仕方なかった、私は間違ってない
少し形を変えて、
もう一度この話を書き直しました。
6年前、一つの言葉にすがった。今もまだ、その手を離せていない。
──私は、選ばれたい。
今でも。
誰かに「あなたがいい」と言ってほしい。その一瞬だけが、胸に空いた穴を埋められる。だから、書いているのかもしれない。
腰が重く沈み、目が熱を持つ。
フリーズしてる脳みそから、言葉を引っ張り出す出し方がわからない。水でも浴びれば、書けるんかもしれない。でも、動けない。
悔しい。
書けない。
夜中、腰にサポーターをつけたままパソコンを開く。
私が外で身を削っている間にも、皆、書いている。腰のサポーターは、外せないまま夏になった。ありったけの感情を言葉に乗せる瞬間、腰にずんと鈍く沈む。
外すのが、怖い。
夜になると、痛みが増すことがある。横になると、痛くてたまらない夜もある。腰、そろそろ診てもらったほうがいいのかもしれない。
でも、その時間が惜しい。
私は、結局パソコンを開く。
書くことに狂っている人を見ると、懐かしい仲間を見つけた気持ちになる。
生半可じゃない。
自分を美化しない。
背伸びも、卑下もしない。
ただ切り裂くようにして、隠すものもなく書き散らす。
私も、そっち側に行きたい。
もっと書きたい。本当は毎日、書きたい。
こんなもの、正直、理解なんかされないと思う。
それなら。
そこまでして、どうして書きたいのか。
仕方なかった、私は間違ってない
6年前。
徐々に変化していく彼との距離感に悩んでいた。
私を選ぼうという気持ち、彼はどこかに隠してしまったのか。
それとも初めから、そんなものはなかった・・・
私の、一人相撲だったんか。
あがいてた。
一人どうにかしたくて、LINEを投げた。
どんな球を投げても、反応はスローモーションだった。
悶々と自問自答を繰り返す私に、悪魔的な言葉との出会い。
「ツインレイ」という言葉は、底のない沼のようだった。
罪悪感だけじゃない。積み重なっていく彼への不信感。日々重くのしかかる感情を見ないふりし続ける自分。自分の半分が常に削り取られる。
そんな私を「間違ってないよ」とまあるくふわりと肯定してくれた、初めての言葉だった。
夜中にスクロールしていた記事で、初めて見つけた。
この恋を、私は家族にずっと伏せてきた。親友にも、両親にも、子どもたちにも。墓場まで、無言を貫くつもりだった。それが、私にとって筋を通すということだった。
それが「ツインレイ」という言葉で、あっけなく氷解した。
「わかるよ」
「仕方なかったんだよ」
「あなたは悪くない」
一言だって、誰かに言われたわけじゃない。
だけどほんの1ミリ。ゆるされた気がした。
一人ぽっちじゃない。そう思った瞬間、震えた。
ボロボロ涙がこぼれた。
午前一時。私は、即座に、その記事を彼に転送した。
ものの数分で既読がついた。
なんて返してくるだろ。
・・・俺もそう思ってたって、言ってくれるかな。
運命だよねとか、これわかる。とか、言ってくれるかな。
画面から目が離せなかった。
頬に血が上って、ドクドクいう心臓の音が聞こえた。
・・・画面に書かれた言葉は、ひんやりとした金属臭がした。
「この考え方は嫌いじゃない」
好きではない。
嫌いでもない。
「へー」と言われた気がした。
あの時、私はもしかしたら。
距離感がバグった。
私に寄り添ってくれてるのは、もはや彼じゃなかった。
「ツインレイ」という言葉のほうだった。
ふと我に返る。
腰が、じんと痛む。
画面の明るさだけが、暗い部屋に浮いている。
食事の用意を、しなくちゃいけない。
冷蔵庫に、今夜作る分の野菜も肉も、ぎりぎりしかないことが急に気になりそわそわする。そんな現実の断片の合間に、彼と過ごした時間の意味を何度も反芻する。
体裁を整えた記事は
その後、徐々に私はブログにのめり込んでいった。
当然の流れだった。
ツインレイという言葉と一緒だった。
「大丈夫」「癒してあげる」「波動をあげたら、望む未来が手に入る」みたいな、宙に浮いた発信をしていた時期がある。
皆、どこかしら傷ついていた。だから、そんな癒し系発信はよく届いた。公式LINEで、たくさんの読者とつながれた。
共感が、数字になった。
ねぇ。見てよ。
私は間違ってない。
私は仕方なかった。
毎月のように増えていく数字で、その手触りを確認した。ぞくぞくした。
数字は嘘をつかないと思った。
そんな中、2年間もの間、やりとりを続けた人がいた。
ひたすら、悩みに寄り添った。
泣きながらの相談にも、泣きながら付き合った。
元気づけたり、好きな本を教え合ったり、旅先の景色や、おいしいお店を教え合ったりした。彼女の心の中をのぞきたくて、教えてもらった本を買って読んだ。いつかきっと、会えると思ってた。
むー君がつないでくれた縁だった。だからどこかしら、むー君と混同してた。彼と気軽なやりとりが途絶えた当時の私に残された、掛けがえのない縁のひとつだった。どこまでも大切に、大事に、握りしめてた。
ある時、彼女は聞いてきた。
「むー君のことは、もういいんですか?」
もう、いい?
・・・どうだろう。
大切だけど、昔と同じじゃない。
その時、ちょうど私は、娘たちと近場の山に登っていた。
一歩。また一歩。息を弾ませて歩く。見上げた青空に、冗談みたいなコロンと転がった砂糖菓子のような白い雲が浮かんでいた。
私はその、何かが始まりそうな予感がする雲に目を奪われ、何度も写真を撮っていた。
ちょうどいい。
彼女に送ったら、喜んでくれるかな。
アングルと、切り取り方を何度も確かめてた。
むー君は、少しだけ私の中でセピア色だった。
彼の想い出は、私の心の中で大切にしまっておけばいい。
私の明日には、彼はいない。
もう、会いたいとか、話したいとか、そんな対象じゃない。そっと、そのままにしておきたい。
私は彼女に、ありのままを話した。
そしたら、重ねて彼女は尋ねてきた。
「ツインレイだって、今でも思いますか」
そりゃ今でも思ってる。
・・・そう返そうとして、手が止まった。
それは、純粋に、100%、そう言えるか。
これまでの私の紆余曲折を、出会いを、ひとつまみたりとも無駄にしたくないという打算が、この気持ちの何割くらいを占めているのか。
私には、わからなかった。
どう答えたら正解なのかも、わからなかった。
彼女は、しばらく無言だった。そして静かに日の光に横たわる山の景色を一枚、送ってきた。
いつもどおりだった。
夕暮れ時、通知が知らせた。画面を開く。
「そうですよね、むー君は、誠実じゃないですよね」
そんな文字が、あった。
見た瞬間から私の体温は、指先から徐々に奪われていく。
え?
なに?どういうこと?
意味がわからない。
私自身が、ずっと感じてたこと。
それなのに、人から言われると、ショックだった。
・・・よく見たら、LINEをブロックされていた。
そっか。
そうだよね。
私は、だから、こうなんだ。
私はそっと画面を閉じた。
すうっと、背筋から首もとに冷たい風が吹き通る気がした。
こんなこと、何度あっただろ。
大丈夫。もう慣れたんだ。こんなことでは私。
責める気にはならなかった。
責めるとしたら、自分だった。
私はこんな結末になることを、たぶんどこかで、ずっと知っていた。
体裁を整えた舌ざわりのやさしい記事。どこまでも際限なく、相手に寄り添うやりとり。
そんなことだから、そんな人間関係しか作れないんだ。
私が、ちゃんと踏み込まないから。相手の懐に全然届かないから。私。
「へー」「ほー」で彼と一か月、やりとりしていたことが重なった。
それまで書いてきた500記事くらいの記事の山を、 どぶに捨てたくなった。
それでも、なぜ私はまだ、ここに座っているんだろう。
この記事は、4部作の3本目です。
1本目「たわしだった、私の心が」
2本目「へー、が嫌いだった」
