4.技術論 インタラクティブミュージックをやるには技術力が必要、という神話
この記事は「インタラクティブミュージックについての12の神話」連載の、4つ目になります。インタラクティブミュージックを略して「IM」とすることがあります。
私は常日頃から「インタラクティブミュージック」という単語でTwitterをサーチしているんですが(警察?)、たまによく「●●というIM演出がAというゲームであったけど、これは同じ会社のBというゲームで使われた技術を応用したのかな」みたいな”考察”が流れてくる。
うん……
多分、それあんま関係ないと思う
もちろん、同じチームが作る作品であれば、技術というか「開発文化」や「価値観」のようなものが残されて、自然と同じ演出が使われたりブラッシュアップされたりすることはある。
けど、実は一般の方が思っているほどには、同じゲーム会社の違うプロジェクトとか、はたまたグループ会社とか、果てはパブリッシャーが同じというだけでは、とくに技術共有が頻繁になされるわけではない。使ってるゲームエンジンも違ったりするしね。
じゃあどうやったらインタラクティブミュージック演出が実現されるのか?というと、
技術的には「やればできる」
とくに技術的に秘伝のものがあるわけではなく、今では一般化した技術でできてしまう。
んだけど、
文化的には「やりたい人が揃ってないとできない」
ってこと。
やればできるインタラクティブミュージック
今まで私のnoteではIMの具体的な導入方法についてあまり書いてこなかったけど(それは想定読者がクリエイターではなくユーザーさんだったから、というのもあるけど)、2025年の今ともなれば、さすがにこう言って全く差し支えないという確信があるので、はっきりと言います。
インタラクティブミュージックは今や、本当に誰でも、やればできます。
どういう事かというと、技術が既に一般化して、「これを使えばできます」というツール(「サウンドミドルウェア」「オーディオミドルウェア」などと呼びます)、および、「これを読めばやり方がわかります」というチュートリアルが、誰でも手に取れる場所にあります。
これは単に、知ってるかどうかで差がつく場所でもあるので、この際公開します(サウンド職の方には当たり前すぎる情報ですが、インディーの方とかは単に知らないだけの事もあるので)。
具体的には、以下のツールを使ってできます。CRI ADXと、Audiokinetic Wwiseを紹介します(他にもありますし、自作の道もありますが、割愛)。
統合型サウンドミドルウェアCRI ADX

一つ目は、スマホからコンソールまで広い国内シェアを誇る国産のサウンドミドルウェア、CRI ADXです。

とってもグラフィカルで触りやすそう。
でもお高いんでしょう?
そんなあなたに、無償版「CRI ADX LE」があります(回し者かお前は)。「前年度年商が1,000万円以下の会社、または団体・個人であること」などを条件として、ほぼすべてのADXの機能が利用可能です(条件など詳しくはリンク先のサイトからご確認ください)。
ADXの機能:AISAC
ADXを使って、ゲーム音楽をイロイロに彩る「アレンジの変化」 ー Splatoon, NieR, etc...で紹介したような「縦の遷移(アレンジの変化)」をやりたい場合、以下の機能を使う感じになります。
徐々に変化させたい場合は「AISAC」というパラメータを送る機能。

ADXの機能:セレクタ
何パターンかのアレンジを切り替えるなら、「セレクタ」による遷移機能が使えます。
しかも!このセレクタ機能はなんと、前記事「インタラクティブミュージックでテンポが変わる、という神話」で難しい技術として解説した、「テンポが違うデータを複数用意して遷移する」事が可能です!
クロスフェード時にシークする仕組みのため、同時にデコードする負荷は1本分で済むという低負荷実装。こんなにお得な機能が無料で使えるなんて(PR案件ではないです、純粋に客観的な感想です)。

ADXの機能:ブロック遷移
そして、ADXを使ってゲーム音楽が「ループ」をやめる時で解説したような「横の遷移」をやりたければ、こちらの「ブロック遷移」機能を使います。

以上の機能を使えば、私が紹介したような基礎的なインタラクティブミュージックについては、本当に、誰でもできます!(紹介したチュートリアルがどれも「上級編」になってるけど……いうてチュートリアルなんで……やればできるからホンマに……)
ADX書籍情報
日本語の書籍でも解説などが出ていて、以下の書籍ではUnityでADXを使う方法が180ページにわたって解説されており、「インタラクティブミュージックの実装」もあります。
※「ADX2」という表記になってる書籍や情報が多いですが、現行の「ADX」は命名がシンプルになっただけで、中身は同じです。
こっちの書籍は私が寄稿したコラムも最後に載ってたりしますが、いかんせん10年以上前なので情報がもう古いかも。でもAISACやブロック遷移といった基礎は案外そのまま使えます。
ADXが活用された作品:SCARLET NEXUS
「SCARLET NEXUS」では、ロケーション曲・バトル曲・イベント曲がそれぞれAISACによって相互に遷移可能な仕組みになっているそうです。CEDECで詳しく解説された講演がなんと無料公開されています。

ADXが活用された作品:OCTOPATH TRAVELER
「オクトパストラベラー」で有名になった「バトルエクステンド」(※この用語はこのゲーム独自のもの)という横の遷移は、ブロック遷移機能で実現されています。
詳細は以下のインタビューや解説動画などを参照。

ADXが活用された作品:Q-SIDE
「遊べるミュージックビデオ」として話題を呼んだ「Q-SIDE」もADXが使われており、WebGL版でインタラクティブミュージックが可能になったことで、誰でもブラウザから丁寧な音楽演出を味わえるようになっています。
詳しくは以下インタビューを参照。
オーディオミドルウェア Audiokinetic Wwise

2つ目は、AAAタイトルにおいて幅広いシェアを誇るAudiokinetic Wwise(ワイズ)です。カナダの会社ですが、2019年にSIEに買収されています(プレステ以外のあらゆるプラットフォームでも引き続き利用できます)。

私がサウンドシステム開発をお手伝いした『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』においても、このWwiseが使われている。
でもお高いんでしょう?
いやいや、インディーライセンスがこちらもあります。対象は「ゲーム制作の予算額の合計が250,000米ドル未満のデベロッパ」となっていますが、変更されることもあるのでリンク先などからご確認ください。
Wwiseの機能:RTPC
縦の遷移でとくに徐々に変化させるような演出をやりたい場合は、RTPC(Real Time Parameter Control)という機能が使えます。
チュートリアル:RTPCカーブを設定する

Wwiseの機能:Switch/State
サブトラックを作って自由に足し引きする方法も使えます。
チュートリアル:スイッチをサブトラックにアサインする

また、アレンジ違いに遷移するだけでよければ、(次に説明する)ミュージックスイッチコンテナを使ってトランジションをSame Time as Playing Segmentに設定することでも可能です。
チュートリアル:タイミングを合わせて、別のミュージックセグメントにトランジションする

Wwiseの機能:ミュージックスイッチコンテナ
ここでは音楽同士の遷移を自由に設定できます。異なる2曲の遷移にも使えますし、変化する1曲の遷移も同じ機能の延長で(例えば、遷移タイミングをNext Bar=次の小節、などにして、遷移先のEntry Cueに同期することで)実現できます。
チュートリアル:トランジション付きのステートを使う
Wwiseの使い方については、日本語の書籍は私は知りませんが、公式のチュートリアルがすべて日本語化されていて動画などもついているので誰でも学べるのと、GDCやCEDECなどで無数に活用情報が得られるので、下記の事例などを参考に調べてみると良いと思います。
Wwiseが活用された作品:NieR: Automata
「NieR: Automata」で様々な音楽演出が効果的に用いられている、という話は以前こちらにたっぷり書きました。主に縦の遷移を駆使してゲーム全体の音楽的な印象をまとめています。
これもWwiseを使って実装されています(Wwise+優秀なテクニカルオーディオデザイナーがいないとできない演出も多々あるんだけど)。
Wwiseが活用された作品:Ghost of Tsushima
「Ghost of Tsushima」では、戦闘中に敵の強さやスニーキングの状況に応じて和楽器からなるBGMがシームレスに変化し、そして戦闘終了と同時にキレイに終わる(しかも、終わり方にいくつかのバリエーションがある)という美しい実装をWwiseで行っています。
詳細については、Wwise Tour 2020での解説が詳しいです。

Wwiseが活用された作品:Tetris Effect
「Tetris Effect」の素晴らしさもこちらの記事でたっぷり書きましたが、実はこれもWwiseで音楽の仕組みが支えられています。
Tetris EffectではWwiseのStinger機能を用いて効果音のクオンタイズ(どんなタイミングで操作しても、それを音楽的に気持ちの良いタイミングにフィットさせるようにズラして再生する技術)を行っています。
IMはもう「特別な技術」ではない
さて、これだけで(初学者向けには)貴重な資料になっただろうか。たまに「インタラクティブミュージックがやりたいから岩本さんの力が必要」と言われるが、いやそんな事はない。私みたいな人がいなくても全然できる。
ミドルウェアがない環境でゼロから作ってと言われたら難しいかもしれないが、それでも、やれば出来る。実際の所、機能を作るのはそれほど難しい話ではなくて、大変なのはツールを作る方なんだ。機能を「誰でも直感的に編集可能なツール」の形に落とし込むことには多大な開発工数が必要だ。
ただ本当に言いたかった事はこれからなんだ。
技術はある。誰でも(無料でも)使える。じゃあそれだけで出来るかというと、それ以前の段階でいろんな事を考える必要があって、むしろそっちが大変だよね、という話を、次の神話で語る。
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