「企画のタネ」をどう見つけ、育てるか? ── 本づくり歴10年以上の編集者に聞く
思いつきのアイデアは、どうやって「企画」になるのか?
企画の「タネ」をいかに見つけ、育てていくのか?
技術評論社で10年以上にわたりさまざまな本を編集し、近年はイラスト技法書のジャンルでも活躍する石井亮輔さんと落合祥太朗さん。
今回はそんなお二人に、デザイン・イラストnote編集担当が「編集者って普段どんなことを考えているの?」という疑問をぶつけてみました。
全3回連載の第1弾では、「タネ」から始まった企画が本として動き出すまでの過程にせまります。
聞き手:技術評論社 デジタル事業部 EC/マーケティング室
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編集歴10年以上のお二人にインタビュー!
───今日はよろしくお願いします。お二人は、それぞれ今年で何年目ですか?

石井:この4月で新卒から15年目です。これまで作った本を数えてみたところ、120冊ほどありました。
───120冊ですか!
石井:Office系などのコンピュータ入門書を作ってきた期間が長くて、そこから異動も経てデザインやイラスト系の本にも携わるようになりました。最近は興味の赴くままにやっている感じです。
───幅広いジャンルに関わってきたんですね。落合さんは、今年で何年目でしょうか。
落合:11年目で、これまで作った本は80冊ほどですね。入社から9年間は、主にスマートフォンやOffice系などの操作解説書を担当していました。
その終盤からイラストの技法書だったり、ゲームクリエイターさんの本も手がけるようになります。今の部署に異動してからそういうジャンルの割合がぐっと増えて、現在は担当作の半分くらいを占めていますね。
石井さんとは前の編集部でも何年かご一緒して、異動を経てまた同じ部署になったんです。
───10年以上編集をされているお二人ですが、このジャンルを手がけるようになったのは比較的最近なんですね。イラスト技法書ジャンルの本を本格的に担当した「最初の1冊」をうかがえますか。
落合:『ヒョーゴノスケ流 イラストの描き方』ですね。
───2021年の初めですね。その頃から弊社でもイラストレーターさんの名前を前面に出した本が増えてきた印象です。
石井:私は2018年の『プロが教える! CLIP STUDIO PAINT PROの教科書』ですね。2022年には増補改訂版も出ています。
思いつきのメモが「企画」に育つまで
───この『プロが教える! CLIP STUDIO PAINT PROの教科書』は初版と増補改訂版を合わせて累計3万部超えのロングセラーですね。isuZuさんの活動はもともと追いかけていましたか?
石井:実はそういうわけでもないんです。
自分は著者の方から発想するよりも「企画が先」のことが多くて。クリスタの解説書を作ろうと考えたのが先で、著者候補を探し始めたのはその後です。isuZuさんはクリスタ公式のメイキングを描かれていた方々の中の1人でした。
───著者ありきで企画するのではなく、企画を考えてからマッチする方を探す順番なんですね。企画を立てるために、どういう情報を集めていますか?
石井:昔はそうですね、マーケティング的というか。どういう本が出ていて、どの辺にボリュームゾーンがあって、みたいなことを調べていました。頭で考えて作る企画ですよね。
───市場調査から始めていたんですね。
石井:ただ、最近はあまりそういうやり方はしていなくて。ふと思いついたアイデアをiPhoneのメモに入れています。そのメモがやがて「熟成」してくるんですよ。

───熟成...…! もう少し詳しくうかがえますか?
石井:最初の思いつきの時点では、いろいろとパーツが足りないんですよね。企画としてはまだ弱いというか。
この思いつきだけでは、読者さんには届きにくいだろうなとか。何かしら切り口が必要だろうなとか。競合書が強いとか。そういう課題があるんですね。
───そこから熟成すると、どうなるんでしょう。
石井:思いつきレベルで寝かせたまま、ふだん暮らしていく中でいろんな情報に触れていくと、それが企画にくっついてきたりするんですよ。糸口が見つかるというか。
ふとした時に「こうすればいけるかな?」みたいなひらめきがあれば、その都度メモして。そんなことをくり返してコネコネし続けていると、だんだん企画が形になってくるんです。
───こねては寝かせてをくり返すうちに形になっていくんですね。興味深いです...…!
企画の「タネ」はどこにあるのか
───落合さんの企画は「著者が先」な場合が多い印象がありますが、いかがですか?
落合:どちらかといえばそうですね。SNSなどで気になるクリエイターさんを見つけた時に、もしこの方に自由なテーマで書いていただけるなら、どんなテーマがいいだろうと考えています。
───自分のやりたいテーマから著者の方を探すこともありますか?
自分の中でも企画の「タネ」みたいなものは、ぼんやりと持っていますね。自分が持っているタネと、この方がやっていることを組み合わせたらどんな本ができるだろう? といった考え方をする時もあります。
あとはテーマに関係なく反響がありそうな方の場合は、その方の得意なことで何か1冊できないかなと考えますね。レアなケースではありますが。
───石井さんとはスタイルが違っておもしろいですね。好きな作風のクリエイターさんを見つけたら積極的にオファーしていくんでしょうか?
落合:えーと、自分の好みは企画にあまり反映しないです。
───あ、そうなんですか?
石井:それはちょっと意外ですね。落合さんの担当作でいうと『怪画憑現』とかはどうなんでしょう?
趣味性も強そうで、個人的な好みを反映しているのかなと思ってました。
落合:僕はむしろ、怖いもの大っ嫌いで……。

───えええ、そうなんですか(笑) 苦手なジャンルも企画になるんですね……!
落合:怖いものは嫌いでも、怖い絵を描く人自体が苦手かというと、それはまた別ですよね。そういうジャンルが好きな方も確実にいらっしゃいますし。
「何をもって怖いと感じるんでしょうか?」みたいな振り方もあります。同じ題材でも、描き手によって最終的にまったく違う作品になりますしね。
───『怪画憑現』も、3人の描き手それぞれのアプローチの違いが見えるつくりになっています。
落合:同じ筋書きの話でも人によって見せ方が違うので、どこからその違いが出てくるんだろう? みたいなところには関心がありますね。
───その人の作品が好みかどうか、とは別のポイントで企画しているんですね。
落合:絵そのものに魅力を感じるかはもちろん大事ですが、それだけが決め手ではないですね。この人といえばこの作風、といったスタイルが確立されていることも魅力のひとつですし。
さまざまな角度から「これ、何だろう」と気になるポイントが、企画を考えるきっかけになっているのかもしれません。
企画の「タネ」という意味では、SNSなど目につく範囲で「これができない」と言っている人が多い話題にも注目しています。
───どういうことですか。
落合:たとえば『デジタルイラスト 「塗り」の教科書』は「できない」から始まった本ですね。
よくあるイラストメイキング動画を見てもその通りにならない、という声を数多く目にしていたんです。ならばその手順をイチから、使う色からブラシまで全部指定して「こうしてください」とまとめて1冊にしてみてはと思ったのが企画の原点でした。
───そうだったんですね!
個人的なモヤモヤを出発点にすることもあります。たとえば『うまい絵のリクツ』がそうです。
落合:こういうジャンルの技法書を読むと、空気遠近法を意識して塗りましょう、構図はこれで、シルエットの効果を意識して、こんな風にここに配置しましょう、といった解説が出てきたりします。
自分はイラストの素養がないので「いろいろやり方があるのは分かったけど、いまひとつピンとこないなあ」と思うことが多くて。それらはどういった効果なのか? 実際どうすればいいのか? といった話をもう少し具体的に教えてくれる情報はないか、ぼんやり考えていたんです。
───まさに企画の「タネ」ですね。
落合:そんな時に目に留まった方が、この本の著者となる森野ヒロさんでした。
SNSで発信されているこういった解説が、どれも理屈として腹落ちするものばかりで印象に残っていたんです。
唐突に「絵などで色を使わず特定のものに注目させる技術」
— 森野ヒロ/絵仕事受付中 (@morinohiro) October 15, 2019
◆1~3
・線(や輪郭)を使う
◆円や図形などで、対象と輪郭が近づきすぎないように重ねる・または囲む pic.twitter.com/EC8fElVupL
そこから「自分の中にこんなタネがあるんですけど、興味ありませんか?」と話を持っていったのが企画のスタートです。
あえて企画を「膨らませすぎない」理由
───落合さんは、執筆を依頼するまでのフットワークは軽いタイプですか。
落合:オファーすると決めたらすぐにメールしますね。そこで快諾いただければよし、お断りの場合はまたの機会にと切り替えて。
───数を打っている方ですか。
落合:数は多くないですね。構成案をひととおり書ける段階になるまでは、あまり送らないです。発注する側としてこちらのオーダーは何なのか、聞かれた時にしっかり答えられる状態というか。
───そこまで見えてからなんですね。石井さんはいかがですか。
石井:読者がいて、届きそうだな、という段階まで企画が深まってきたら著者を探しますかね。
───あえて企画を固めすぎないこともあったりしますか?
石井:企画自体は骨組みみたいなもので、それ以上は膨らませない意識はありますね。章立てはある程度決めますが、肉付けまではしないというか。程度問題なので難しいですが。
───おお、あえて膨らませないこともあるんですね。そこからは著者の方が詳細を詰めるんですか?
石井:はい。意識的にそうしている面はあります。
仮にこちら側で構成を全部固めて「これでお願いします」とお持ちしても、著者の方と理解度が揃わないことがあるんですね。

───どんな本にしていくのか、編集者側のビジョンだけが一方通行になっている状況でしょうか。
そうですね。その状態のまま進めると、こちらの想定とは違った原稿が届いたなんてことが後々起こったりします。執筆するのは著者さんですから、ご自身の中で「何をどのように書くか」ということが腑に落ちていないとそうなります。
それを防ぐためにも、自分で考えてもらう時間は必須なのかなと。もちろん、著者の方がそのテーマに詳しいので、構成を考えてもらいながらよりよくしていくという意味もあります。
編集者ってどんな役割?
───著者の方に委ねる部分も多いとなると、編集者として自分の役割はどう考えていますか?
石井:難しい話題ですね……。昔の漫画編集者の言葉で「木の上に登って、行くべき方向を指し示す」のが編集者の役割、というのがあったのですが、基本はそれかなと。
ただ実用書だと他に本業があって、必ずしも文章のプロではない方も多いので、漫画と一緒とは言い切れませんね。時にはこちらが介入せざるを得ないケースもありつつ、大筋では「こっちの方向ですよ」「そっちじゃないですよ」と示すのが役割といえるかもしれません。
───なるほど、俯瞰しつつ方向を示す役割ですか。落合さんはいかがでしょう。
自分はツールの操作解説書の割合が多いこともあって、楽器のコンプレッサーのようなイメージでしょうか。音圧などの調整をする機材ですね。
イラストレーターさんは描く力がある分、「言わなくても分かる」ような工程の解説が飛ばされることがあるんですね。
「知らない線がいきなり増えた」「使っていたペンが急に変わった」など、無意識のうちに手順が省かれていて読み手が置いてきぼりになりそうな箇所はないか、目を光らせています。
───解説の塩梅を調整する役割もあると。
落合:逆にすごく熱心に解説をしてくださった場合も、他のパートと説明の粒度が違い過ぎたら手を入れることもありますね。別の項目をワンポイント作って「詳しい解説はそこに逃しませんか?」みたいな話をして。本のタイプによっても変わりますが。
立ち位置としては、後ろからついていっている感覚ですね。
───後ろからついていく。
落合:ときどき見失いそうになるので、『今どこにいますか?』と確認するような感じです。読んでいて「ここからここまで解説がワープしてます」「この話を伝わりやすくするために、こういう話を手前に入れましょう」といったことを伝える役割ですね。
───木の上から。後ろから。お二人とも表現の仕方は違えど、姿勢は共通している気がします。
後日公開予定の第2回では、「企画のタネ」のベースとなる日ごろの情報収集や、アンテナの張り方について深掘りします。
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