企画の「手応え」と「通りやすさ」は別物? 本づくりのゴーサインが出るまで
技術評論社で10年以上にわたりさまざまな本を編集し、近年はイラスト技法書のジャンルでも活躍する石井亮輔さんと落合祥太朗さん。
担当した作品は、2人合わせると200冊以上! そんなお二人に「編集者って普段どんなことを考えているの?」という疑問をぶつけるインタビュー連載、いよいよ最終回です。
今回は、企画が通るまでの試行錯誤、これから作りたい本などをお二人にうかがいました。
聞き手:技術評論社 デジタル事業部EC/マーケティング室
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承認まで4ヶ月。前例が少ない企画を粘り強く説得
───石井さんと落合さんはもともと同じ班に所属していたのですよね。
石井:もともと4~5年前まで同じ編集部で、昨年から別の部署でまた再会しましたね。
落合:合わせて7年くらいは一緒になる計算ですかね。

───前回、前々回とイラスト技法書づくりの話を聞いてきましたが、お二人はOffice系などのコンピュータ入門書を担当していた期間も長いですよね。
落合:ええ。私が入社した頃は、社内にもまだイラスト技法書の前例が少なかったんですね。そういったジャンルの本は「弊社で扱わなくてもいいのでは」といったムードも正直あったと思います。
その後『SAI×Photoshopで描く 背景イラストテクニック』という本がヒットして実績が積み上がったことで、イラスト系の本にも取り組みやすい空気が少しずつでき始めた気がします。
ほどなくして、2017年ごろにお声がけしたのがイラストレーターのヒョーゴノスケさんでした。
『ヒョーゴノスケ流 イラストの描き方』として本になるまでは3、4年かかりましたけどね。
───第1回でもイラスト技法書のジャンルを手がけた「最初の1冊」として挙げられていましたね。
落合:ただ企画会議の段階では、こういう本が弊社の領分なのか迷う声もまだまだありましたね。
───そうですか。イラスト系というだけでなく、SNSで著名なイラストレーターさんの本も当時はまだ少なかったかもしれません。
落合:企画は4~5回再提出して、通過するまで4か月はかかりましたね。イラスト界隈では非常に著名な方でも、社内の(イラスト界隈にあまり触れていない)人には知られていないことがあるのが難しいところです。指摘されたポイントを根気強く説明し続けました。
───4ヶ月ですか……! ゴーサインが出たきっかけは覚えていますか?
落合:ヒョーゴノスケさんは当時、ドラえもんの映画のイメージボードや宣伝用ポスターを手がけられていたタイミングだったので、その点をアピールしたのが最後のひと押しになりました。
───決め手はそこでしたか。タイミングも味方したんですね……!
手堅いタイトルから「遊ぶ方向」にシフト
───石井さんは企画が通るまでの道のりが印象的だった本はありますか?
石井:前回も話に出た本ですが、『イラストレーター、最高~~~!!!』でしょうか。
───イラストレーターのユッカさんが、中卒でアルバイトをしながら専業イラストレーターになるまでを綴った一冊ですね。
石井:最初に行う同じ編集チーム内の企画会議では、反対意見もいくつかもらいました。
ただ、営業など他部署の人たちも加わる最終的な会議の場では、意外とすんなり受け入れてもらえたんですけどね。企画の通りやすさには、判断する人の特性がどうしても影響してくると思います。
───部内会議では反対意見もあったんですね。
石井:企画会議はありがたい場で、自分だけでは見えない部分に気づく良い機会になっています。私は企画書に起こす段階で、無意識のうちに企画を無難な方向に丸めてしまう傾向があるので、そういう自分のクセを発見できる場としても助かっています。
この本もタイトルが最初は正直イマイチだったので、指摘された記憶があります。
───今と違うタイトルだったんですね。
石井:途中まで『イラストレーターは最高の生き方』にしようと思っていたんです。
ですが、打ち合わせで著者のユッカさんから「生き方って言葉、堅くて私言いそうにないです・・・!」と言われたんですね。代わりに提案されたのが『イラストレーター、最高ー!』でした。
───著者さんのアイデアだったんですね!
石井:実はその案を聞いた当初は、微笑みを浮かべながらも「読者に何の本か伝わらない気がする」と内心後ろ向きだったのですが……。
その後考えていくうちに、むしろこのタイトルのほうが本のことを正しく表現していて、読者にも伝わるのではないか、というところに思い至りました。ユッカさん、すごいなと。
一方で、字面が貧弱だなあというのは気になっていて。「最高〜〜〜!!!」という、ニョロとビックリマークを3つずつ付ける解決策を思いついたときに、「これでいける」と思いました。
───だいぶ印象が変わったと思います! 表紙もすごく攻めていますよね。
石井:最終的に、遊びの方向にいきましたね。
───石井さんのこれまでの傾向からすると珍しいですよね。
石井:最近はもう、どんどん遊ぼうと思ってます。
───そうなんですね(笑) 新人や若手の頃は違う感覚でしたか。
石井:もともとビビリなので、枠にはめよう、はめようとしていましたね。今思えば。
今もその傾向がないわけでもないですが、異動がやはり大きなターニングポイントで、良いタイミングなので仕切り直して、またイチからはじめてみようともがくターンがあって、今に至る感じです。
───なるほど、落合さんはこの点いかがですか?
落合:私も部署の移り変わりが石井さんと似た経過ではあるので、思い当たるところはありますね。
編集部ごとにミッションが違って、今の部署にくる前は、既にブランドが確立しているシリーズを担当させてもらうことが多かったです。シリーズのラインナップとして割り当てられたテーマの本を確実に、一定以上の水準で制作することが求められるような環境でした。
今担当しているようなイラスト関連書は「半年後にできる」といったタイプの本ではないですね。作り方が違う本が増えたことで、結果的に企画に自分のカラーも反映されやすくなったのかなと。
もちろん、どちらが良い悪いといったことではなく、ただ性質が違うだけの話ですけどね。
───そういった状況の変化もあったんですね。イラスト関連の企画につながる情報は、以前からウォッチしていましたか?
落合:「いつか企画にしたいなあ」という気持ちで、情報は追い続けてましたね。もともと寝かせていたネタを今は形にできていると思います。
石井:私もコミケなどにはよく行っていました。当時は仕事とは切り分けていましたが、結果的に今担当している企画にもつながっているかもしれません。
本として実現するアイデアは何割くらい?

───企画は年間で何本くらい担当しているんでしょうか?
石井:正確に数えたことはありませんが、常に抱えている数でいうと10本くらいでしょうか。
───落合さんはいかがですか?
落合:企画会議も通過したものでいうと、イラスト関連などのクリエイティブ系以外の本も含めて年間で8~9本くらいでしょうか。
あとは、まだ会議に提出する段階ではないと保留するのが10件前後です。
───第1回で詳しくうかがったような、企画の「タネ」の状態ですね。そこで石井さんが「熟成」について話されていたのも印象的でした。タネからざっくり何割くらいが実現に至るのか気になります。
石井:感覚的には、タネから企画まで育つのは半分くらいでしょうか。そこまで進んでも、10~20%くらいは最後までたどりつかないこともあります。
───企画まで育つのが約半分で、さらにそこから本になるのは8〜9割ということですね。落合さんはいかがですか?
落合:タネから最終的に本として完成するのは、3割あればいい方ですね。
───3割ですか。
落合:何度も掘っては埋めてをくり返すうちに、泥のようになってしまうアイデアもあります。やりたいテーマがあっても、著者の方が見つからなければ先に進まないですしね。
仮に見つかっても本業が多忙であったり、他社さんからも声がかかったりして見送りになることもあります。そう考えると「企画になりそう」と思ったアイデアが本になる確率は2割3分くらいかもしれません。
───野球の打率のような世界になってきましたね……!
いつか作りたい本
───いつか「こんな企画をやりたい」というアイデアを差し支えない範囲でお聞きしていいですか。実現可能性はひとまず置いておいて。
石井:むしろ可能性が低いほど公表しやすいですね(笑)
デザインの基本や理論をノンデザイナーでも身につけられる入門書の決定版にチャレンジしたいと思っています。
名著もたくさんあるジャンルですが、自分なりに納得できる1冊を作ってみたいですね。もう3年くらいあれこれ考えてます。
───実現するのが楽しみです! 落合さんはいかがですか?
落合:野食ハンターという野生の生き物や植物を食べるYouTubeチャンネルが好きなんですが、その延長でファンタジーの世界の生き物を「食べてみた」という設定のイラスト集を作りたいですね。
石井:『ダンジョン飯』のような感じですか?
落合:もっと世界全体を網羅したバージョンですね。『古生物食堂』という弊社の本がありますが、あのファンタジー版のような感じでしょうか。この本は読みものですが、発想としては近いです。
───おお、面白そうですね!
落合:調理工程など、ディテールまで追いかけた作品集ができればと。
石井:実現するイメージも湧いてくるアイデアですね。あまりここでしゃべり過ぎない方がいいのでは(笑)
落合:誰かに先を越されたら悔しいですしね……! ただ、実は目をつけている著者の方もいます。
───なんと! では、これ以上は秘密ということで(笑)
編集者としてお互いをどう見ている?
───最後に、お二人がお互いに対して、それぞれどんな編集者だと思うか印象をうかがえますか?
落合・石井:難しい質問ですね……。

───お二人とも答えにくそうです(笑) なかなか普段こういう話はしませんからね。
石井:落合さんは……やっぱりいい著者さんを見つけてくるイメージがありますね。そこから実際に企画としても実現されてますし。
あとは前回詳しく話されていたように、すごく幅広く情報を追ってるなと。今日はそのあたりの話を初めて聞けたのがよかったです。
───落合さんからみた石井さんはいかがですか。
落合:自分もいろいろと本を出していますけど、なんというか、当たる確率でいうとけっして高い方ではない気がしてて。けっこうムラが激しいというか。
その点、石井さんの企画は平均の打率が高いというか、よく伸びていく印象なので。やっぱり精度が高いというか……。
───お互いリスペクトがありつつも、面と向かって言うにはむずがゆい様子が伝わってきます(笑)
落合・石井:このあたりで勘弁してください……!
───もっと深掘りしたいところですが(笑) お時間ということで……!
日ごろは聞けないような話をたくさん聞けて、私にとっても貴重な機会になりました。石井さん、落合さん、今日はありがとうございました!
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