ギャル、海にもドローンがあることを知る|深海を泳ぐAIロボット「AUV」がとんでもない。
1. はじめに
前回の記事(第1弾)で、「日本のEEZは世界第6位の広さで、海底には莫大な資源が眠っている」という話をしました。
今回は、「では実際に、深海ってどうやって調べるの?」というところを掘り下げていきます。
前回の最後でも少し触れましたが、日本のEEZ(排他的経済水域)に眠る資源のほとんどは、水深2,000〜6,000mの超深海に存在しています。
人間が素潜りで届く深さはせいぜい40〜50m。
水深2,000mなんて、もう現実感がまったくない世界です。
そんな「暗くて、寒くて、圧倒的な水圧がある場所」に、どうやってアクセスするのか。
そこで登場するのが、海洋ドローン(よくAUVと言われます。)=自律型無人探査機 という技術です。
海にもドローンがあるようです。
調べれば調べるほど、さまざまなディープテック領域との繋がりを思わされる領域でした。今回はこのAUVを中心に、深海探査の仕組みを一緒に見ていきましょう。
と、その前に、このシリーズ、専門用語がけっこう出てきます。
私自身、最初は「???」の連続でした。なのでこの記事を読み進める前に、ざっくり頭に入れておいてもらえると、後半がずっと読みやすくなると思います。
詳しい解説はこの後の本文でしていくので、まずはイメージだけで大丈夫です。
・EEZ(排他的経済水域)
その国が海の資源を優先的に使える権利を持つ海域のこと。海岸から約370km(200海里)まで。第1弾で詳しく解説しています。
・AUV(Autonomous Underwater Vehicle|自律型無人探査機)
ケーブルなし・電波なし・人の操作なし、で深海を自律的に動き回るロボット。今回の主役です。
・ROV(Remotely Operated Vehicle|遠隔操作型無人探査機)
船からケーブルでつながれたまま、遠隔操作で動かすタイプの水中ロボット。AUVとよく比較されます。
・有人潜水艇
人が乗り込んで深海に潜る探査船。日本では「しんかい6500」が有名。
・JAMSTEC(ジャムステック)
国立研究開発法人 海洋研究開発機構。日本の深海研究の中心的な機関で、しんかい6500を運用しています。
・音響通信(おんきょうつうしん)
電波が届かない深海で、「音波」を使って信号をやりとりする技術。電波の代わりに音を使うイメージです。
・ソナー(マルチビームソナー)
音波を海底に向けて発射し、跳ね返ってくる時間を計測することで地形を3D把握するセンサー。船舶の「魚群探知機」の深海版と思ってもらえると近いです。
・熱水噴出孔(ねっすいふんしゅつこう)
海底火山の活動によって熱水が噴き出している場所。周辺に金属鉱物が集まりやすく、資源探査の重要ポイントです。
2. 深海探査の手段は、大きく3種類ある
まず整理しておきたいのが、深海を調べる「手段の分類」です。
現在、主に使われているのは以下の3種類。
ここを押さえるだけで、AUVの立ち位置がぐっとわかりやすくなります。
① 有人潜水艇
文字どおり、人が乗り込んで深海に潜る乗り物です。 日本では「しんかい6500」が有名で、その名のとおり水深6,500mまで潜れます。1989年から稼働している日本を代表する深海探査の象徴で、海底の直接観察や試料採取に長年使われてきました。

(参考)
有人潜水艇の強みは「人の目と判断が入る」こと。
現場を見ながらその場で意思決定できるので、発見の精度は高い。
ただ、一回の潜航にかかるコスト・準備・人員を考えると、「頻繁に使える手段」ではありません。
しんかい6500は今、耐用年数が近づいているという話もあって、「次世代の有人潜水艇をどうするか」は日本の海洋科学界の課題の一つになっているそうです。
② ROV(遠隔操作型無人探査機)
ROVはRemotely Operated Vehicleの略で 船の上からケーブル(テザー)でつながれたまま、遠隔操作で動かすロボットです。
ケーブルがある分、映像・制御信号をリアルタイムで送受信できる。オペレーターが水中の映像を見ながら操作できるので、繊細な作業(試料の採取や特定箇所のクローズアップ観察)に向いています。
ただし、ケーブルがある分、行動範囲が制限されます。広大なエリアを自由に動き回るような探査には不向きです。

産業用水中ドローン(ROV)「MOGOOL(ベーシックモデル)」
③ AUV(自律型無人探査機)
そしてここが今回の主役。
AUVはAutonomous Underwater Vehicleの略で、ケーブルなし・電波なし・人の操作なしで、深海を自律的に泳ぎ回るロボットです。
内閣が公式で出している記事でもとてもわかりやすいものがありました。
あらかじめプログラムされたミッション(探査ルート・収集データの種類など)を設定し、海に放り込んだら、あとはAUVが自分で判断しながら動いて、データを集めて、海面に戻ってくる。

このうらしま自体、1998年から開発を進められていたそうですが、2022年から8000m級への改造を開始されたそうです。
そして、昨年2025年、「うらしま8000」は水深8000mという超深海における航行試験に成功たとのこと。
今後は、地震研究をはじめとした海溝域での詳細調査に用いられることが期待されているそうです。
「ドローン」と聞くと空飛ぶ四角いやつをイメージしますが、AUVは魚雷に近い流線型のフォルムをしていることが多く、深海の巨大な水圧に耐えられる設計になっています。
3. なぜ深海では「自律」が必要なのか|通信の壁
AUVの最大の特徴である「自律」がなぜ必要なのか、その理由を理解するには、深海での通信問題を知る必要があります。
深海では、電波が届かないんです。
Wi-Fi・GPS・スマートフォンが使っている電磁波は、水の中に入った途端、ものすごい速さで減衰してしまいます。数十メートル潜るだけで、ほぼ届かなくなる。
「だからケーブルか」と思ったのですが、ただケーブルでも、水深2,000mの深海まで何千メートルものケーブルを伸ばすと、それ自体が水圧や海流の影響を受けて、複雑な操作が難しくなってしまう。広いエリアを長時間・自由に動き回ることには不向きです。
そこで使われるのが、音響通信(おんきょうつうしん)、つまり「音」を使った通信技術です。
音は水の中を非常によく伝わります。
クジラが数百km離れた仲間と声でコミュニケーションできるのも、水中での音の伝わりやすさがあるから。この原理を使って、AUVと母船の間で音波により信号をやりとりします。
ただし、音響通信は電波に比べて通信速度がとてつもなく遅い。(笑)
大量のデータをリアルタイムで送受信することはできません。
だからこそAUVは、「指示を受けたらあとは自分で判断する」という自律制御が不可欠になる。
ミッション中にオペレーターが細かく指示を出せないので、状況に応じて自分で判断できるAIと自律制御の仕組みが求められるんです。
「深海をAIで自律的に泳ぎ回るロボット」と聞くと、急に近未来感が増しませんか?
これらはすでに現実の話になっているのです。
4. AUVが搭載している「目」と「耳」|センサー技術の話
AUVは「泳ぎ回る観測装置の塊」とも言えます。
深海の中で何を観察するかによって、搭載されるセンサーが異なります。代表的なものを紹介します。
音響センサー(マルチビームソナー)
音波を海底に向けて発射し、跳ね返ってくる時間を計測することで、海底の地形を3Dで描き出す技術。光が届かない深海でも、ソナーがあれば精密な海底地形図を作れます。資源探査の第一歩は、まずこの「地図作り」から始まります。
水質・化学センサー
水温・塩分・pH・溶存酸素・特定の化学物質の濃度を計測するセンサー。たとえば「熱水噴出孔」は、海底火山の活動によって熱水が噴き出している場所で、金属鉱物が集まりやすい。この熱水の「痕跡」を化学センサーで検知することで、資源の所在を絞り込んでいきます。
カメラ・光学センサー
比較的浅い水深では、高解像度カメラで海底の生物や地質を観察します。
近年は画像AIと組み合わせて、カメラ映像から海底の生物種を自動識別したり、地質の特徴を分類したりする研究も進んでいます。
これらのセンサーで収集したデータは、AUVの内部ストレージに保存しておき、海面に浮上した後でまとめて母船に転送するのが基本的な流れです。
一回の潜航で集めてくるデータ量は膨大で、そのデータ処理・解析技術も重要な開発領域になっています。
5. 日本のAUV開発|強みと、現状の課題
AUV開発は、世界的に見てもまだ「成長途上の領域」です。
アメリカ・中国・ノルウェーなどが積極的に投資していますが、「これが決定版」という技術はまだ確立されていない。
その中で、日本が持つポテンシャルは何か?
強み① センサーと精密機械技術
AUVの性能を左右するのは、搭載センサーの精度です。
日本の製造業は、精密センサーの分野で世界トップクラスの技術を持っています。高水圧・低温・腐食性の海水という過酷な環境下でも動き続けるセンサーを作る技術は、そのまま日本のAUV競争力に直結します。
強み② JAMSTECの深海知見
日本にはJAMSTEC(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)という、世界的にも著名な深海研究機関があります。
「しんかい6500」を運用してきたこの機関が蓄積してきた深海探査のデータと知見は、次世代のAUV開発において重要な資産です。JAMSTECが独自開発したAUVも複数あり、日本の深海研究の最前線を走ってきた組織です。
課題 研究から産業へ転換
一方で、「研究機関レベルではすごいが、ビジネスとして成立させるフェーズが弱い」という課題は、正直あります。
これは海洋産業に限らず、日本の科学技術全般に共通する悩みでもあります。
「世界最高レベルの研究ができる」と「それを商業的に量産・展開できる」は、別の話です。
国の成長戦略にAUVが含まれているのは、「研究フェーズから産業化フェーズへ」という転換を、国として後押しするという意思表示なんだと私は理解しています。
6. さいごに
「海のドローン」という言葉から想像するより、ずっと技術的に本格的な世界だということ、伝わりましたでしょうか?
私がこのテーマを調べて一番面白いと思ったのは、AUVが複数の技術領域の交差点にある存在だということ。
AI
センサー工学
材料工学
流体力学
音響工学
データ処理
のどれかひとつが欠けても成立しない技術です。
そういう「異分野の融合が生む新産業」の最前線に海洋産業があるのだと思うと、採用担当として「この産業で活躍できるのはどういう人か」「必要な人材をどうつなぐか」という問いがどんどん湧いてきます。(この話はもう少し後のシリーズでちゃんとやります。笑)
次回(第3弾)は、「日本の深海に何が眠っているのか?」というテーマで、EEZの海底資源をより詳しく掘り下げます。
第1弾でちらっと登場した「メタンハイドレート」「コバルトリッチクラスト」「レアアース泥」「海底熱水鉱床」「マンガン団塊」など、それぞれについても一つひとつ丁寧に解説する予定です。
お楽しみに!
