仕事の上達を阻む構造について
BASE株式会社執行役員の柳川です。金融事業の事業責任者をしています。
私はエンジニア→PdM→事業責任者というキャリアを歩んできました。
現在は事業戦略、プロダクト戦略、組織戦略全ての責任を持ちながら、事業責任者を務めさせていただいています。
今回は長年考えていたことの点と点がつながったので、備忘のために書きます。
BtoB SaaSの隆盛による分業化の流れと、世の中のワークライフバランスの意識の高まりと、コロナによるリモートワークの本格登場と、さらにそれらに後追いでついてきた副業の流れがシンデレラフィットすることで、仕事が上達するまでの時間が長くなったのでは?そしてそれは中長期的に誰も幸せにしないのでは?ということを書いてます。
シンデレラフィットした構造のバランスが徐々に綻びを見せ始めた今、割を食うのは誰なのでしょうか?
何かを批判する意図はなく、構造の分析です。
この記事は以下の記事の精神的続編です。
分業化
BtoB SaaSがPMFすると、売上を上げるための一連のシステムが完成します。
そしてその後、そのシステムを効率化するために、分業化していきます。いわゆるThe Model的な話です。
分業化すると、練度を上げやすくなります。
全てを作れる靴職人を育成するのは難しいが、靴底を張るだけの仕事なら比較的楽に習得できるよねと言う話と同様です。
ただし分業は人の力を削ぎます。靴底を張るだけの仕事と靴職人、どちらの方が自由でしょうか。システムの外で価値が出せるでしょうか?
分業の流れはBtoB SaaSに限らず、業界全体の雰囲気として染み出していきます。それほどまでにBtoB SaaSは隆盛しました。
ARRという考え方による、調達のしやすさ、拡大のしやすさ、採用のしやすさはとても強力でした。
本論の骨子として、分業化による「ここからここまでやればいい」と言う形式は後述するワークライフバランスやリモートワークと非常に相性が良かったのではないかと考えています。
BtoB SaaSを批判してないです。
ワークライフバランス
いわゆるワークライフバランス。ワークライフバランスについて、それを批判する意図は一切ないです。
ただし、生涯投資を考えるとこのタイミングで頑張っておいた方がいいというタイミングは存在します。必ずしも残業をしなくてもいいけれど、あるタイミングで頑張ると後で楽になる。ここであるスキルを獲得すると複利が利くようになり後で楽になるということはあると思います。
また残業をすることで割り当てられた以外の仕事に勝手に取り組めるのもチャンスでした。残業を完全に選択肢からなくすと、仕事の幅を広げるチャンスを得られる機会が限られてしまう側面はあると思います。
ワークライフバランスで稼働時間が限られる中で、「効率的に仕事を教えるためには分業が良い」という、相性の良さによるかけ合わせ効果も指摘しておきます。
もう一度言いますが、長時間働け!とか残業しないとダメ!とは一言も言ってないです!
長時間働こうが残業しようが、それが実績につながって、キャリアとしての投資になってないと勿体ないですよということです。
残業が強制されるのはだめです。しかし選択肢として取れない、取りにくいのもそれはそれで不幸だと思います。選択できることが大事です。
人が生きていく中で、仕事だけが全てではないです。仕事への関わり方もさまざま。仕事が必ずしも一番ではありません。それが大前提です。さまざまな仕事との関わり方がある。仕事を頑張りたくでも、ライフステージやさまざまな制約で難しいこともあると思います。
その前提がありながら、ワークライフバランスと収入やキャリアを両立させたい人もいるでしょう。そのためのコツはワークを労働集約から資産に変えることです。指示された仕事をするところから、自分で仕事を生み出すに変化するために、あるタイミングでは投資が必要、ということが言いたいことでした。
ワークライフバランスを残業しなくて良い、働き過ぎは良くないくらいで捉えていると勿体無いよねという言い方もできるかもしれません。
ワークライフバランスをさまざまな事情や選択肢に対応していくことだと捉えられると、最終的には一つ一つ自分の頭で考えて決断していくしかないよねと捉えられそうです。
リモートワーク
「仕事を覚える」、という観点でも分業化されていることは非常に都合が良いです。特にリモートワークという仕事を伝えるのがただでさえ難しい環境においては、なお威力を発揮するのです。
「ここからここまでを覚えればいい」、「ここからここまで教えればいい」と決まっているのは非常に楽です。教える側として効率がいい。最高ですよね。
ただしリモートワークの状況では、見て盗むとか、隣から聞こえてくる会話で情報をとるなどは難しいです。つまりリモートワークの状況では、形式的な、形になっているものでないと教えるのも教わるのも難しいのです。非定型な仕事を盗んでいくとか、生み出していくということは難しなる。
どうでしょう。これって誰かのコントロールの下に入るということだと思いませんか。誰かが考えた仕事を考えた通りにやる部品として振る舞うということだと思いませんか。
そして残業の話にもつながりますが、例えば夜残業を頑張れるのも隣に同僚がいるからです。隣に同僚がいたことで残業が頑張れた人はリモートワークになっても残業すべき時はやれます。しかしその経験がない人が残業できないですよ。できないと言うか、何が何だかよくわからないと思います。
リモートワークで残業は難しい。
あとは越境のきっかけが減りますね。越境すれば良いのかというとそんな単純な話ではないです。越境なんか許さない方がいい場面やタイミングもあります。
ただし、越境が価値を持つこともあります。特に新しく何かを生み出して推進していくフェーズでは、決まったルールとは別の進め方をするということになります。決まったルールとは別の進め方で進めるというのは、ただでさえエネルギーが必要なのに、その時にリモートワークするなんか、縛りプレイそのものです。
決まった成功のパターンを繰り返せばいいならリモートワークでもいいんですよ。むしろリモートワークの方が効率がいい。しかしそうではない局面においてリモートワークという選択肢が正しいのでしょうか、ということです。
副業
余った時間を何に使うかという話です。
昔出社が当たり前の時は、副業を行うのは非常に困難でした。
会社にいなければならないので、仮に内職をしていればバレますし、コミュニケーションをするために副業先に行かねばならないと言うのは物理的に難しかったのです。
リモートが当たり前の環境であれば、その辺りは上手くやれます。上手くやれる上に本業+副業の収入は魅力的です。何より手っ取り早いです。
でも気をつけないといけないのは、副業はスキルの切り売りだと言うことです。今できることを買ってもらうのが副業です。原則的に新しいスキルが身につくわけでないのです。
副業が難しい時代であれば、余った時間は本業のプラスアルファに使わざるをえない構造がありました。会社や上司から直接的な指示があるわけではないが、自分がやるべきだと思うことにチャレンジできた。
これは回りくどいのですが、中長期的には意味のある投資になったりします。任せてもらいにくいことにチャレンジできるチャンスです。
もちろん副業の種類によっては、ラストマンシップが身につくとものもあると思います。個人で受けて納品責任まで持たないといけない案件などです。
ただし、そのような仕事受けてトラブって徹夜とかして本業に支障出たりしたら上司的には評価を下げざるをえないです。思ったより周りの人は見ていて、バレています。本業と副業のバランスがひっくり返ってるパターンは上司は100%気づいてます。
要するにシステムに組み込まれていると言うこと
分業は仕事を単純化して、交換可能な部品として扱うための手段です。そしてそれはワークライフバランスやリモートワークと相性がいいです。そのような構造に気が付かないと、構造やシステムに組み込まれていってしまいます。それは悪いことではないけれど、組み込まれていっているというメタ認知は持てた方がいいかなと思っています。
自分の人生には自分以外の誰も責任は取ってくれないので。
分業化してシステムのなかで振る舞うことが正義ではなくなった時、世界は簡単に手のひら返しをしてきます。「言われたことを言われた通りにやれ」と言われていたのに、ある日突然「自分で考えて仕事できない人は難しい」とか平気で言ってきます。怖いね。
割を食うのは誰なのか
あえて超具体的に言うと、ここ5年ほどで新卒でBtoB SaaSに入社した人は条件当てはまりやすいかもしれません。
慣れてしまうと、その慣れから飛び出すのは非常に苦痛です。
そして年次が上がったり、年収が上がるほどアンラーンは難しいです。
仕事ってなんなの?あなたが仕事だと思っているものは本当に仕事なの?
どれくらいの人が、「私はしっかり仕事をしている」と自信を持っていえるでしょうか。
マネージャーに指示されたことをこなしたら仕事でしょうか?仕事ってどこからどこまででしょうか?自分の仕事が終わったら仕事は終わるのでしょうか?
それではキャリアアップってなんなのでしょうか?給料が上がるってどういうことでしょうか?純粋に市場においてお金を払ってもらえる仕事をしているのでしょうか?
そんなことを考えてみることがあってもいいと思います。
ラストマンになる経験
なんでも良いけどラストマンになる経験をする。その時に人は急成長します。ラストマンになるには全容がわからないといけません。人任せの部分があると祈る人になってしまうからです。祈りが増えると自分ごとでは無くなり、言い訳ができるようになります。
一昔前で言うと若くてもラストマンになりやすい仕事が、Webサービスのサーバーサイドエンジニアでした。本当に1人でなんでもやった。
自分が実装しないとプロダクトや機能は絶対に世の中に出ないし、世の中に出した後もインシデントがあったら自分がなんとかしないと治らない。そういう立場に強制的に立てたことは自分の人生の財産です。そういう構造にいることができた幸運。人間は怠惰なので良い構造に置かれることは大事なのです。
なかなかラストマンになる経験って積めないんですよね。それこそ事業責任者とかにならないと詰めない。それか会社立ち上げるとか。
僕は副業やるなら、なんでも良いから自分のプロジェクトを持つことをお勧めしてます。そうすればラストマン経験がつめるので。
例えばBASE使ってECやりませんか?(営業)
もちろん人と仕事して、祈りも含めてやるフェーズも大事です。大きなことをやるフェーズ。大事ですがそれより前にラストマンになった経験があるかでリーダーの仕事の成果は大きく結果は変わります。
今自分がやってる仕事は自分でコントロールできてないな、という感覚の人は、どこまで行ってもそのままです。少しずつコントロールの範囲を広げていくことでしか上達しないのです。戦略が必要です。
偉いから、権限があるからラストマンであるわけではない!
ラストマンの経験があるかどうかは、なかなか繕えないので割とすぐわかります。
決して全員がラストマンである必要ないのですが、ラストマンがいなければ物事は進みません。ただただそういう事実があります。
自分の気質的にはラストマンいないから誰がラストマンやってよー、っていうのは無理だというだけです。それは人それぞれなのです。
サーバーサイドエンジニア経験で磨かれたスキルはラストマンシップだと思ってる
— 柳川慶太 | BASE, Inc. 執行役員 金融事業担当 (@gimupop) July 31, 2025
観測範囲で優秀だなと思うPdMはサーバーサイドエンジニア経験者が多い気がしていて、その所以はエンジニアスキルではなくラストマンシップなんだと思う
最後は自分がやるしかないというのを遺伝子レベルで叩き込まれた
構造に飲み込まれずに頑張るしかない
分業に抗うためには、割り当てられた時間以外で頑張る、越境できるタイミングを探す。こういったことが大切になります。
ですがワークライフバランスとリモートワークでそれが難しくなっているなーと言う気づきがこの記事を書いたきっかけです。
一つ一つの事象は良いことなのですが、掛け合わさることによって思わぬ副作用が認知できない形で起きるのですよね。
誰が悪いわけでもなく、構造が何かを誘発する。なので構造に着目する必要がある。
人間は気づかずに構造に巻き込まれます。今はたまたまこういう構造ですが、構造に気をつけよう着目しましょうということ自体は普遍的です。
結局言いたいこととしては、
パーツになると、システム全体が変わった時に対応できない!パーツになるな!パーツになっていることに気づいて!
ということです。
その上で、差し出すものと得るもののバランスについて冷静に客観的に認識することが大事だと思うのです。
