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話を聞くだけ何もしません4

喫茶店で蒐集3|堂巡なお  (note.com)

お腹が空いたので今日はわざと早めに喫茶店に来て、ナポリタンスパゲッティを頼んだ。ベーコンが少し厚切りにされてピーマンや玉ねぎが大きめに切られており少し味付けが濃くなっているが量も少し多めでがっつり食べられる。頼んだ後は文庫本を読んで待ち、テーブルに到着したナポリタンスパゲッティを無言で一心不乱に食べ尽くして、口を拭いてトイレ前の洗面台でうがいと口をゆすいで席に戻る。うがいはマナーが悪いけど客は私しかいない。テーブルの上にあった空の皿はもう下げられていた。
食事前と同じでもう一度文庫本を読み始める。

・4人目 堀本志保(仮名)さん 30代女性

入店の合図を知らせるベルのカランカランと言う聞き心地の良い音が店内に響くと白のプリーツスカートと、白のフレアスリーブカットソーをトップスに前髪無しのワンカールボブの女性が入ってきた。
いつもの様に手を挙げてこちらを見たのと同時に頭を下げてから「こちらへどうぞ。」と席へ案内する。

対面に座っていただいた所で来ていただいたお礼、簡単な私の自己紹介と体験された怪談や不思議な話を伺わせていただくお代としてこちらでの飲食代は私持ちだという事を説明させていただく。
女性も簡単な自己紹介をするが、初対面の人間に奢ってもらう事に戸惑っていたが「過去にお話していただいた皆様にも同じ様にさせてもらっておりますので。」と言うと、少し悩んでから堀本さんは「では。」とメニューからダージリンティーを選び、私はコーラを一緒に頼んだ。
注文が来るまでは雑談で持たせるのだが、私が最近好きな作家さんの本をよく読んでいる事や普段は書店巡りが趣味だと話すと、堀本さんも気を使ってくれたのかこちらに質問してくれたり、自身の趣味を少しばかり話してくれた。個人的な意見だが自身の事を話すと相手も少し話してくれるようになるし、なんとなしにその相手が優しいと性格も分かる気がする。
テーブルの雰囲気も良くなってきたところで飲み物が運ばれてきた。
カップのダージリンティー。グラスの淵を囲んでいるレモンの皮。のコーラ。果肉部分の行方が気になる。堀本さんは笑ってくれたので「ここのマスターの悪ふざけなんですよ。」と私も笑うと場は更に和んだ。
ダージリンティーを一口飲んで「凄い美味しい。」と女性らしい反応を見せた堀本さんに「ここのは全部美味しいですよ。」なぜか私は自慢げに言った。
少ししてから「今日はどんなお話を?」と本題に入る。

以下、堀本さんの話。
「はい。私が高校2年生の頃なんですけど。クラスに吉岡小百合さん(仮名)という女子生徒がいたんです。私は自分で言うのもなんですが学年では成績が良く中心人物では無いですが、委員長を任されたりしていました。吉岡さんはどちらかと言うと大人しい方で成績は良くも悪くもなく部活にも入っていませんでした。彼女は特定の友人を作るでもなく1人でいる事が多かったんです。大人しい印象でしたが・・。」
吉岡さんへの説明の節々に何か引っかかるものを感じたがそのまま話を聞く事にした。
「希望の大学が私の学力でも少し厳しかったので勉強に必死でした。学校以外の塾でも家でも、勉強ばかりで少し精神的に疲れていた時期でしたね。委員長なのでクラスの友達とかにも本音が話せないというか。腹を割って話せる友達がいない。なんて言えばいいんだろう。とにかく自分の為に頑張っている筈なのに周囲の期待や視線が嫌だったんです。そんな私から見て吉岡さんは羨ましい。と言うか憧れの存在でもありました。周囲の目は気にしないで、自分のしたい事を突き進んでいる。そんな人でした。」
吉岡さんを思い出しているのだろうか?微笑んでいるように見えた。
「ある日、その日は塾も無くて委員会が終わって教室に戻ると吉岡さんが1人で残って本を読んでいたんです。ビックリしたんですけど、同時にこう思ったんです。普段は話せないけど今なら話せるんじゃないかって。『何読んでるの?』緊張を隠したつもりでしたが声は上ずっていたかもしれません。」
吉岡さんは堀本さんに本のタイトルを伝えたが聞いた事が無かった。
「そ、そうなんだ。邪魔しちゃってごめんね。」と二人きりに耐えられず自分の机に向かってカバンを取ると慌てて帰ろうとしたせいで、転んでしまいカバンの中身をぶちまけてしまった。
急いで拾っていると「大丈夫?」と吉岡さんが近寄ってきて一緒に拾ってくれた。全部回収してお礼を言って帰ろうとすると吉岡さんに「一緒に帰らない?」と誘われた。嬉しかった。
2人で学校から家の方向の分かれ道までの会話は尽きなかった。吉岡さんは成績優秀な堀本さんに憧れていてどうやって話しかければいいのか迷っていた事。クラスで目立たない自分が話しかけても迷惑ではないかと。堀本さんさんが吉岡さんに思っていたような感情を吉岡さんが持ってくれていた事に喜びがあふれ出んばかりだった。自分も吉岡さんに対して思っていたことを本人にしっかり伝えた。2人とも照れ臭そうに笑った。
隣の芝生は青く見える。と言う言葉が頭をよぎる。
別れ際に電話番号とLINEを交換して家に帰る。
自宅に帰るとすぐにLINEを送り連絡を取って、翌日から直ぐに学校で面と向かって話す様になった。
初めの内はクラスメイトも普段接点が無かった二人の交流に驚きはしたものの、別に意地悪したりやっかんだりするような人もいなかったので、すぐにその光景はクラスに馴染み、吉岡さんも1人でいる事は減った。
2人はしょっちゅう一緒にいたのでクラスメイトからよくからかわれるほどである。
今まで辛かった勉強も何でも話せる友達が出来たことからか、大変だけど辛くなくなった。吉岡さんも悩みを言ってくれたし悩みを聞いてくれた。友情を育みながらも月日は経ち、堀本さんは希望の大学へ。吉岡さんは専門学校へ。進路は違えど、友達として交流は続き、学生時代程ではないが互いの近況を連絡をするのは社会人でも続いた。

「お互いに交際相手が出来て一緒に食事したり、2人で予定合わせて旅行に行ったり、帰省のタイミングも同じにしたりしてたんです。けれどもある日、私の実家から連絡が来て『小百合ちゃんが交通事故で亡くなった』と電話越しに言われた瞬間、目の前が真っ暗になりました。」
運転中に玉突き事故に巻き込まれた。
葬儀に参列したけどどこか他人事のように思い認めなかった。棺の中で眠る吉岡さんを見てやっと事実を受け入れる事が出来て涙が止まらなくなり、吉岡さんのご家族とご親族であろう参列者さんに連れられてその場を離れた。
火葬場で骨を拾い納骨まで参加し、遺影には堀本さんがよく知っている笑顔のままの吉岡さん。
参列後はまた仕事に追われる毎日が始まる。忙しい事は幸いだった。感傷に浸る間も無いから。
別に忘れたい訳じゃないけど、楽しかった思い出を思い出すたびに胸が苦しくなるのがそれ以上に悲しくなるから。
そんな日が数日続くとある異変が起きた。目に吉岡さんが映るようなった。

最初は街の雑踏の中で。その時は似たような人がいたので見間違えで済んだのだが、会社や電車の中でも見えるようになってしまった。
最初ははっきり見えるのではなくて目の端にチラリと映る。そこに視線を送るといない。街のガラス張りのビルに映っていたこともあった。気付くと直ぐにいなくなる。見える度に目の端でもなくなってきた。しかも距離が一定ではない。ガラス張りのビル越しの際は逆の歩道側。電車内では隣。会社では向かいのデスク。住んでるマンションのエレベーターが開いた瞬間に居た事もあった。親友の事なので驚きはしないし、怖いとは思わなかった。それが毎日続くことになっても。逆に嬉しかった。亡くなった事をしっかり確認した親友が私の事を見守ってくれている。
「吉岡さんの表情って見える度に変わってたりします?」
なんとなく思った事を口にしてみたのだけど堀本さんは「いえ。ずっと変わらず笑顔のままですよ。」と答えてくれた。
四六時中笑顔を向けられてるのを想像して、失礼だけどちょっと怖くなる。
「ちょうど先週、三回忌に小百合の実家に行ったんですけど遺影の隣に同じ笑顔が見えてしまって・・。失礼ですけど吹き出しそうになっちゃって。」
笑いながら喋ってるのはなんでなんだろう?まあ、堀本さんと私は考え方どころか違うものが見えてるんだから仕方ない。そう思って愛想笑いだけ返してコーラを一口啜る。

一旦、話すだけ話して貰ってみた。
吉岡さんは先程説明を受けた通り場所は構わず現れるのだが、家はもちろん外出先、自分の仏壇の前にすら出てくる。おかしいとは思わなくなっている堀本さんはそれを明るい笑顔として話してくれる。
それって本物の吉岡さんなのかな?思ったけど口に出したら多分、この人は受け入れずに癇癪を起こしてここで騒ぐだろう。数少ない私の落ち着ける憩いの場で。だからずっと聞いていた。
依然変わらず生きていた頃の吉岡さんとの思い出を事細かく話しながらも、現在見える吉岡さんの話を織り交ぜながら話してくれる堀本さん。
「あ。今そこに居ます。」と見える場所を指さしてくれたり、そこを見た動作の私を笑いながら「私以外に見える訳ないじゃないですか」とクスッと笑う。
話を聞きながら私は気になるところをちょっとずつちょっとずつ、頑張って質問にして聞いてみた。
「普段はどんなところに吉岡さんは出てこられるんですか?」
「その時は落ち込んでたりとかするんですか?」
「プライベートで彼氏さんとかといても出ますか?」
答えは
「いつもどこにでも出てきますよ。」
「私がどんな気分の時でも出てきますよ。」
「別れました。小百合がいるので。」
こんな返事が返ってきたので「なるほど!」「そうですよね。」と話に乗っかって、私は自分が質問したことを恥じた。次から直そう。

話をまとめると吉岡さんは亡くなってからも、親友だった私に寄り添ってくれているので、これからどんなに苦労や大変な事があっても1人じゃないから頑張れる。と言い素敵な笑顔を見せて話し終えると天井付近を見て「ね!小百合!」と言って立ち上がると店内を出て行った。
堀本さんを見送ると店内に1人になる。向かいのカップを見ると珍しく飲み残されている。
結構疲れたのでコーラを啜っていると「今日の人は凄かったね。」とカップを下げに来たマスターに声を掛けられた。
「まぁ。そうですね。けど、悪い人じゃないと思いますよ。友達思いですし。」「それは嫌味じゃないのかな?」苦笑しながらマスターに言われる。
そういう意味ではないけれども。そう思われたならそうかもしれない。
癖で頭を搔いた私を見てマスターは「冗談だよ。」と笑って言ってカップを下げて厨房へ消えていく。

見たいものを見ているのか?見せたいものを見せられてるのか?
もしかして隙あれば自分にも同じことが起きるかもしれない。
そんな事を思いながらも「なんでレモンをちゃんと切らないんですか?」と聞くのを忘れているのを思い出して後悔しつつコーラを啜った。

話を聞くだけ何もしません5|堂巡なお 







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