お花見わがままランチBOXをどうぞ|連作小説⑮
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春ディスプレイは、いつにもまして気合いが入る。というのも、「桜フェス」と連動しているからだ。
百貨店の東には、約500mに約150本の桜が植わる並木通がある。
周辺店舗でつくった組織「桜ストリート連絡協議会」(お堅いネーミングだな)が満を持して本番の春を迎える。
駅や店先、遊歩道のベンチ、街角を桜色に。最近の造花は本物と見まごうほどで遜色がない。
もとからここに生えていましたよ? とばかりに立体的に枝を配置し、特設あずまやにいたっては秘密の花園のよう。
ソメイヨシノがつぼみの時季でも、通行人の目を引く格好のフォトスポットとなっている。
五葉百貨店、春のウィンドウディスプレイ「だれもが一輪の花 ~あたらしい自分と出かけよう~」 。
屋外ではないため、こちらはみずみずしく繊細な本物を使用する。フラワーアーティストと綿密な打ち合わせを重ね、構想を練った。
新生活をイメージし、白と黄緑の花で家具やカーテンを彩るインテリアのウィンドウ。絵本スイミーのごとく、花でジャイアントフラワーをかたどり、マネキンが妖精にみえるファッションウィンドウ。花畑にて小人たちがいちごロールケーキをつくる、ノスタルジックな食品部門ディスプレイ。アウトドアテーマでは、ブーツや鍋に花を投げ入れた演出を。
企画段階でもウキウキしたが、かたちになると想像以上の華やかさ。こまかいところまで観察したくなるつくりだ。
生花を扱うリスクは承知の上。長持ちする専用液を使い、なるべく新鮮さをキープする。ゆくゆくはドライフラワーとして販売し、ムダにしない計画だった。
ところが、想定外のアクシデントが発生。
照明の影響で温度が上がり、思ったよりずっと早くしおれる事態に。急きょ、ライトを白熱球からLEDに変更。デザイナーに許可をとり、花材を再手配したり交換したりとバタバタに。大量廃棄の可能性も出てきた。
ナイトマーケットと同じ轍を踏まぬよう、桜フェスはロハス仕様にシフトチェンジ。
リユース食器を200円で購入してもらい、マイボトルやマイ箸、器を持参したお客さまには、桜ラングドシャをプレゼント。
主導したデパートがSDGsに逆行するわけにはいかない。
救いの手は、思わぬところから差し伸べられた。花でコサージュをつくってはどうかと、コンシェルジュから提案があったのだ。
包装資材部にあった中途半端な長さのリボンを活用し、クリップでまとめる。紙袋のハンドルにつけ、お客さまにお渡しする。
「榎本さんには大事なことを教わったので。みなさんにもご迷惑をおかけしたし」
口を開けば不平不満。チームの士気を下げる、三島陽子はいわば問題児だった。すこしはお返しできたでしょうか、とぎこちなくほほえむ姿が涙腺を直撃。
「ホレホレ、泣いてないで手え動かす。花歩の得意分野でしょ」
ありさに肘で小突かれ、深呼吸。コンシェルジュ部隊も加わり、皆でせっせとミニブーケをこしらえる。
「花とグリーンを使って、リボンも含め3色以内にしてください。まとまりが出るので」
スワッグづくりが楽しくて、美絵のハーブアレンジメントレッスンにちょくちょく参加していた。なにが役立つかわからない。
一体感がいいなあ、やっぱりこの仕事が好きだな。
トラブルで結束力が増した気がした。
ひとつとして同じものはない、手のひらサイズの贈り物。 狙ったわけではなかったが、テーマとも合致していた。
「コサージュまだ配ってますか?」とコンシェルジュに問い合わせがあったり、「五葉のおもてなし、粋だね。さすが御用聞き」とSNSで話題になったり。まさに怪我の功名だった。
「おつかれさまです。ひと足早い花見といきますか」
七生が差し入れてくれたのは、ヒナタボコのわがままランチBOX・桜フェス限定版。
手羽元のチューリップ唐揚げ、目玉焼きのせナポリタン、いちごと生ハムのバケットサンド、レーズン入りキャロットラぺ、タコと新じゃがのジェノベーゼソース和え。
デザートは、シンプルに米粉を蒸したおだんごに、やさしい甘さの桜あん、白大豆あん、抹茶あんをのせてキュートに。
目も心も体も喜ぶ、最高のねぎらい。あれもこれも食べたい、わがままを解き放つお花見弁当。
「っしゃ! 待ってましたあ」
その場でジャンプするありさが、皆の気持ちを代弁してくれた。
寝静まった街と指先に残るハーブの香り。エネルギーをたくわえ、春商戦に挑む。
(つづく)

▽つづき:第16話
▽前回のお話(第14話)
▽目次:第1話~

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