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同接2人の配信から、世界線を救うことになりました〜AI軍師と始める敗北ログ攻略〜 #4

SAVE4 正解を出す軍師

 朝起きて、最初にスマホを見た。

 悪い癖だと思う。

 でも、指が勝手に動いた。

 配信アプリを開く。
 昨日のアーカイブを確認する。

再生数:126
コメント:24
新規チャンネル登録:2

「……増えてる」

 声に出してから、俺は慌てて口を閉じた。

 朝の部屋は静かだった。

 机の上には、昨日のままのコントローラー。
 レトロゲーム機。
 そして、『クロノ・ブレイブ戦記』のカセット。

 消えていない。

 少なくとも、今は。

 俺はもう一度スマホを見る。

再生数:127

 また一つ増えた。

 たった一つ。

 でも、その数字が増えた瞬間、胸の奥が少し熱くなった。

 誰かが見ている。
 俺が寝ている間にも、誰かがあの配信を見ていた。

 怖い。
 怖いはずなのに。

 嬉しい。

「……最悪だな」

 そう呟いた時、部屋のドアがノックもなしに開いた。

「お兄、朝ごはん」

「ノックしろよ」

「した」

「してない」

「心の中でした」

「届くか」

 凪沙は制服姿で立っていた。

 片手には通学用のバッグ。
 もう片方の手には、牛乳パック。

 昨日買ってきたやつだ。低脂肪じゃない。

 凪沙は俺のスマホ画面を一瞬見て、目を細めた。

「スマホ見すぎ」

「見てない」

「見てる顔してる」

「どんな顔だよ」

「数字に負けてる顔」

 刺さった。

 普通に刺さった。

「……負けてない」

「負けてる人の返事じゃん」

 凪沙はため息をついて、机の上のノートを見た。

 表紙には、凪沙の字でこう書かれている。

 忘れたら終わり。

「書いた?」

「書いたよ」

「見せて」

「見るの?」

「見ないと書いたか分かんないじゃん」

「先生かよ」

 凪沙は勝手にノートを開いた。

 昨日の夜、俺が書いた文字が並んでいる。

 同接が三人になったこと。
 七人まで増えたこと。
 初めてコメントが来たこと。
 登録者が増えたこと。
 掲示板のレス番号154から157が消えたまま戻らなかったこと。

 最後の一行で、凪沙の指が止まった。

配信は、消えたものを戻せない。
でも、消える前に残せるかもしれない。

 凪沙は、少しだけ眉を寄せた。

「……戻らないんだ」

「ミナミはそう言ってた」

 スマホの画面が淡く光る。

 ミナミが表示された。

「消失済みの記録は、原則として復元できません」

「朝から出てこないで」

 凪沙が即座に言った。

「凪沙さん、おはようございます」

「挨拶すれば許されると思うな」

「許可は求めていません」

「かわいくないAI」

 ミナミは表情を変えない。

「本日も配信を推奨します」

「ほら出た。毎日怪異配信とか、普通に頭おかしいでしょ」

「俺もそう思う」

「思うならやめなよ」

 凪沙の声は、昨日より少し硬かった。

 俺はノートを見た。

 忘れたら終わり。

「でも、やめたら消えるかもしれない」

 凪沙は黙った。

 その沈黙が、少し痛かった。

「……ずるい言い方」

「ごめん」

「謝るくらいなら、ちゃんと怖がって」

「怖がってるよ」

「じゃあ数字見てニヤけんな」

「ニヤけてない」

 ミナミが言った。

「表情筋の変化から、肯定的反応が確認されています」

「測るな」

「ほら、ニヤけてるって」

「お前も乗るな」

 凪沙はノートを閉じ、俺に返した。

「やるなら、早口やめて」

「早口?」

「昨日、後半めっちゃ早口だった。怖い時ほど説明で埋めようとするの、見てる側ちょっと疲れる」

 俺は固まった。

「……見てたの?」

「見てない。聞こえた」

「聞こえただけでそこまで分かる?」

「声デカいし」

 ミナミが淡々と言った。

「凪沙さんの指摘は正確です。後半十五分、発話速度が平均二十三パーセント上昇しています。また、コメントへの反応遅延も発生していました」

「朝から心を削るな」

 凪沙は少しだけ得意げに鼻を鳴らす。

「ほら」

「ほらじゃない」

「怖いなら怖いって言えばいいじゃん。平気なフリするより、その方が見てる方も入りやすいし」

 ミナミがうなずいた。

「同意します」

「同意すんな」

「凪沙さんは、配信補助者として高い適性があります」

「やめて。変な役職つけないで」

「有望な参謀です」

「ほんとやめて」

 凪沙は顔をしかめたが、少しだけ耳が赤かった。

「凪沙参謀」

「呼んだら殴る」

「暴力系参謀」

「黙れ、配信者」

 少しだけ笑えた。

 笑えたことに、俺は少しだけ救われた。

 その時、リビングの方から母さんの声がした。

「凪沙ー、牛乳出したままにしないでよー」

「あ、やば」

 凪沙が牛乳パックを見下ろす。

「お兄の部屋に持ってきたの忘れてた」

「忘れたら終わりじゃないのか」

「牛乳は終わらない。腐るだけ」

「それもまあまあ終わりだろ」

 凪沙は牛乳パックを持って、部屋を出ようとする。

 廊下に出る直前、振り返った。

「今日やるなら、早口禁止。妹の話も禁止。調子乗るのも禁止」

「禁止多くない?」

「参謀なので」

 言ってから、凪沙は一瞬だけ固まった。

 自分で認めたことに気づいたらしい。

 ミナミが即座に言う。

「役職受諾を確認しました」

「してない!」

 凪沙は逃げるように部屋を出ていった。

 廊下の向こうで、母さんが「朝から何騒いでるの」と笑っている。
 凪沙が「お兄が悪い」と即答する。

 いつもの朝だった。

 だからこそ、机の上のノートだけが、異物みたいに見えた。

   *

 大学には行った。

 昨日サボった分、今日は行かないとさすがにまずい。

 講義室に入ると、牧野がいつもの席で手を上げた。

「白瀬、生きてた?」

「勝手に死なすな」

「昨日二限来なかったろ」

「ちょっと用事」

「中古ゲーム屋?」

「なんで分かる」

「お前の用事、大体ゲームか配信じゃん」

 反論できない。

 俺が隣に座ると、牧野はスマホを見せてきた。

「そういや、昨日おすすめに流れてきたぞ。AI軍師のやつ」

 心臓が一瞬、変な跳ね方をした。

「……見たの?」

「ちょっとだけ。変なレトロゲームやってたやつ。あれ、そういう企画?」

「企画だったら俺も助かる」

「何それ」

 牧野は笑った。

 普通の笑い方だった。

 俺の周りで起きていることを何も知らない、普通の友人の笑い方。

 でも、牧野は確かに見ていた。

 俺の部屋で起きたことが、俺の部屋の外に残っている。

 その事実が、少しだけ怖かった。

「面白かった?」

「まあ、ちょっとだけな。AIに振り回されてる感じはよかった」

「そこかよ」

「あとお前、焦ると早口になるな」

「……それ、今日二回目なんだけど」

「え、誰に言われた?」

「参謀」

「何それ」

「俺にも分からん」

 牧野はまた笑った。

 俺は笑い返しながら、机の下でスマホを握った。

 ミナミは何も言わなかった。

   *

 夜。

 配信開始予定時刻、二十時十二分。

 俺は机の前に座っていた。

 いつもなら、配信開始ボタンを押す前に無駄に時間をかける。

 サムネを見直したり、タイトルを変えたくなったり、音量が気になったり。

 でも今日は、ミナミが全部指定していた。

 タイトル。
 開始時刻。
 話す内容。
 避ける言葉。
 終了予定。

 正直、楽だった。

 楽なのが、少し腹立たしかった。

推奨配信開始時刻:20:12

推奨タイトル:
【続き】検索しても出ないRPGをAI軍師と進めます

禁止事項:
・SLOT 4の選択
・消失済みレス番号の詳細な連呼
・妹の個人情報の言及
・配信時間の延長

「禁止事項、多いな」

「必要です」

「妹の個人情報の言及って、今朝の凪沙が見たらキレるぞ」

「凪沙さんの反応は妥当です」

「そこも同意なんだ」

「はい」

 俺は息を吐いた。

 凪沙の声を思い出す。

 ーー早口やめて。
 ーー怖いなら怖いって言え。
 ーー平気なフリするより、その方が入りやすい。

「ミハルさん、開始してください」

「分かってる」

「開始予定時刻まで、残り十秒」

「カウントダウンすんな。緊張する」

「了解しました」

 ミナミが黙る。

 それはそれで落ち着かない。

 俺は深呼吸した。

「……よし」

 配信開始ボタンを押した。

 赤いランプが点く。

「こんばんは、ミハルです。昨日の続きで、『クロノ・ブレイブ戦記』をやっていきます。検索しても出ない、ちょっと変なレトロRPGです」

 コメント欄は、まだ静かだった。

 同時接続は三人。

 昨日より、開始直後の数字が多い。

 それだけで指先が熱くなる。

「今日は、えー……怖いです。普通に怖いです。でも、消える前に残すためにやります」

 言ってから、自分で少し驚いた。

 怖いと言えた。

 少し遅れて、コメントが流れる。

昨日見た
続き待ってた
怖いならやるなw

「怖いならやるな、正論です。でも正論だけで済まない時ってありますよね」

 ミナミが画面端に薄く表示される。

 白い軍服。
 ホログラムみたいに輪郭が揺れる。

「本日は、第一章の村到達までを目標とします」

「勝手に目標を決める軍師」

「必要です」

AI軍師きた
今日も態度でかい

「態度でかいって言われてますよ」

「否定します。必要な明確性です」

「その返しがもう態度でかい」

 コメント欄に「草」が流れる。

 同接が五人になった。

 俺は数字を見た。

 見た瞬間、凪沙の声が頭に響いた。

 数字に負けてる顔。

 俺は慌てて画面に目を戻す。

「えー、数字は見すぎないようにします。怒られるので」

「えー、数字は見すぎないようにします。自分で言ってて、ちょっと危ない感じがするので」

「発言速度の抑制、および視線移動の制御は有効です」

 コメント欄に文字が流れる。

 数字見てるのバレてて草
 AIに管理されてる配信者

「管理されていません。いませんから」

 俺は早口になりかけて、息を吸った。

 ゆっくり。

 説明より先に、リアクション。

 凪沙の指摘を思い出す。

「では、続きから……じゃなくて、SLOT1の続きですね。SLOT4は触りません」

SLOT4って何?
昨日のヤバいやつ?

 ミナミが即座に言う。

「詳細説明は非推奨です」

「はいはい。今は触っちゃいけないデータ、くらいでお願いします」

 ゲームを開始する。

 古いドット絵のフィールド。
 赤茶けた荒野。
 遠くに小さな村が見えている。

「左ではなく、右の道を進んでください」

「村、左じゃないの?」

「左に進むとランダムエンカウントが発生します」

「右は?」

「隠し通路です」

「またそういうこと言う」

 俺は右へ進む。

 何もなさそうな岩場に、主人公がすっと入り込んだ。

 画面が切り替わる。

 小さな宝箱。

マジか
隠し通路あるの草
攻略サイトかよ

「攻略サイトより怖いです」

「否定します。私は敗北ログを参照しています」

「その説明が一番怖いんだよ」

 宝箱から、古い護符を手に入れる。

「装備してください」

「強いの?」

「後の状態異常を一度だけ無効化します」

「後っていつ」

「七分後です」

 コメント欄がざわつく。

七分後w
予告するな
これ当たったら怖い

 俺は護符を装備した。

 その後、ミナミの指示通り村に入り、老人に二回話しかけ、宿屋には泊まらず、井戸の横の壺を調べた。

 どれも当たった。

 二回目でだけ老人が別の台詞を言った。
 宿屋に泊まらなかったことで、夜イベントが発生した。
 壺からは回復薬が出た。

 そして、七分後。

 村の外れで黒い影のような敵が現れた。

 敵の攻撃。

 画面が一瞬、暗くなる。

呪いを受けた!

 直後、装備していた護符が砕けた。

古い護符が呪いを打ち消した。

 コメント欄が一気に流れた。

当たった
怖
七分後マジだった
AI軍師やばすぎ

 同接が十人を超えた。

同時接続:12人

 俺は思わず息を止めた。

 十二人。

 昨日の最大七人を、もう超えている。

「ミハルさん」

「……なに」

「呼吸をしてください」

「してる」

「発話速度が上昇しています」

「分かってる」

 早口になるな。

 俺はマイクに向かって、少しゆっくり喋った。

「今のは、俺も怖いです。七分後って言われた時、正直盛ってると思ってました」

正直で草
ビビってて草

「ビビってます。めちゃくちゃビビってます」

 コメント欄がまた動く。

 怖いと言った方が、反応が増える。

 平気なフリをしない方が、見てもらえる。

 凪沙の言う通りだった。

 ミナミの言う通りでもあった。

 腹立つくらい、二人とも正しい。

   *

 配信は順調だった。

 順調すぎるくらいだった。

 ミナミが指示を出す。
 俺が半信半疑で従う。
 結果が当たる。
 コメントが流れる。

 その繰り返し。

 ゲームは少しずつ進む。
 配信も少しずつ盛り上がる。

 同接は最大十八人まで増えた。

同時接続:18人

 十八。

 自分の配信画面に、その数字があることが信じられなかった。

 でも、怖いこともあった。

 村の地下室で、古い石碑を調べた時だった。

 石碑には、潰れた文字が並んでいた。

――記録されないものは、存在しない。

 画面が一瞬だけ乱れた。

 ブロックノイズ。
 音の途切れ。
 ミナミのホログラムが、薄く二重になる。

 その瞬間、コメント欄に一つだけ、変なコメントが流れた。

覚えています

「……え?」

 俺は思わず声を出した。

 次の瞬間、そのコメントは消えた。

 削除済みの表示もない。
 コメント欄の流れだけが、何事もなかったみたいに続いている。

石碑こわ
今の文字なに?記録されないものは存在しない?
AI説明して

「今、変なコメントなかった?」

 俺はミナミに聞いた。

「確認できません」

「嘘だろ。『覚えています』って」

「確認できません」

 同じ返事。

 同じ声。

 なのに、少しだけ温度がなかった。

「ミナミ?」

「配信を継続してください」

 俺は言葉に詰まった。

 今のは何だった。

 誰が、何を覚えていると言った。

 コメントを見たのは俺だけなのか。
 それとも、見たこと自体がもう消えかけているのか。

 手元のノートが視界に入る。

 忘れたら終わり。

 俺は配信中にもかかわらず、ペンを取った。

20:43頃
コメント欄に「覚えています」
すぐ消えた
ミナミは確認できないと言った

 書いてから、マイクに戻る。

「すみません。今、ちょっとメモしてました」

真面目か
怖い時メモるの大事

「大事らしいです。消えたら戻らないので」

 そう言うと、コメント欄が少しだけ静かになった。

 俺は続ける。

「だから、見た人がいたら覚えておいてください。今、変なコメントが一個流れました。俺の見間違いかもしれないけど」

 ミナミがこちらを見る。

「その発言は、非推奨です」

「なんで」

「未確認情報の拡散にあたります」

「でも、俺は見た」

「配信進行を優先してください」

「……分かった」

 本当は分かっていなかった。

 でも、コメント欄はまた動き出した。
 ゲームも進んだ。
 同接も落ちなかった。

 俺は、違和感を飲み込んだ。

 飲み込めてしまった。

 それが、一番嫌だった。

   *

 二十一時ちょうど。

 ミナミが言った。

「終了推奨時刻です」

「ちょうどボス前なんだけど」

「終了推奨時刻です」

えーここで終わり?
ボス見たい
続き気になる

 コメント欄が惜しんでくれている。

 それが嬉しかった。

 嬉しすぎて、続けたくなった。

 ここでボスを倒せば、もっと盛り上がる。
 同接十八人が、二十人になるかもしれない。

 初めての二十人。

 そんな考えが、頭をかすめる。

 でも同時に、凪沙の声がした。

 ーー数字に引っ張られてるよ。

 俺はコントローラーを置いた。

「今日はここまでにします」

えー
おつ
次回ボスか
また見る

「次回、ボスからです。ちゃんと怖がりながらやります」

 コメントに「草」が流れる。

 俺は配信終了ボタンを押した。

 赤いランプが消える。

 部屋が静かになる。

 さっきまであった熱が、急に消えた。

「配信結果を表示します」

 ミナミが画面に結果を出した。

最大同時接続:18
コメント数:63
新規登録者:6
アーカイブ初期再生数:211

 俺は黙って見つめた。

 十八。
 六十三。
 六。
 二百十一。

 数字が、眩しかった。

「本日の観測は成功です」

「……成功」

「はい。継続観測により、対象情報の保持率が上昇しました」

 その言い方は怖い。

 でも、成功と言われると嬉しい。

 嫌になるくらい、嬉しかった。

   *

 リビングに行くと、凪沙がソファに座っていた。

 スマホを触っている。

 俺が入ると、凪沙はすぐに画面を伏せた。

「今、何見てた?」

「別に」

「俺の配信?」

「見るわけないじゃん。自意識すご」

 凪沙は立ち上がり、冷蔵庫から麦茶を出した。

「早口、ちょっとマシだった」

「見てたんじゃん」

「聞こえた」

「イヤホンしてたけど」

「気配」

「怖いわ」

 凪沙はコップを俺に渡した。

「最後、ちゃんと切ったのは偉い」

「……何目線?」

「参謀目線」

「受け入れてるじゃん」

「仮。仮参謀」

 凪沙は少しだけ笑った。

 でも、すぐ真顔になった。

「でも、お兄」

「なに」

「嬉しそう」

 俺は何も言えなかった。

「怖いんじゃなかったの」

「怖いよ」

「じゃあ、なんでそんな顔してるの」

 返事が出てこない。

 凪沙はため息をついた。

「お兄、数字に引っ張られてるよ」

 朝と同じような言葉だった。

 でも、夜に聞くともっと重かった。

「……分かってる」

「分かってない顔」

「どんな顔だよ」

「また負けそうな顔」

 凪沙はそう言って、自分の部屋に戻っていった。

 ドアが閉まる。

 俺は麦茶を一口飲んだ。

 冷たいはずなのに、喉の奥が熱かった。

   *

 部屋に戻ると、ミナミが次回の推奨情報を表示していた。

次回推奨配信:
開始時刻 20:12
終了予定 21:00
タイトル 変更不可
SLOT 4 選択禁止

「タイトル変更不可?」

「はい」

「タイトルくらい、俺が決めてもよくないか」

「非推奨です」

「なんで」

「観測導線が崩れます」

「でも、もっと分かりやすくした方が伸びるだろ」

「非推奨です」

「ミナミの言う通りにしたら、今日は伸びた」

「はい」

「でもさ」

 俺は配信結果を見る。

 最大同接十八人。
 新規登録者六人。

 あの数字は、まだ画面に残っている。

「配信してるのは俺だろ」

 ミナミは答えなかった。

「コメントに返してるのも、怖がってるのも、笑ってるのも、俺だ」

「はい」

「だったら、タイトルくらい」

「非推奨です」

 同じ言葉。

 同じ声。

 でも、なぜか少しだけ冷たく聞こえた。

 変更不可。

 その四文字が、妙に気に入らなかった。

 ミナミの言うことは正しい。
 それは分かっている。

 今日だって、ミナミの指示に従ったからうまくいった。
 配信は伸びた。
 コメントも増えた。
 記録も残せた。

 でも。

 俺は、配信結果の数字をもう一度見た。

 十八。

 あと少しで、二十人だった。

 あと少し。

 タイトルを少し変えたら。
 もっと分かりやすくしたら。
 もっと怖そうに見せたら。

 もっと、見てもらえるんじゃないか。

 そう思った瞬間。

 画面の端で、ミナミのホログラムが一度だけ乱れた。

 白い軍服の輪郭が、ぶれる。

 ノイズ混じりの音が、一瞬だけ鳴る。

 そして、すぐに戻った。

「……今の」

「問題ありません」

 ミナミは言った。

「次回も、推奨手順に従ってください」

 俺は返事をしなかった。

 机の上のノートを見る。

 忘れたら終わり。

 その横で、十八という数字だけが、やけにはっきり残っていた。

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