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「いえいえ、いいんです。自分のペースで」



・追い越されるたびに、考えたこと

 
 遠方に住んでいる叔父とは、
 時々、電話をしています。

 70歳くらいから高齢者住宅に入居し、
 子どもには恵まれなかったこともあり、
 私や姉、従姉妹のことを
 昔からとても可愛がってくれました。

 思春期の頃、たまたま電話に出ると、

 こちらの状況とは関係なく、
 ぽつぽつと他愛のない話をしてくる叔父。
 
 けれど不思議と、その時間は楽しくて、
 イライラやモヤモヤを忘れてしまいそう
 
 そんな存在でした。

 今回の電話も、「元気にしてる?」という、
 いつも通りのやりとりから始まり、
 
 叔父がふと、
 こんな話をしました。

「毎日、歩くようにしているけど、

 いつも90歳を越えているご婦人に、

   抜かされるんだよ」


 叔父は
 これまで心不全などを繰り返しながらも、
 何とか持ち直してきました。
 

 医師からは、
  「無理のない範囲で、
   1日20分程度、歩くように」
  と言われています。

 伯父の言葉の奥には、
 悔しさや
 虚しさのようなものがにじんでいました。


 どう返そうか一瞬迷いましたが、
 私はこう話し、

「いえいえ、いいんです。自分のペースで」、

 すると叔父は、少し驚いたように、
 でもどこか嬉しそうに
 話してくれました。

・抜かされるたびに、揺れるきもち

「嬉しいこと言うね。わかってはいるけど、
 悔しくてね。
 
 今日は、抜かされないようにって
 思うんだけど・・・、
 
 毎回、あっという間に抜かされるんだよ」

 その様子を想像して、
 思わず少し笑いそうになりながらも、
 複雑な気持ちになりました。

 頑張っているからこそ、
 つい、
 比べてしまったのだと思います。

 私はもう一度、ゆっくりと話し、

「いえいえ、いいんです。自分のペースで。」


「90歳を超えているご婦人はご婦人で、素晴らしい。 
 これまでの積み重ねも、目標も違う。」
 

「叔父さんはちゃんと、
 先生から言われたことを毎日続けていて、
 それだけでも、十分すごい!」

 そして、
 少し付け加え、


 「悔しい気持ちもわかるけど、
  せっかくなら、

  心の中で“どうぞどうぞ”って。
  自分は自分のペースで行きます、
  って思ってみるのもいいんじゃない?」


 「寒い日や暑い日は、
  時間や気温を選んで歩けばいい。」


 「時には休む日があってもいい。
  追い越すより、
  続けることの方が、ずっと大切だと思う。」

 しばらくして、叔父は声を弾ませながら、 

「素晴らしいこと言ってくれるね。

 わかってはいたけど、

 まさかあなたから
 そんな言葉をもらえるなんて。
 勇気と元気が出たよ」

 その言葉を聞いて、少しだけ胸が温かくなりました。


・それでも、自分の歩幅で

 介護予防や健康のために、

 何かを「やらなければ」と思うことは多い。


 でも、本当に大切なのは、



 誰かと比べることではなく、
 無理なく自分のペースで続けられること、
 なのかもしれません。




 今日もどこかで、誰かが誰かに追い越され、

 でもそれでもいい。

 自分の歩幅で、歩いていけばいいのだと思います。



 仕事や家事に追われる日もあれば、

 思うようにいかず、

 立ち止まってしまう時もあります。

 追い込まれそうになる自分にも、
 
 時々、心の中で言い聞かせています


「いえいえ、いいんです。自分のペースで」と。





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