2.歴史論 インタラクティブミュージックは新しい概念である、という神話
この記事は「インタラクティブミュージックについての12の神話」連載の、2つ目になります。インタラクティブミュージックを略して「IM」とすることがあります。
最近のインタラクティブミュージック演出はここ10年、20年くらいかけて一般化してきた新しい技術によって成り立っている側面がある。
しかしながら、およそ半世紀を超えるビデオゲームの歴史の中で見れば、もっとずっと昔からインタラクティブな音楽演出というものは存在してきた。
1980年代以前 音楽と効果音が分かたれていなかった時代
そもそも黎明期のゲームにおいては、「音楽」と「効果音」の境目がはっきりとしていなかった部分がある。
ナムコによる1982年の作品「ディグダグ」においては、キャラクターが歩行する間のみ音楽が再生され、キャラクターが止まるとBGMも停止するといった、音楽と歩行が直接的に紐づけられるIMが実現されていた。
ただしこれは、作曲者の慶野由利子氏の記憶によると、「ディグダグの歩行時に流れる音楽は、歩行音であってBGMではない」という。
当時の筆者自身も、制作にあたっては、感覚的に、「音楽」と「音」とをさほど区別をしていなかったと思う。2011年にUSTREAMの番組「OBSLive」に出演の際、「ディグダグの歩行時に流れる音楽は、歩行音であってBGMではない」との筆者の発言が、大きな反響を呼んだことがあったが、いわゆる「音楽」を「歩行音」として充てることに、さしたる違和感は持たなかった。
「1980年代に携わったゲームサウンド制作を巡って」より
さらに。
こちらは1977年の「Checkmate」という作品だが、なんと4人対戦の各プレイヤーの進行方向に応じてアルペジオの内容が変化する。プレイヤーの脱落によって4音から3音、2音と拍子も変化していく様子は今見ても斬新かつ、音楽的にも面白い。
黎明期においては、効果音を使って音楽的な表現をするという発想に違和感がなく、それらの境目を自由に行き来していた様子が伺える。
1990年代 作曲エンジンを夢見た時代
90年代には既に明確な音楽を入れたゲームが多くなっている。さらに、一部のゲームでは動的に音楽のパーツを組み替える演出が実現されていた。
LucasArts社が1991年に発売したMonkey Island 2: LeChuck's RevengeにはiMUSE (Interactive MUsic Streaming Engine)と呼ばれる仕組みが初搭載され、さらに同じ仕組みが1993年にはStar Wars: X-Wingというゲームで使われ、ジョン・ウィリアムズの映画音楽をゲーム内でインタラクティブに鳴らすという離れ業を実現している。
敵を撃ち落とすと自然にファンファーレが挿入(4秒、12秒あたり)されたり、帝国軍が近づいた時に帝国軍のテーマが挿入される(36秒あたり)など、細やかな変化が音楽的な違和感なく実装されている。
有名な「ゼルダの伝説 時のオカリナ」におけるハイラル平原のインタラクティブミュージックが実現されたのは1998年のことだ。
20分あたりから、時のオカリナにおけるハイラル平原の楽曲遷移の解説。
さらに、現代において他社の追随を許さないほどに進化発展している「ファンタシースターオンライン2」の音楽システムの原型とされるものが、2000年には初代PSOにて既に実現されていた。
小林 株式会社セガの小林と申します。1998年にセガに入社し、2000年に発売した『ファンタシースターオンライン』(以下『PSO』)でメインコンポーザーを担当しました。『PSO』に参加したとき、インタラクティブ・ミュージックのアイデアをチームに出して採択され、それ以降に私が関わるタイトルではその担当としてシステムの実装と作曲を行っています。
(中略)
小林 そうですね、詳しくはセガの技術ブログに投稿をしたのですが、『PSO』を開発していた20年前、ゲーム内の戦闘時と非戦闘時のBGMを自然につなげられないか?という要望をディレクターからもらったことが開発のきっかけでした。
小林さんと対談させていただいています!
この時代は各社がそれぞれ独自に音楽再生の技術を開発しており、こうした技術が広く共有されるのは、また次の時代を待たなければならなかった。
1995年には、かのDirectXを開発したマイクロソフトがその機能の一部としてDirectMusicという機能を提供しており、これはLucasArtsのiMUSEや任天堂の音楽システムをも超えるポテンシャルを秘めた夢のMIDI再生機能だった……のだが、あまりに難しくて誰にも使われずに消えていった。これが私のようなIM信者を世界に何人か生み出すことになったのはまた別の話。

2000年代 ストリーミング再生技術による分断の時代
ゲーム音楽の進歩史観としては、「昔は内蔵音源で1音ずつ再生していたため、同時に3音しか鳴らすことが出来ず、制約があった」のが、「ストリーミング再生が可能になり、CDと同じく録音した音を流せるようになり、制約がなくなった」のような説明が一般的だ。
しかしながら、この説明は2つ重要な視点が抜け落ちている。
内蔵音源の可変性におけるメリット
1つは、内蔵音源で1音ずつ再生する方式※の方が、可変性という意味では柔軟でメリットがあった、という視点。
※私がいた会社では「譜面再生」などと呼んでいたが、各社技術がバラバラなので統一された呼び名がないかも。
追記:「シーケンス再生」と呼ぶ文化もあるとお聞きしました。
録音された2mixの音源ではそれを後から分解して、ある音は残してある音は消して、といった事は出来ない。そのため、インタラクティブな変化を実現するためには、録音の段階からステムやセクションごとに分けて収録するなど、手間をかけなければ可変性が無い状態になる。

ジャカジャカの音はCDと同じで合体しているため可変にするにはひと工夫必要
一方で、内蔵音源のデータと譜面のデータを両方持って再生していた時代では、譜面データの方を書き換えることで比較的シンプルに音楽を組み替えることが出来た、というわけだ。
ストリーミング再生の可変性における制限
もう1つは、ストリーミング再生にだって同時発音数の制約はある、という点だ。
たしかに、ハードウェア的に3音しか出せない、といった制約とは事情が違ってくるものの、ストリーミング再生は無視できない処理負荷を抱えていた。
ストリーミングすなわち逐次再生技術とは、メディア(HDD、CD、DVDなど)から数秒間の再生データだけをメモリに展開し、それを消費したら音声が途切れるより前にさらに次のデータを読み込む、という技術だ。
ゲームは音楽だけではなくテクスチャやマップやボイスなどあらゆるデータを読み込む必要があり、音楽をストリームする負荷だけでそれらを食いつぶしてしまえばロード時間などに顕著な悪影響が出るため、当初は同時に数本を使うのがせいぜいだった。まして、音楽だけで2トラック、4トラックも同時に使うなどもってのほか、というのが2010年くらいまでの雰囲気だったのではないだろうか。
以下は、2010年に行われたNieR Replicant/Gestaltのインタビュー記事から、IM表現に挑戦した際の空気感が伝わる部分を引用。
――シームレスに曲に変化をつけるアイデアを提案したのは横尾さんだったんですか?
横尾氏:ええ。でも、最初はてんやわんやでした。4つの曲が再生されているとステレオなので、計8本の音が流れていることになるんですね。それが平原や別の場所に出るときにクロスフェードするので、最大で移動前8本と移動後8本の16本が重なったりします。さらに、その上でロード画面中も音が途切れないようにして欲しいといったオーダーをしたり、無理難題を言いましたね。
そこから徐々に、メディアの読み込み高速化や、CPUそのものの進化、そして音声圧縮・展開技術の発展などさまざまな進化があってようやく、現代のようにストリーミング再生を音楽だけで複数本使っていても、とやかく言われない時代が来た、という事になる。
このように、「ストリーミング再生以降」もゲーム音楽技術はさまざまな進化があったのだが、なかなか一般向けに語られる機会は少なかった。それについては、Ludo-Musica IIIの以下の寄稿文にて解説している。国内でゲームサウンドの再生技術を牽引してきたCRI・ミドルウェア様に取材協力いただいた貴重な資料である。

IMは新しく、かつ古い技術
まとめると、たしかに「ストリーミング再生以降」では処理負荷や録音方式の関係でインタラクティブな演出が難しくなった時期があった。そこで主流となっていたゲーム音楽演出が、基本的には1つの曲をループして、また次の曲に切り替えて、といった演出だった。
しかしながら、ストリーミング再生以前には、内蔵音源でインタラクティブな音楽変化を実現していたゲームもあったし、その意味ではかなり古くからあった演出とも言える。
IMオタク向けのおまけ:
実は現代においても、譜面再生的な技術を復権することで昔のような柔軟な音楽演出を実現しよう、として成功しているゲーム作品も(数えるほどではあるが)存在する。
例えばPopCap GamesはPeggleシリーズやPlants vs. ZombiesシリーズでWwiseのMIDI機能を駆使して、自分たちでサンプルライブラリーまで作成して!究極的に柔軟な音楽システムを実現している。興味があれば以下のGDC講演を見てみると良い(私はその場にいたので、最後に質問している)。
GDC Vault - Always Be Composing: The Flexible Music System of 'Plants vs. Zombies Heroes'
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