インプットは絞る? とことん広げる? スタイルの違う編集者2人に聞く「情報の集め方・活かし方」
技術評論社で10年以上にわたりさまざまな本を編集し、近年はイラスト技法書のジャンルでも活躍する石井亮輔さんと落合祥太朗さん。
担当した作品は、2人合わせると200冊以上! そんなお二人に「編集者って普段どんなことを考えているの?」という疑問をぶつけるインタビュー連載、第2回です。
日ごろからどのようにアンテナを立て、最新動向にキャッチアップしているのか?
情報をいかに集め、本づくりに活かしているのか?
インプットを「絞る派」の石井さんと「広げる派」の落合さん、それぞれ日ごろどんな情報収集をしているのか聞いてみました。
聞き手:技術評論社 デジタル事業部EC/マーケティング室
第1回はこちら
第3回はこちら
あえて1度、限界までインプットしてみる
───第1回では企画づくりの裏側についてうかがいました。今回はその下地となる、日ごろの情報収集についてお聞きしたいです。

数多くのクリエイターさんが発信されていて、イラスト技法書の企画につながりそうな情報も膨大に流れてくるかと思います。そんな中で、日々のインプットをどう絞っているのかが気になります。
石井:私はすごく絞るタイプだと思います。最近のXは見続けるのが苦しいこともあり……。
───気持ちはわかります……。
石井:ある程度企画の「軸」を立ててから見るようにしていますね。その時点で、ウォッチするべき範囲も絞られてくるのかなと。
───視点を明確にしてからリサーチするんですね。SNSを見る時間も少なめでしょうか。
石井:そうだと思います。人によっては張り付いている方もいるでしょうし、やり方はさまざまですよね。
───落合さんはこのあたりいかがですか。
落合:私は手広く追っていきたいタイプですかね。自分のアンテナの外側まで見に行こうという意識はあります。それでも時間には限りがあるので勝手に絞られていく。そんなイメージですね。
あえて1回、自分のキャパいっぱいまで情報を追ってみる時もありますよ。
───おお、たとえばどのくらいでしょうか。
落合:Xで流れてきたハッシュタグを全部追う、とかですかね。

───え、ハッシュタグを全部?
落合:#私はこんな仕事がしたいとか#欲望はぜんぶ口に出したほうが仕事につながるのような、お題に対して自分の作品を上げていくタグがありますよね。あれをくまなく見ていくんです。
───盛り上がっているタグを見かけたら全部追うと。
落合:はい、見られる範囲はすべて。ひたすらスクロールしていっても300件ぐらいしか出ないので、限度はありますが。
───300件ですか。それをいろんなタグに対してやるとなると、なかなかのボリュームになりそうです……!
落合:まあ、実際どこまで身になっているかはわかりませんけどね。前回お話したように、Xで目にした投稿から企画が生まれるケースは実際にあるので、これが自分のスタイルなのかもしれません。
───ハッシュタグ以外にも話題の投稿などを幅広くウォッチしていると思いますが、どんなところに注目して動向を追っていますか。
落合:影響力のあるイラストレーターさんがリポストしている投稿などは意識してチェックしますね。意外といちばん重点的に見ているポイントかもしれません。
───リポストを見ているんですね! 「この人も反応している話題なら、そこには何かあるぞ」と。
落合:イラストレーターの皆さんは相互扶助の意識も強いので、お祝い兼リポストのような文化もありますね。そういったことを積極的にやるイラストレーターの方を何人か見ておくと、「フリーになりました」といった執筆依頼の参考になる情報も自然に入ってきたりします。
あと大事なのは、個人的な興味に偏り過ぎないことでしょうか。まったく関心がなくても界隈でよく回ってくる話題は意識的に追いかけてみるなど、主観と客観のバランスに気をつけています。
───目星をある程度つけながらバランスよく幅広い情報に触れることで、最新動向にキャッチアップしているんですね。空き時間は基本的に情報収集に充てていますか?
落合:通勤中や移動中はけっこう見ていますね。自宅でやっている時もあります。
見ないと落ち着かないほどではないですが、気になっていたテーマや描き手の本が他社さんから先に出てしまうとやっぱり悔しいですね。
───石井さんと落合さん、それぞれスタイルが違ってとても興味深いです……!
競合書はどのくらいチェックする?
───他の出版社という話でいうと、競合にあたる本はふだんどのくらい読んでいますか。
石井:特に企画を考える段階では見ていますね。市場がどういう状況なのかは大きな判断材料なので。
───中身はどのくらいチェックしますか?
石井:目的によりますが、企画段階なら、売れている本と売れていない本を比較しながら「どういう読者がいるのだろう?」と考えてみたり。制作中なら紙面レイアウトを詰めるときの参考材料にしたり、といった視点で類書を読むことが多いです。
───そこまで視点を明確にして読んでいるんですね。落合さんはいかがでしょう?
落合:企画を出す前に、知っている類書は必ず目を通しますね。あとは自分の担当作と同じテーマで後発の本が出てきたら、それもひととおり読んでいます。「そうきましたか」とか思いながら(笑)
───類書も幅広くチェックしているんですね!
落合:構成の作り方がうまかったりすると、素直に悔しいですね。情報をどういう切り方でまとめているかなど、いろんな目線で読んでいます。
「沈没船エッセイ」から読みとる編集の工夫

石井:競合の話とは別ですが、他社の本から影響を受けた例でいうと、この『イラストレーター、最高~~~!!!』がありますね。イラストレーターのユッカさんが、中卒でアルバイトをしながら専業イラストレーターになるまでを語る、読み物形式の本です。
実はこれ、『沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う』(新潮文庫)という本を構成の参考にしているんです。
───そうだったんですね! これはノンフィクションの本ですよね。
石井:ええ、水中考古学者の方による冒険エッセイで、沈没船を探しに行く物語です。
海のヘドロや泥をくぐり抜けて、ついに沈没船が見つかった時の興奮。まずそういった描写からスタートして、自分がどういう人生を歩んできたかの話はその後にくるんですね。
いきなり自分語りをしない、興味を持ってもらいやすい構成だなと思って、話の展開の仕方のお手本にしていました。
───沈没船を追う話がイラストレーターの本に役立つとは……! 常に何らかの視点を持ってインプットされている様子が伝わってきます。
石井:構成のヒントになる本を探していたわけではないんですけどね。雑誌で見て面白そうだったので読んだら、「いいな」と。
それが記憶に残っていたのでしょう。あとあと企画を組み立てるときに役に立ちました。
───担当作とは違うジャンルの本もよく読みますか?
石井:日ごろ読む本は全然違いますね。最近はスピリチュアルなものとか。

───スピリチュアル……!?
石井:面白いですよ……! 量子の世界とか、霊魂の話とか。あとは合気道の本とかですかね。これも宗教的な要素が入ってくるので……。
って何の話でしたっけ? すみません(笑)
───いえいえ……! 意外な方向に話が転がってきました(笑)
石井:大学の頃にやっていた弓道を数年前から再開して、武道の本を読むようになってそこに至る感じですね。
───そうなんですね。仕事とは別に読んでいる本の話はとっても興味深いです。その蓄積が企画に反映されることもあると。
石井:構造はジャンルを超えて活かせる部分がありますね。
───落合さんは仕事関連以外ではどういう本を読んでますか。
落合:自分は無軌道というか、気になった本をその都度読む感じでしょうか。たとえば生き物図鑑とか……、よく知らない国の料理本とかも読みますね。
自分の場合は構成とかを意識して読むことはあまりないですね。仕事目線で読むと疲れてしまうので、切り替えてます。
───仕事の時は仕事モードで。
落合:ええ。とはいえ、先ほどの石井さんの話もよくわかります。自分の場合は、見た目はイラスト解説書の体裁でも、中身の構成は昔出していたPC入門書の形式に似ていることがままあるので。
逆に『イラストレーター、最高~~~!!!』のような読み物の形式の本だと解説書のフォーマットはハマらないので、石井さんが他のジャンルからヒントを得たのも納得です。
日常的にさまざまな分野に触れておくことで、使える引き出しが自然と増えていくのかもしれませんね。
本屋があったら必ず入る、Amazonも毎日巡回
───お二人は書店にどのくらい行きますか?
石井:私はあまり最近行けてないですね。企画を考えているテーマの類書を見にいくことはあります。
───リサーチ目的で行くことが多いんですね。落合さんはいかがですか?
落合:自分は「本屋があるな」と思ったら必ず入りますね。どんな本が目立つ展開になっているか見て、気になった本があれば手に取ったりしています。
───自分の関わるジャンルの棚はじっくりと。
落合:もう少し俯瞰して見るイメージですね。こういうタイトルの本はこのあたりの棚に置かれるのか、このテーマではどんな版元が強いのか、などとぼんやり考えながら見ています。
───書店以外でも習慣的に見ている場所やサイトはありますか。
落合:やっぱりいちばん見ているのはXと、Amazonですかね。Amazonの売れ筋ランキングで、自分に関係するカテゴリの上位は毎日必ずチェックしています。
───ルーティンが確立しているんですね。
落合:まあ、だいたい同じメンツですけどね。たまに新入りがいると「あら知らない子が入ってきたわね」と思ってます。

(技術評論社の本も8つ発見!)
───かなり張り付いてますね(笑) 石井さんは習慣的に見ているのはどのあたりでしょうか。
石井:最初にお話したように、今のXは苦手なので(笑)
タイムラインを見ない工夫として、ヤフーリアルタイム検索のトレンドを日常的にチェックしたりします。ニュースを見るような感じで、疲れた時とかにチラって見ますかね。
───Xのポストもそこから検索できますしね。ある程度代替できる部分はありそうです。
石井:あとは、雑誌も毎週読んでます。『AERA』(朝日新聞出版)は「お前はものを知らないから読め」と編集長に勧められて読み始めてから、かれこれ8年くらい続いてますね。ニュースを深堀りして記事にしてくれていますし、時代感覚も何となく得られるので。
───お二人とも自分なりの情報収集スタイルが確立していて、それぞれやり方が違うのが興味深いです。
連載最終回となる第3回(後日公開予定)では、石井さんと落合さんの編集者としての歩みを振り返ります。
第1回はこちら
第3回はこちら
