【地方創生 第5弾】さんしん班:修羅場まで、あと5日。沈黙を破った「デキる大人たち」が陥った、お利口な罠
◆ 意図的な空白が生んだ、残酷な格差
7月10日のフィールドワーク本番まで、残り1週間。
すでに4回の議事録を積み上げ、明確なターゲット設定と緻密な現場導線を描きながら先手必勝で疾走している班がある一方で、7月2日、ある班がようやく1ヶ月に及ぶ重い沈黙を破りました。
塾生に細かな指示を与えず、自発的な行動を促すために設けた「意図的な空白」。それが今、残酷なまでの進捗格差を炙り出し始めています。
開講から約1ヶ月。第2回会議の冒頭、彼らは焦りを隠せない様子でこう漏らしました。
「チーム名が決まっていないのは、うちらだけだ」

◆ 「デキる大人たち」の顔ぶれと、お利口な死角
さんしん班(私がつけた仮称)は、決して能力の低いチームではありません。むしろ逆です。
メンバーには、政府系金融機関の調査部でアナリストを務める人、大手旅行会社で観光企画を担当する方、役場の総務部係長がいます。さらに電気工事、IT、建設、コンクリート製造、物流、通信ネットワークと、社会インフラを支える現場のプロたちが揃っています。
ただし、誤解しないでほしいのです。
彼らは地域活性化の専門家ではありません。それぞれの本業においても、業界の第一人者と呼べる段階にはまだ至っていません。あくまで「自分の持ち場で活躍している期待の20代〜30代中堅社員〜管理職の皆さん」です。
だからこそ、一度動き出せばその手際は鮮やかでした。読谷村の伝統工芸「花織工房」への訪問を14時に、農産物「メロン農家」への訪問を15時30分に確定させ、移動時間や昼食を挟んだ事前ミーティングまで、驚くほど短時間で完璧なスケジュールを組み上げていました。
しかし、その手際の良さの中にこそ、罠が潜んでいたのです。
彼らが用意した事業者へのアプローチは、次のようなものでした。
政府系金融機関の「無償専門家派遣」による改善支援を提示する
自社のリソースを活かした「CSR活動」をメリットとして持ち込む
地域の現状を分析し、支援策としてパッケージ化する
一見、教科書通りの「お利口な提案」です。しかし40年間現場に立ち続けてきた私から見れば、これはサラリーマンの職業病がもたらした死角そのものでした。
工房や農家の方々は、彼らに「分析」されたいわけではありません。
支援する側・される側という構図に立った瞬間、彼らの目線はもはや、現場の体温を感じられる場所にはありません。
◆ 「困りごと」を聞くな、という劇薬

私が彼らに突きつけたフィードバックは、シンプルでした。
「困りごとから入るな」
優秀な金融アナリストやビジネスパーソンほど、現場に入ると「何か困っていることはありますか」と調査を始めてしまいます。しかしその瞬間、対話は必ず「人手不足」や「資金不足」という、研修参加者には解決できない一般論に引きずり込まれます。
かつてお伝えした地域活性化の「3つのキク」を、もう一度思い出してください。
聞く:現場の方の話に、ただ耳を傾ける。
聴く:声なき声を聴く。言葉にできない共通の想いを、第三者として発見する。
効く:見つけた共通項を研ぎ澄まし、外から見て魅力的な処方箋を描く。
最初から解決策を探そうと「課題の調査」に逃げては、現場の心の扉は永遠に閉ざされたままです。
具体的には、次のように問いかけてください。
・この資源のどこに魅力があると思いますか
・職人さんや生産者さんが、これまで守ってきた誇りとは何だと思いますか
・そのこだわりは、どこから湧き上がってくるのですか
五感を研ぎ澄まし、まずは相手が語る魅力・誇り・こだわりを聞き切ること。そして徹底的に惚れ込むこと。課題を特定するのはそのずっと後の話です。
◆ 先輩が見せた、圧倒的な惚れ込む力

昨年の優秀チーム第36期2班「やまぐすく茶」の物語です。
90年の歴史を持つ山城茶は、一度完全に途絶えました。茶畑は荒れ果て、誰もが見捨てた荒地となっていました。
その状況から、生産者の石川智史さんは、4年という歳月をかけてたった一人で泥にまみれ、山城茶をゼロから蘇らせました。
先輩たちは、この執念に理屈抜きで感嘆し惚れ込みました。
「人手不足の解消」や「流通の効率化」といった経営課題から入ったのではありません。
石川さんの魂の熱にシンクロし、そこからすべての活動を組み立てたのです。
従って、彼らから生まれたのは、単なる経済支援策ではありませんでした。地元の小学校を巻き込んだ「茶育授業」と「種植えイベント」。子供たちが泥だらけになって山城茶の歴史を学び、そのお茶を家に持ち帰る。
食卓で、子供が70歳になる祖母に「おばあ、昔この地域にお茶畑があったんだね」と話しかける。その瞬間、一度は途絶えた想い出が、三世代の家族をつないで静かに呼び起こされて行きました。それは、一杯のお茶から始まる時を紡ぐ物語だったのです。

先輩たちは、お茶を「地域の記憶を呼び起こす血の通ったメディア」へと昇華させました。石川さんの4年間の執念に、リアルに心を揺さぶられたからこそ、この企画は生まれたのです。
◆ 混乱期を恐れず、本音でぶつかれ
もう一つ、私が突きつけたことがあります。
伝統工芸の「花織」と、農産物の「メロン」。全く異なる2つの資源を同日に訪問する彼らに、あえて残酷な二者択一の議論を求めました。
「フィールドワークから戻ったら、どちらがより自分たちの内発的な使命感を爆発させられるか、衝突を恐れず本音で議論してください」
実務能力が高いチームほど、無意識に対立を避けます。お互いの領域を尊重し、波風を立てずに「両方うまくまとめる」という妥協点に逃げ込んでしまう。チームビルディングでいう「形成期」の気楽さに、いつまでも浸っていようとします。

しかし、それでは誰の魂にも火はつきません。
早く本音をぶつけ合う「混乱期」へと突入し、チームの熱量を限界まで高める必要があります。
ただし、単なる精神論や声の大きさだけで迷走しないよう、この日、私は彼らに自作の「地域資源選定アプリ(HTML)」を手渡しました。
自分の足で現場を歩き、相手の目を見て「圧倒的な想い」を汲み取るアナログの力。そして持ち帰った事実と熱量を、ツールで客観的に評価・絞り込みしていく、デジタルの力。
この両輪を回すための武器は、もう彼らの手の中にあります。
◆ あなたの職場は、現場の「熱」を聞けていますか

あなたの組織にも、きっといるはずです。
専門知識に長け、綺麗な企画書を作り上げて「これで行けます」と確信に満ちた顔で報告してくる、優秀な部下が。
その時、あなたはどう応じていますか。
「よくできている」と表面上の完成度を承認するだけですか。それとも「現場感が足りない」と具体性のない言葉で突き返すだけですか。
真の人材育成は、その間にあります。
部下の知性と要領の良さを評価しながらも、「その提案は、誰の、どんな想いに応えようとしているのか」という問いを突きつけ、思考を強制的に深化させること。答えを安易に与えず、現場でしか掴めない教訓と、考え抜くための武器だけを手渡して現場へ放り出すこと。
それは突き放しではありません。デキる大人という鎧を脱がせ、一人の人間として現場の熱に向き合わせるための、指導者の覚悟です。
【さんしん班】が、この劇薬を経てどう脱皮していくのか。本気の他流試合の幕は、もうすぐ上がります。
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今週金曜日は、いよいよ第2回かりゆし塾です。前回からの変化がどれだけあるか楽しみです。ではまた。
📎 あわせて読みたい。このシリーズのバックナンバーです。
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