居眠り猫と主治医 ㉗病み医者 連載恋愛小説
かみ合わない会話に疲れたのか、祐の言葉がそこで途切れた。
どことなく彼らしくない気がして様子をうかがうと、顔色が悪いし覇気がない。
「あの……体調大丈夫なんですか。クリニックたいへんだって里佳子さんが」
「大丈夫なわけないし」
いきなり失踪されて寝れるか、と吐き捨てる。
あれほど自己管理が行き届いている人なのだから、ここまで憔悴するのはどう考えてもおかしい。
「……おかんボックスは?」
「つくってない。ひとりじゃ食べる気しない。なにも手につかない」
まるでメンタルをやられた守屋文乃そのもので、分身が現れたのかと錯覚する。
「文乃しか見えてない。頼むからそばにいて」
「かの子に会いに、お店に通ってるのに?」
言うつもりはなかったのに、口が勝手にしゃべっていた。眉をひそめたあと、祐は軽く息を吐く。
「それ、訪問診療。定期の。かの子の会社とクリニック、契約してるから」
新たな情報が入ってきても、凝り固まった思い込みは簡単には振りほどけない。
「私といても、なんの得にもならないんじゃ……」
彼は額に手を当て、目を閉じた。
作り笑いをしなくて済む、素でいられる、離れるとストレスで気が狂いそうになる。淡々と列挙する。
「精神安定剤兼睡眠導入剤。自律神経が整う」
「なんかあやしいサプリみたいになってますけど」
ちょっとおかしくなってきた。
生命維持に不可欠だと、まだ小難しいことを言っている。
「つまり?」
「文乃なしじゃ生きてけないのは、オレのほう。ハイハイ、認めますよ」
「キレてる……かわいい」
祐は目を見開き、息を吸ってなにか言いかけ、空気だけ吐き出した。
「的外れだって訂正してくれていいんだけど。先生、私のこと好き?」
彼は今度こそ絶句したようだ。永遠に続きそうな空白のあと、好きじゃない、とひとこと。
そこまではっきり言わなくても……
「もっと重い。愛のほう」
文乃は立ち上がって握手を求めた。
「わかりました。明日お宅に伺います。それでよろしいですか」
「ご理解いただけたようで、さいわいです」
仰々しくお辞儀をして、顔を見合わせる。握った手をグイッと引くから、文乃はよろめいた。
体を支えてくれた祐が身を屈め、顔を近づけてくる。ゆっくりとまぶたを下ろしかけた彼は、そこで動きを止めた。
「今ちゅーしたら、最後までいく」
口を開けたら吐く、と同じトーンで言われた。
(つづく)

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