技術があるのに、なぜ日本は遅いのか|このままじゃまずい!海洋産業のこれから。
1. はじめに
前回、浦環先生との対談をもとに、「海洋大国で満足してはいけない。日本の海の現在地」という記事を書きました。
その中で私は、「日本は海洋大国である」という言葉に、少し浮かれていた自分に気づいたな、という話をしました。
日本には広いEEZがある。
深海研究の蓄積がある。
JAMSTECをはじめとした研究機関の知見もある。
センサー、素材、精密機械、ロボティクスなどの技術基盤もある。
これは事実だと思います。
ただ、浦先生とお話しする中で、浦先生もおっしゃっていたし、私自身も感じた危機感があります。
日本は、世界と比較して遅れているということです。
これは、ただ「日本はダメだ」と言いたいわけではなく、技術も知見も可能性もあるからこそ、遅いことがもったいないと言うことです。
技術がある。
でも、産業として回っていない。
研究成果がある。
でも、現場で継続的に使われる仕組みになりきっていない。
海が広い。
でも、その海を調べ、使い、守り、産業にしていくスピードや経済状況が足りていない。
今回の記事では、浦先生との対談、政府資料、AUV・水中ロボティクスの調査をもとに、私なりに「日本はなぜ遅いのか」を整理してみたいと思います。
※本記事は、浦先生との対談内容をもとにしつつ、私自身の理解・解釈を含めて執筆しています。特定の個人や組織を批判する意図ではなく、海洋産業をより立体的に理解するための学びとしてまとめています。
2. 日本は「技術がない」のではなく、「産業化が遅い」
まず、ここは誤解しないようにしたいのですが、日本に技術がないわけではないと思っています。
内閣府のAUV戦略でも、日本はAUVに関する高い技術を持つ一方で、産業化は欧米が先行しており、国産化・産業化が急務であると整理されています。
この一文、かなり重要だと思っていて、「技術がない」と言われているのではない。でも、「産業化は先行されている」と書かれているんですよね。
つまり、研究開発の力はある。
でも、それを商業利用できる形にして、顧客が買えるサービスにして、継続的に運用し、海外展開まで持っていくところでは、まだ課題があるということです。
ここで私は、「あ、日本の課題は“技術不足”だけではないんだ」と思いました。
むしろ、技術を持っているからこそ、余計にもったいない。
作れる。
研究できる。
良いものもある。
でも、それが産業として回るところまでつながらない。ここに、日本の海洋産業の大きな課題があるのだと思いました。
3. 海洋産業は、実証のハードルが高すぎる
次に大きいのが、実証の難しさです。
AIやソフトウェアであれば、もちろん大変ではありますが、PC上で試すことができます。
プロトタイプを作り、ユーザーに触ってもらい、改善するサイクルを比較的短く回すことができます。
でも、海はそうはいきません。
AUVや水中ロボットを試すには、実際の海に出る必要があります。
海に出るには、船が必要です。
船を出すには、人が必要です。
天候、波、潮流、安全管理、機体の回収、通信、データ取得、すべてを考えないといけない。
「実績がないと船に乗れないし、でも、船がないと実績が作れない」という構造を伺った時、この話を聞いたとき、確かに…と何も言えませんでした。
スタートアップや若い研究者が「よし、海洋ロボットを作ろう」と思っても、試す場所がない。
船を借りるお金がない。
実海域で失敗できる環境がない。
これでは、技術が育ちづらいのも当然です。
しかも、海での失敗は、陸上やPC上の失敗とは重さが違います。
機体が戻ってこないかもしれない。
天候によって実験日が飛ぶかもしれない。
船を出すだけで大きなお金がかかる。
「やってみよう」のハードルが、とんでもなく高いんですよね。
政府資料の「自律型無人探査機(AUV)の社会実装に向けた戦略 概要」でも、AUVの社会実装に向けて、官民連携による利用実証、共通化・標準化、制度環境の整備、企業活動の促進、人材育成が必要だと整理されています。
つまり、必要なのは「研究費」だけではない。
試せる海。
使える船。
失敗できる実証環境。
データを取得できる仕組み。
事業者と研究者がつながる場。
こういう産業化の土台そのものが必要なのだと思います。
なんとも、果てしない…。笑
4. 深海探査のインフラ自体も、待ったなしの状況にある
さらに、深海探査の基盤にも課題があります。
文部科学省の深海・海溝域に関するタスクフォース報告書では、中国ではフルデプス級、水深約11,000m級の探査機によって科学的成果が創出されている一方、日本では航行型AUV「うらしま8000」が水深8,000m、試料採取が可能な探査機としては「しんかい6500」の水深6,500mに留まっていると整理されています。
さらに、「しんかい6500」と母船「よこすか」は建造から35年以上が経過しており、老朽化により近い将来運用できなくなる懸念も示されています。
ここも、かなり危機感があります。
また、深海探査は、探査機だけで成立するわけではありません。
母船があり、着水・揚収する仕組みがあり、船員がいて、研究者がいて、データ通信があり、船上で分析する環境がある。
つまり、深海探査は「機体」ではなく、システム全体で成り立っています。
機体だけ作っても、海に出せなければ意味がない。
船が老朽化し、運用人材が不足し、実証の場が限られていくと、技術はあっても使う機会が減ってしまう。
これは、採用に置き換えるとわかりやすいかもしれません。
優秀な人材がいても、活躍できるプロジェクトがない。挑戦できる環境がない。予算も権限もない。
それでは、その人の力は発揮されません。
海洋技術も同じで、「技術者がいる」「研究成果がある」だけでは足りないのだと思います。
5. 世界は、研究ではなく“国家戦略”として動いている
もう一つ、浦先生との対談で強く感じたのは、海外は海洋技術を単なる研究テーマとしてではなく、国家戦略や安全保障、産業政策の文脈で動かしているということです。
前回のnoteでご紹介した通り、
アメリカ、中国、オーストラリアでも大型自律型水中機の開発が進んでいたり、すでに国家的に実用の領域に入っています。
ここで大事なのは、AUVやUUVが「次世代の希望のロボット」として扱われているのではなく、国として海をどう守るのか、どう使うのか、どう産業化するのかというテーマの中に組み込まれていることです。
日本ももちろん、AUV戦略や官民プラットフォーム、利用実証事業など、動き始めています。
ただ、浦先生のお話を伺って私が感じたのは、問題は「動いているかどうか」ではなく、本当に間に合うスピードで動いているのかなのだということです。
「検討しています」
「実証しています」
「これから進めます」
もちろん、どれも必要です。
でも、世界も同じように、むしろそれ以上のスピードで進んでいる。
そう考えると、日本の海洋産業は、もっと危機感を持って“実行の速度”を上げる必要があるのだと思います。
6. 採用の観点から見ると、「人が入ってこない構造」も遅さを生む
そして、採用・キャリアの観点から見ると、もう一つ大きな問題があります。
それは、海洋産業に人が入ってくる入口が少ないことです。
海洋産業は、機械、電気、制御、AI、データ解析、センサー、材料、ロボティクス、船舶運用、事業開発、政策理解など、本当に多様な専門性が必要な領域です。
でも、「海洋産業で働く」という選択肢は、まだ多くの人にとって見えていません。
自動運転のエンジニア。
ドローン開発者。
ロボット制御の研究者。
インフラ点検の事業開発。
AI・画像解析のエンジニア。
製造業のセンサー開発者。
こうした人たちの経験は、本来、海洋産業でも活きる可能性があります。
でも、その接点が見えていなければ、候補者は入ってきません。
企業側も、「どんな人を採用すべきか」「どう魅力を伝えるべきか」「他産業の人にどう翻訳すべきか」が見えづらい。
政府資料でも、海洋ロボティクスに興味関心を持つ人材を増やすこと、他分野で活躍する人材を呼び込むこと、人材育成・確保のあり方を検討することが必要だとされています。
ここは、まさに私がOcean Questで向き合いたいところです。
技術をわかりやすく翻訳する。
仕事やキャリアの入口をつくる。
海洋産業に関心を持つ人を増やす。
それは一見、地味に見えるかもしれません。
でも、人が入ってこない産業は、どれだけ技術があっても伸びづらい。
採用の仕事をしてきた立場として、ここにはかなり強い危機感があります。
7. さいごに
浦先生とお話しして、私は「日本には可能性がある」という言葉の重さを、少し違う意味で受け取るようになりました。
可能性がある。
でも、可能性は放っておいても現実にはならない。
技術がある。
でも、技術は使われなければ産業にならない。
海が広い。
でも、その海を調べ、使い、守り、産業にしていく仕組みがなければ、ただ広いだけで終わってしまう。
海洋産業は「日本すごい」で終わってはいけないテーマなのだと改めて実感しました。
むしろ、日本が本当に遅れている部分に目を向けて、それでもどう勝ちにいくのかを考えるテーマです。
そして、そのためには研究者だけではなく、企業、行政、スタートアップ、投資家、採用、人材、発信者まで、いろいろな立場の人が関わる必要がある。
私はまだまだ勉強中です。
でも、浦先生からいただいた「日本は本当に遅い」という危機感を、ただ怖がるとか、諦めるのではなく、これから海洋産業に関わる人たちに届く言葉に変えていきたいと思っています。
海の未来を、そして日本の未来を、一緒に探求する。
この言葉を、少しずつ、自分の中でも重く受け止め始めています。
参考・確認した資料
内閣府「自律型無人探査機(AUV)の社会実装に向けた戦略 概要」
内閣府「令和7年度におけるAUV利用実証事業の概要」
内閣府「AUV官民PFの活動の今後の方向性」
文部科学省「深海・海溝域の探査・採取プラットフォームの構築に向けたタスクフォース報告書」
「ロボットではなく、ロボットが成し遂げたことを見せろ!」- 東大・浦環名誉教授の研究哲学に迫る
DARPA「Manta Ray」
Boeing / Naval News「Boeing Delivers First Orca XLUUV to U.S. Navy」
Australian Department of Defence「Ghost Shark a stealthy ‘game-changer’」
いいなと思ったら応援しよう!
この記事は noteマネー にピックアップされました

