着ぐるみとロボット ④ひとめぼれ 連載恋愛小説
夏休みのオープンキャンパスで、「研究室紹介」というイベントがある。
将来なにを研究するのか受験生に具体的にイメージしてもらうための、大事な宣伝の場だ。
正直なところ、ロボ研は読んで字のごとしで、前もってアピールする必要がほとんどない。研究室内に複数あるどのチームのロボットを登場させデモンストレーションするかを、決めるだけでよかった。
忍の研究している農業用ロボットは、トマトの収穫に特化したもので派手さはない。映え的にビミョー、らしい。そんなわけで、人と交流できる他チームの対話型ロボットの出番となった。
「どうしよう、忍。ぜったいムリ」
珍しくテンパっているしおりの肩を、忍はポンと叩く。
「大丈夫だって。いっぱい練習したし。しおりはいつもどおり、クールな感じでいけばいいから」
発酵学研究室は、しおりとハッコくんが漫才をすることになっていた。
「カビ研」と学内でやゆされるが、有用微生物や発酵食品がいかにすぐれているかを、自虐ネタ満載で披露する。ハッコくん役になって原稿読みにつきあっていた忍は、舞台袖まで応援に来ていた。
薄闇で突然、なにか大きいものがぶつかってきた。
「あ……悪い。ケガない?」
忍の体を支えていたのは、ふわふわの毛並みの着ぐるみ。
「大丈夫です。ありがとう。……あの、舞台そっちじゃないです」
視界の確保が難しいのか、ハッコくんはあらぬ方向へ進もうとする。
指で差しても無意味なので、忍はそのもふもふハンドを引っぱり、ステージ脇まで誘導してあげた。
「だれかわからないけど、助かった。さんきゅ」
そのやさしい声色に、忍はぼうっとしてしまった。
スタンバイ中は終始だるそうで、中に疲れたオッサンが入ってます感がひどかったのだが、本番になると彼は別人と化した。
キレのある動きではっちゃけ、立派にボケ担当を務めあげる。
終了すると、またタラタラと足を引きずりながら戻ってくるので、忍は笑ってしまった。
「おつかれ。宮城が相方だから、オレは心配してなかった」
「もう、ムチャぶり勘弁してください。寿命縮まりました」
しおりをねぎらうその姿に、忍はピンときた。
そうか、ハッコくんはしおり狙いなんだ。淡い恋心を抱いた直後に、それはあえなく砕け散ったのだった。
ハッコくんたちの発表中、黄色い声援ならぬ、ドスの効いたあおり声が客席から飛んでいた。発酵ラボのメンツだったようだ。
「修士とか、4年にやらせりゃいいのに、よーやるわ」
ハッコくんは、おなかをわしゃわしゃされたり、頭を小突かれたり、好き勝手されていた。
研究室に所属しているのは、若いほうから大学4年、大学院修士課程1、2年、博士課程1~3年だ。
しおりによると、長屋将は博士2年で、えらぶってもおかしくはない。最終年度は博士論文にかかりきりになることが多く、2年が実質的トップとしてチームを統率する立場にあるからだ。
後輩に押しつけてもよさそうなのに、この人はすすんで汚れ役を買って出たのか。顔も見ないまま忍の興味はますますふくらみ、それは抑えられそうになかった。
(つづく)
▷次回、第5話「つかめ、胃袋」の巻

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