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【余命 第6話】二度目の余命宣告──僕が妻と最後に選んだ時間の使い方


二度目の余命宣告。再婚し「もう失わない」と信じていた。再婚した妻・紗季(さき)にまで訪れた残酷な現実──。それでも僕たちは「最後の目標」に向かって歩き出した。

それから、子供たちとの生活-
遥(はるか)のいない静かで
慌ただしい日々が始まった。

食事の支度、洗濯、家事。
そして、今まで通りの仕事。

いや、むしろこれまでは
「家のことで大変だろう」と職場が気を遣い、
余計な仕事を回避してもらっていた。
そんな立場の僕に、
ある日社長が直々にこう問いかけた。

「あなたは、新たに何をするか?」

加えて、亡くなった後の
さまざまな手続きも押し寄せた。
やることが多すぎて、
オーバーフローする日々。

洗濯物を畳む暇もなく、
干してあるシャツやパンツをそのまま着る。
タンスは不要になった。
そんな、てんてこ舞いの毎日だった。

子供たちもある程度は手伝ってくれた。
しかし、息子は仕事中のケガが
きっかけで退職し、
亡き妻・遥(はるか)の実家に
引きこもってしまった。
残されたのは、高校二年の娘と僕と、
飼っていた犬だった。

──それから、約2年。

娘は就職して独立、
僕はひとり身で身軽になった。

自分のことだけを考えられるようになり、
少しずつ心にゆとりが生まれた。
そして、思いがけない「出会い」が訪れた。

趣味が似ていたこともあり、
再婚までにはさほど時間はかからなかった。

その後は、
本当にさまざまな場所に旅行に出かけた。
時間があること。そこそこお金があること。
その両方に感謝した。

趣味に関しても、二人で思いきり楽しんだ。
僕は片手間のアマチュアとして。
紗季は芸術作品として本気で取り組みながら。

「もう、このまま何事もなく、
余生を過ごしていくのだろう」

そう思っていた──。

一緒に暮らし始めて、
6年ほど経ったある夏の終わり。
紗季の顔色が少し黄色いことに気づき、
かかりつけ医を訪ねた。
診断は「すぐ大きな病院へ」。

検査の結果は、膵臓がんステージ4。
最も見つけにくく、最も治りにくいがんだった。

「なぜ、また……?」
これが僕の宿命なのか?
一人の妻を看取っただけでは、
まだ足りないというのか?

二度とこんなことはないと思い、再婚したのに。
それなのに、また。

落胆したのは僕だけではない。
紗季も大きな精神的ダメージを受けていたはずだ。
それでも僕たちは、やるべきことと、
やってはいけないことを知っていた。

紗季はこれまで、
何度か自分の作品展を
開催していた。
「いつか二人展をやりたいね」
──そう話していた。
闘病を続けながら、
その目標に向かうことにした。

会場もすでに心に決めていた。
雪深い場所だから、開催は翌春。
日程は4月下旬日から6月上旬までと決まった。

紗季は、独特の美的感覚で、
展示すべき十数点をあっという間に選んだ。
僕はというと
「ああでもない、こうでもない」と
迷ってばかりで、
紗季に「早く決めて」と急かされるほどだった。

抗がん剤の副作用で
脱毛や発熱に苦しみながらも、
病院の帰りには大盛り定食を食べて
体力を維持しようとする紗季
その姿は、がんに負けまいとする
強い意志そのものだった。

それでも、痩せていき、
次第に入退院を繰り返すようになった。

僕は、毎週火曜日に有休を取り、
通院の送り迎えをし、
入院中は病室で一日中語り合った。

そして冬を越え、
いよいよ「二人展」が開幕した。

初日から来場者があるたびに、
僕は紗季にLINEで伝えた。

「どんな人が来て、
どんなコメントを残したか」──。

本当は、ここで夫婦で
一緒にお客さまを
迎えるはずだったのに、
それは叶わなかった。

ただ、幸運なことに、
会期の半ば外出許可が出て、
車いすで会場へ行くことができた。

弱々しい身体で、
紗季は精一杯の笑顔で
僕と記念写真に収まった。

「来られて、本当によかった」
「本当に、そうね」
紗季の笑顔が嬉しかった。

それから約2週間後…。
紗季は静かに息を引き取った。

二人展があと2日で終わる6月の始め。

診断結果(告知)から、
わずか8ヶ月のことだった。


【まとめ】
・再婚後の穏やかな生活の中で、妻に膵臓がんステージ4が見つかる
・「二人展」という最後の目標を夫婦で決意
・抗がん剤治療と闘いながら、作品展の準備を進める
・会期中に外出許可が出て、妻は車いすで会場に来場
・笑顔で記念写真を残した数週間後、妻は静かに旅立った


最後まで
お読みいただきありがとうございます。

このひとつ前【余命 第5話】では、
少し時間が遡りますが、
妻・遥(はるか)を支えながら、
1度絶望まで堕ちた僕が、少しづつ、
立ち直っていった足跡を綴っています。
同じような絶望を味わっている方が
立ち直れるきっかけになるかもしれません。
ぜひ、お読みください。



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澪(みお)│人生探究家│📖note実験室|フォロバ100% この記事が、あなたの心にちょっとでも寄り添えたなら、サポートしていただけると、とても励みになります。 いただいたチップは、これからの執筆活動と、同じように悩む誰かへの物語づくりに大切に使わせていただきます。