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1.定議論 インタラクティブミュージックという言葉が定義されている、という神話

この記事は「インタラクティブミュージックについての12の神話」連載
の、1つ目になります。インタラクティブミュージックを略して「IM」とすることがあります。

最初に定義論を行う。

重要だが専門的かつ込み入った議論になるので、興味がなければ適宜読み飛ばして次の神話に行っても構わない。最初に結論だけを述べておくと、

「インタラクティブミュージック」という言葉で私がnoteなどで紹介してきた事例の多くは、学術界では「アダプティブミュージック」と分類されるものが多く含まれ、「ダイナミック」「プロシージャル」「ジェネラティブ」などの各種用語との整理もなされていない。

という事だけ覚えていってほしい。


学術界と産業界のすれ違い

まず、このような用語をめぐる学術的な批判を紹介し、それに対する私なりの認識の整理を行う。

東京工科大学の伊藤彰教先生(私がインタラクティブミュージック研究会を立ち上げた際にも非常にお世話になった恩師でもある)が、寄稿されている「メディアテクノロジーシリーズ 8 サウンドデザイン」において、次のように用語について言及されている。以下、それを引用する。

■すべてを包含しようとする「インタラクティブ」という用語

ここまでで「プロシージャル」「アダプティブ」「ジェネラティブ」について概観してきたが、特に音楽に関してはこれらをすべて「インタラクティブ」とまとめてしまう動きも見られる107)AV4) 。こうした状況を俯瞰すると、産業界で使われている用語は、一つの用語でゲームサウンドのすべてを包含する上位概念を制定しようとしている指向が強く、これを後追いで学術的に厳密に定義しようとすると、メビウスの輪のように定義の入れ子構造が発生する。

107) 岩本翔ゲームにおけるインタラクションのための音楽技術「MAGI」~瞬間、波形、重ねて~(2016)
AV4) Iwamoto, S. : Epic AND Interactive Music in 'Final Fantasy XV', Game
Developers Conference 2017 (GDC Vault, 2017)

メディアテクノロジーシリーズ 8 サウンドデザイン p223

参考文献としていずれも私のCEDEC・GDC講演が参照され、「インタラクティブ」と全部をまとめてしまっていて、後追いで学術的にこれを取り扱うのが難しい、といった批判を受けている。

「ひぇえ……先生、ごめんなさい……!」

というのは、半分本心、半分プロレスで、実際のところ、最近でも仲良くさせていただいており、人間同士に亀裂が走っているわけではない。

が、私自身このような学術界と産業界の用語のすれ違いは自覚しており、意図的に自分は産業界に寄せた使い方をしている。そんな現状では、例えば誰かが論文を書くにあたっては産業界のクリエイターの言葉を文字通り引用して使いにくい、などの問題が生じていることは否めない。まずはこの状況を認識しておくことが大事だろう。

「インタラクティブ」と「アダプティブ」の対比関係

学術界が参照しているのは、2008年に「Game Sound」という著作によってゲームサウンド研究の端緒を開いたとされるカレン・コリンズ(Karen Collins)による定義だ。

コリンズの整理を(私なりに)短くまとめると以下のようになる。

  • ダイナミックオーディオ:ゲームに特有の、非線形的な音響

  • インタラクティブオーディオ:プレイヤーの「入力」に対するフィードバックとしての音響

  • アダプティブオーディオ:プレイヤーの入力から間接的に影響を受けるゲーム内の状態に応じて変化する音響

ダイナミックという大カテゴリーがあって、そのうち、入力と直接的に紐づく音はインタラクティブで、間接的に紐づく音はアダプティブである、と考えられる。彼女はここで「ミュージック」ではなく「オーディオ」全般について議論をしていることにも注意をする必要がある。

このような定義から言うと、この意味における真の「インタラクティブミュージック」と言えるものは、プレイヤー入力を直接的に音楽的な要素に変換している、Rez, Tetris Effect, Hi-Fi RUSHといった演奏系のゲームに限られてくるだろう。拙作でも「Space to go」などが該当する。

一方で、私のnote連載などで紹介したフィールドと戦闘での変化や、ボス戦に合わせて曲が終わるといった変化は、入力から間接的にゲーム状況が変化したことを音楽で表しているため、これらは「アダプティブミュージック」と呼ばれる。

産業界における「インタラクティブ」の優勢

一方で、産業界においては私の肌感覚では常に「インタラクティブミュージック」の用語が優勢で、アダプティブとの使い分けはあまりなされていなかった。まずはその感覚を裏付けるために、統計的なデータを用意した。海外カンファレンスのGDC(Game Developers Conference)および国内カンファレンスのCEDECにおける、用語の利用頻度だ。

GDC VaultでInteractive Musicを検索した結果Adaptive Musicを検索した結果を比べた所、Interactive Music:33件に対して、Adaptive Music:11件であった(※スライド、映像、音声版がそれぞれ表示されるため、手動で重複を除外して数えた。詳細な抽出結果はこちらのリンクにまとめた)。

グラフにするとこんな感じ。0件の年もあるが、およその傾向は見て取れる。

同様に、CEDiLにおいてインタラクティブミュージックで検索した結果アダプティブミュージックで検索した結果では、それぞれインタラクティブミュージック:10件アダプティブミュージック:3件であった。さらに、アダプティブと冠する3件はいずれも、インタラクティブと併記する形をとっていた。

なぜ、このような偏りが生じるのか(実際ほとんどの講演は、どちらかというと学術的にはアダプティブとしか言えない内容であるのにも関わらず)。ここからは推測だが、2点、産業界の用語に大きな影響を及ぼしたと見られる原因がある。

1点目は、2014年に出版されたMichael Sweetによる書籍「Writing Interactive Music for Video Games: A Composer's Guide」で、ゲーム音楽の作曲者や実装者に向けて、インタラクティブミュージックの歴史から技術からあらゆる面を解説した必読書である。

Writing Interactive Music for Video Games: A Composer's Guide

私のnoteでも頻出した縦の遷移、横の遷移という概念は、本書でVertical Remixing Horizontal Resequencingという用語でそれぞれ1章を割いて解説されている。

私の知る限り、本書が出版されるまで、ここまで本格的にIMについて解説された書籍は存在しなかったし、ゆえに私もこの洋書を頑張って読破して自分なりに日本語で要約して公開したりした。本書のタイトルがInteractive Musicとなっている点はそれなりの影響があったように思われる。

2点目は、書籍ではなくツール側だ。

AAAゲームを作るにあたって国内外で広く利用されているオーディオミドルウェアがある。Audiokinetic社による「Wwise(ワイズ)」だ。

Audiokinetic Wwise

Wwiseにおいて音楽の制御はどうしているかというと、「Interactive Music Hierarchy」というものが存在し、そこにインタラクティブな制御が可能な音楽を設定していく、という流れになっている。

Wwiseのチュートリアル「インタラクティブミュージックミュージックプレイリストコンテナを使う」でも、以下のような表示が見られる。

ツールはコミュニケーションの土台にもなるため、Wwiseを使うスタッフ間では自然と「Interactive Music」呼びが定着する。技術カンファレンスもその延長線上にある。


結局のところ、AdaptiveなのかInteractiveなのかは使われ方次第なので中身は同じ機能で出来てしまう。

ゲーム開発では個々の演出よりもまずは機能を開発して、機能に名前がついて、それを応用して演出が作られるので、実務上において同じ機能から作られる演出に包括的な命名がなされるのは必然とも言える。機能に先に名前がつくのが産業界なのだろう。


自らの手で「定義の成功条件」を考える

このように、学術的には音楽を受容し分析する観点から分類がされている一方で、産業界では技術的な側面からの分類が優勢になりやすい。

これらを無理に統合するのではなく、論文なりコミュニケーションなり、その場ごとに話を通じやすくするために、工夫が必要になってくる。先程の書籍「サウンドデザイン」においても、以下のように結ばれている。

 それぞれの企業や制作者によって制作上・ビジネス上の都合があることか
ら、筆者から産業界に向けて、正確で唯一の定義を強要する意図はない。ただ、定義の流動性は、これからこの分野の研究に取り組もうとする研究者や学生にとっては混乱を余儀なくされることであろう。論文執筆時や、産業分野の用語のトレンドにあまり詳しくない教員に相談を持ちかける際に、本項で紹介したような多様な資料を参考文献としながら、自らの手で定義づけや概念の階層横造を整理する必要性を感じて頂ければ充分である。本項の示した情報が、読者のみなさん独自の学術的定義づけのヒントとして少しでも役立てば幸いである。

メディアテクノロジーシリーズ 8 サウンドデザイン p224

サウンドだけの話ではないが、「定義をする」という事にあたって、そこに「正解」と「不正解」がある、といった先入観が邪魔をして適切な定義ができていない、という場面をよく見るので、ビデオゲームの美学などの著書で知られる松永伸司氏による以下の指摘を引用しておきたい。

松永さんは「定義の成功条件」と表現していて、これは有用だと思った。つまり定義とは、「正解」かどうかではなく、(その場ごとに)「成功」かどうか、という観点が大事になるのだ。

会話が混乱して話が通じなければ失敗だし、また、何か言っても外延がふわふわしているから否定も肯定もできない、といった状況も失敗だろう。

会話が通じるようにラベルが直感的に割り当てられ、かつ、何かを論じた時にその意味を明確に肯定・否定できるように外延が確定していれば、その定義は成功である。そしてそのためにはコミュニケーションする相手によってラベルを変えたり、論じる内容によって外延を調整することも必要なのだ。つまり、定義とは道具なのである

定義とは何か?について、より詳しくは、以下の記事を参照されたい。
「メタバースとは何か?」定義を“作る”ところから考える――京都大学准教授・松永伸司氏インタビュー

本連載における「インタラクティブミュージック」の定義

以上をもって、本項における(私のnote全般における)「インタラクティブミュージック」を定義すると、それは端的に

(プレイヤーの入力に直接・間接を問わず応じて)
「変化する1曲」

ということにする。

ゲームにおけるインタラクションのための音楽技術「MAGI」~瞬間、波形、重ねて~より

ここで、「変化」というのは主に楽曲のパーツを複数に分けてリアルタイムに組み替える技術、および、フィルターや音量変化によって楽曲の印象を変化させる技術、を含む。

「1曲」というのも如何様にも定義できてしまう魔法の言葉なのだが、その問題は以降の神話で論じる。


次の神話へ

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