着ぐるみとロボット ⑧甘じょっぱい 連載恋愛小説
1242字
挨拶もなにもなく、成田みさきが知らせてきた。
「イケメンが来るみたいです」
「ああ、留学生? 編入シーズンだねえ」
ランチ後のマンゴープリンを、忍は食堂で楽しんでいた。
階段転落事件から、約2カ月。主治医も驚く回復力で、脚はだいぶよくなった。今もリハビリには通っているが、あのにっくき松葉杖とオサラバできて、はればれとした気持ちだ。
「なにのんきに構えてんですか、センパイ。闘いの火ぶたはもう切って落とされたんですよ?」
鼻息も荒く、みさきは編入生リストを示す。氏名と経歴がのっているその文字列のなかから、リョウ・クニミという名が、忍の目に飛び込んでくる。
「この人です。アイドル並みにイケてません? テンションあがるう」
探し出したSNSアカウントを、みさきは得意げに見せてくる。同姓同名かと思ったが、顔を見て確信した。
「あー、会ったことあるかも」
「なんですと?」
「たぶん高校の同級生で、一瞬つきあってた? かも」
ウソー、とみさきが大声とともにのけぞり、周囲の視線を集める。
「忍さん、モテすぎか」
いやいやいや……と手をひらひらさせるも、みさきのとがめるような目は強い光を宿したまま。
機械いじりに没頭しすぎて寝食を忘れがちな忍は、しょっちゅう構内でぶっ倒れる。そのたびに寮の自室で保護してくれるのが、一コ下の成田みさきだ。先日のおんぶ案件でも、当然お世話になった。
「だれの彼氏なんだって、色めきたちましたよ」
「はは、ごめん。色っぽいハナシ提供できなくて」
女子寮に男子が現れるだけで騒然となる感覚は、忍にはちょっとよくわからない。海外かぶれというやつだろうか。
いずれにせよ、長屋将はあの夜、浴びたくもない注目を一身に受けたことになる。
みさきには、学食ランチ1週間分+デザートで手を打ったが、そういえば彼にはお礼ができていない。豚キムチを差し入れたら、バカのひとつ覚えだとあきれられるだろうか。
ロボットを試験導入してくれている農家さんから、大量のトマトが届いた。麹と塩、水で、トマトの塩麴漬けをつくる。
発酵ラボの面々とも顔なじみになり、忍が頼まなくてもお目当ての人を呼んでくれる。思いもよらず眼鏡と白衣姿で出てくるので、鼻血が出るかと思った。
「おつかれさまです。これ、みなさんでどーぞ。AIカメラで糖度チェックしてるんで、激甘です」
「へえ、さんきゅ。……で、なに?」
明日のお昼、食堂に来れそうかと聞いてみた。お礼として、なんでもおごりたいからと。
「いちばん高いのでも、いいです。フンパツします」
明日から学会で出張だと、長屋は目線をはずしぎみに言う。しおりもちらっと言っていたのを、忍は思い出した。
「それ、しおりも同行しますか?」
いつも以上によそよそしい空気。読めなくてもいいのに、感覚が鋭くなってしまう。
いよいよハッコくんは動くつもりだ。
この旅行中に、彼はしおりに告白する。脚の痛みがぶり返した気がして、忍はのろのろと、もと来た道をたどって帰った。
(つづく)
▷次回、第9話「忍の元カレ」の巻

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