を求めて鳴く甘えん坊の尾曲や白がいじらしい。初子がいるケージの隙間に、必死に潜り込もうとしている長子や斑、豆男が哀れだ。
何よりそんな我が子を舐めてやることも出来ないでいる初子が不憫でやるせない。
「大丈夫か? 初子が早く元気にならないと、この子たちだって心配そうだぞ」
何度も初子に声を掛けるが、じっと目を閉じて伏せている。熱があるのか、呼吸が荒い時もある。ケージの中でぐったりと横たわる初子が、かすかに喉を鳴らした。妻が痛みに耐えながら微笑んでいたように、時々鳴いて仔猫たちの呼びかけに応えようとしているのだろう。
「無理しなくていいんだぞ」そう声をかけても、初子はじっと目を閉じたまま。わずかに動いた口元が、かつての妻の姿と重なる。
妻も、あの頃そうだった。痛みに顔を歪めながら、それでも「大丈夫」と微笑んでみせた。ベッドに横たわる彼女が、震える手で私の手を握り、「心配しないで」と言ったあの日。あの微笑みが、どれほど辛かったか。
初子も、きっと同じなのだろう。子猫たちを安心させるために、精一杯の力を振り絞っている。母親としての最後の務めだとでもいうように。
自分が初子にしてやれることは、せめて子猫たちに優しい里親を捜してやることくらいだ。
来週は『ぽちたま保護の会』主催の犬猫譲渡会に参加させてもらうことになっている。
理恵さんにその準備をお願いしていて、参加することには不安はないが、FIVに感染している仔猫だということが不安の種だ。
見た目にはとても元気いっぱいで遊び好きな仔猫たちだから、病気さえなかったらきっと人気で、すぐに里親が見つかると思う。
「初子の子どもだものな。気立てが良いに決まっているんだ」
トイレだって失敗したことないし、好き嫌いなく何でもよく食べるし、爪とぎも専用の爪とぎ用段ボールで出来るようになった。
5匹の仔猫は見ていて本当に可愛い。
「必ず優しい里親を探してやるからな」
譲渡会前に息子たちや囲碁仲間にも仔猫の話しをしてみよう。
息子たちは確かペット可のマンション住まいだったはずだし、囲碁仲間のK氏とY氏は動物好きだ。話くらいは聞いてくれるだろう。
とにかくやれることは何でもする。この年齢になっても出来ることがあるということが、何だか嬉しくもある。
妻の遺影を見つめていると、励まされているように感じた。
猫にハチミツ食べさせてもいいのか?
ちょっと調べてみたら、少しなら良いということがわかりました。
参考までに!👇
