着ぐるみとロボット ⑦潮目 連載恋愛小説
989字
え、ちょっと待ってくれ。長屋将って、こんなかっこよかったっけ。恋心のフィルターがかかっているにしても、おかしくないか?
研究室に彼が会いに来たとき、忍はびっくりしすぎて声が出なかった。食べかけのお弁当も、残りは味がしなかった。
「なんで食堂来ない?」
今まで気にも留めなかったのだが、世の中はバリアだらけだ。食堂への道のりの、遠いこと。ちょっとした段差が、崖に思えてくる。
「松葉杖と少々折り合いが悪くて、もう1本ぐらい折りそうでして」
へらっと笑ってみたが、長屋の表情筋はぴくりとも動かない。
忍は、おそるおそる確認をとる。
「あのう、私の名前おぼえてます……か」
「は?」
「ですから、宮城しおりの友人で、ロボ研で、豚キムチな女子なんですけど」
「なんのつもり」
なぜ彼がここまでイライラしているのか理解できず、忍はちらちらとドアをうかがう。
「その足で逃げられるとでも?」
とりあえず、骨折前にお世話になったお礼だけはしないと。
「あの、長屋さん。先日は寮までの運搬、ありがとうございました」
せっかくおんぶしてもらったのに眠りこけていて、これっぽっちも記憶がない。どさくさに紛れて、彼の首筋にほっぺたをくっつけたりできたかもしれないのに。今考えても口惜しい。
腕に覚えアリと見込まれ、忍は学会用の英語原稿を任されることが多い。そんな丸投げ案件と急ぎのデータ整理が重なり、その日はヤバイくらいに寝不足だった。
図書館でノートパソコンを枕にしていたのをしおりに発見され、手近にいた長屋にヘルプを要請されたいきさつがあった。
「ひとりで抱え込まずに、まわりに頼れ」
いくぶんカドのとれた声音で、長屋がさとす。
ロボット製作は、ひとりではできない。チーム内で作業を分担するので、進捗の確認や情報のすりあわせなど、常に協力する必要がある。設計が得意な人、手先が器用な人、全体を見通せる人。誰が欠けても完成しない。
「頼りっぱなしですよ?」
骨折に至った忍の研究姿勢について、彼はひとことモノ申したかったらしい。
「類友? 宮城も人に頼らない女だから」
そうだった。彼にとって大事なのは、しおりただひとり。その友人の好意を、むげにはできないだけ。
もしや潮目が変わったのではと、うっすらと浮かれていた心が、冷や水を浴びた。そろそろ潮時かもな、と忍は思った。
(つづく)
▷次回、第8話「嵐の予感」の巻

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