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居眠り猫と主治医 ㉔猫の雲隠れ 連載恋愛小説

 事情があって地元の動物病院に戻ることを、里佳子にだけは伝えた。
 和気あいあいとした患者会は大人のサークル活動みたいで、心のよりどころだった。横恋慕みたいな姑息こそくなマネをするから、大切なものまで手放すことになるのだ。

 文乃は物心つく前から、親にほめられた記憶がない。
 とくに母親は極端な長男至上主義で、たとえ妹が兄より成績優秀でも完全無視を決めこんでいた。調子に乗って生意気だという認識らしかった。
 やることなすことにケチをつけられていると、心の体力が削り取られ、ただ無気力になる。まがりなりに独立しても、呪いがまとわりついたみたいに心が休まることはなかった。

 最後に会った日に、どいうわけか豆腐の話になった。
「私のメンタルみたい。ゆるゆるでブレブレ」
「は? 栄養満点で万能だし、ニッポンの伝統食なめんな」
 笑いながら、言霊の大切さをさとされる。
 このままだと、メンタルの弱さはどうにかなったとしても、今度は夏目祐依存症になりそうで心からこわかった。

 身も心もズタボロになるかと思いきや、知らぬ間に耐性がついていたのか、わりと平気だった。
 後期の夏期講習が始まったのも大きい。今年は団体クラスも個別授業も受験生を担当していて、やることが山ほどあった。
 忙殺されると、余計なことを考えずに済む。

(つづく)

#連載小説 #恋愛小説が好き #私の作品紹介 #賑やかし帯

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