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初めての保護猫 第6話(#シロクマ文芸部

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<あらすじ>
 妻に先立たれ、やもめ暮らしの75歳の主人公は、買い物帰りに近所の田んぼのあぜ道で、泥だらけになっている猫を『初子』と名付け保護することにした。ところがその猫は妊娠していて、しかも猫エイズキャリアだった。 数日後、5匹の仔猫の出産に立ち会い、仔猫の里親探しをする為、『ポチたま保護の会』主催の里親譲渡会への参加をすることになるが・・・。


 恋猫というほどまでのめり込んでいる訳じゃないが、初子には情が湧いてきていると思う。仔猫たちを愛おしそうに舐めている姿を見ていると、いじらしくなってきてたまらないのだ。
 仔猫たちは生後2ヶ月になろうとしていた。よちよち歩きだったのが、今では5匹でじゃれ合って部屋中を走り回るまでに成長している。そんな仔猫たちを見守る初子の視線はどこまでも優しい。
 私も最初は初子や仔猫たちの世話が大変だったが、今では慣れてきてルーティン化出来ている。気分的にも余裕が出てきたように思う。
 だが現実的なところ、特に費用に関することになると重荷に感じてしまう。なんとか5匹の仔猫たちの里親を探したいが、母猫の初子から感染しているであろう猫エイズがネックになっている。犬猫保護活動をしている『ポチたま保護の会』の小湊さんが、仔猫は割と決まる可能性が高いと教えてもらって、僅かな希望にすがっている状態だ。ポチたま保護の会主催の譲渡会に参加させてもらうことになっているが、楽観できる材料にはなっていない。でもこの期に及んで心配ばかりしていられないのだから、出来ることは全部やるつもりでいる。
 今日は譲渡会の時に展示する仔猫の写真やアピールポイントを書いたボードを作る為に、行き付けのホームセンターのお姉ちゃんが来てくれることになっている。 
 若い女の子が我が家に来るなんて、どうやって迎えればいいのか、朝からソワソワしてしまう。
 掃除をしている時、妻の遺影が目に留まった。
「なんだよ、仔猫の世話をしてもらうだけだぞ」
 やましいことはないが、妻の視線はどうも気になる。遺影を仏壇の引き出しに仕舞い閉じた。

 午後になり、チャイムが鳴って慌てて玄関へ迎えに出た。
「こんにちは」
「道に迷わなかったかね? どうぞ、むさ苦しいところだけど入って」
 ホームセンターの店員をしている理恵さんから、譲渡会に参加する手伝いを申し出てくれた時は心底嬉しかった。75年も生きてきたが、譲渡会など行ったこともないし、仔猫たちのアピールポイントをボードに書くなんて、そんなセンスは持ち合わせていない。自分一人だったら途方に暮れるところだった。
 さっそく猫たちがいる部屋へ案内する。
 初子が警戒するだろうが、理恵さんは猫の扱いには慣れているだろうから、安心して任せられる。
 初子は仔猫たちに乳を飲ませ、一緒に並んで寝ているところだった。
「可愛いーー!」
 理恵さんは仔猫たちを見るなり、いきなりテンションが上がったようで、驚かせないように小声だが昂奮していることが分かった。
 初子も見知らぬ人間が近付いてきても、少し身構える様子はあるが、唸ったりはしていない。
「仔猫たちは順調に育っていますね。可愛いですーー! 初子ちゃんの食欲はどうですか?」
「今はちゃんと食べるようになったよ、やっぱり腹が減るんだろうね」
 何も食べなくなった時は凄く心配したが、5匹の仔猫を育てるという母性と本能が生きる力になっているのだろうと思う。
「生後2ヶ月くらいでしょうか? そろそろ3種混合ワクチンを接種させることになりますね。譲渡会の参加はその後になります」
 5匹分のワクチン接種費用を用意しないといけない。貯金通帳を見るのが憂鬱になっている。
「さっそく仔猫たちの写真を撮りましょうか」
 不思議なことに初子は理恵さんが仔猫を触ることを許しているようだ。
 初対面の人間なのに、女性だからか、それとも保護活動をしている理恵さんだからか、初子の警戒心を緩ませているようだ。
 尾曲から順番に、体重を量り性別や毛色の特長などをメモしたあと写真を撮り溜めていった。
「女の子は長子ちゃんだけですね。頭に前髪のような模様があって可愛い」
 理恵さんは何度「可愛い」とつぶやいただろう。
 本当に猫が好きなんだなということが、仕草で良く伝わってくる。
 手際よく5匹の仔猫のアピールポイントをボードに書いていく。絵心もあるようで、イラストも交えてカラフルに仕上げているようだ。
「上手だね、理恵さんにやってもらって本当に助かるよ。これだと間違いなく里親が決まりそうだね」
「ありがとうございます。でもエイズキャリアということも書かないといけないので、そこがやっぱりイメージダウンですね」
 どこまでもエイズキャリアということが付きまとう。マイナスイメージになるのは覚悟しているが、小さな仔猫もあっという間に成長して、可愛い盛りの時期は短い。
「生後3ヶ月までにはなんとか決まって欲しいですね」
 生後4~5ヶ月を過ぎると見た目は成猫と変わらなくなる。そうなると里親候補者がぐんと減るということを、『ポチたま保護の会』の小湊さんが心配していた。
「今の時期、繁殖シーズンからずれていて仔猫が少ないので、この時期に仔猫を探している人には目につきやすいと思います」
 私の沈んだ雰囲気を打ち消すように、理恵さんが明るい材料を探してくれているのがわかる。気を遣わせてしまっていることが心苦しい。

 一通り作業が終わると、これからポチたま保護の会へ手伝いに行くと言って理恵さんは帰っていった。人手不足で保護活動にも支障が出ているようだ。
 ボランティンなのだから余程動物が好きで忍耐力がある人じゃないと続かないだろう。
 初子を世話するようになって実感しているが、猫の糞尿は臭いし、決まった時間に餌をやり、薬を飲ませるのは一苦労だ。毛が抜けるので掃除も頻繁にするようになった。他に多くの犬もいるのだから散歩させるだけでも重労働だろう。みんな仕事をしながらボランティア活動をしているのかと思うと自然と頭が下がる。初子を保護するまでは全く知らなかった世界だ。

 夜になり、初子に薬を混ぜた餌を食べさせた。仔猫たちにも離乳食を用意して食べさせている。食欲は5匹とも旺盛だ。
 動きも活発になり、部屋の中を自由に走り回っている。仔猫同士でじゃれて遊ぶ姿は微笑ましくて本当に可愛い。トイレも特に躾をする必要もなく、各自猫砂を入れた猫トイレの中で済ませることが出来ている。もしかすると初子がちゃんと躾けたのかもしれない。

 夜のテレビニュースでは明日の天気予報をやっている。
 明日は午前中はくもりで午後から晴れ、夕方には時々小雨が降るという。
「結局全部じゃないか」
 ひとりごちて、いつものように仏壇に目をやる。妻の遺影がない。仕舞い込んでそのままにしていたことを思い出した。
「悪かったよ、でも世話になったんだ。仔猫の里親が見つかることを祈ってくれよ」
 わざわざ来てくれた理恵さんに出すつもりで買っていたケーキを妻の遺影に供えた。
 写真の中の妻は相変わらずニコニコ笑っているが、心なしかトゲがあるように感じた。
 

 

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