一人の留学生がドイツワインに人生を捧げるまで
はじめまして。
銀座ワイナックス創業者の娘・巨衣です。
このnoteでは、父から聞いた創業当時の話や、ドイツワインのこと、生産者との交流などを綴っていこうと思います。
まずは、銀座ワイナックスの始まりの話から。
銀座ワイナックスは、1984年に父と母が創業しました。
父は千葉大の写真工学科を卒業後、1970年代にドイツへ渡り、ベルリン工科大学へ留学。大学ではカメラレンズの研究、そして留学中はフォトグラファーのような活動をしていました。
一方で大の音楽好きでもあった父。現地でベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏に魅了され、
「あと数か月だけ」
そう思っていた滞在は延び続け、気が付けばドイツでの生活は8年にもなっていました。
留学中は日系商社でアルバイトをしながら、ベルリン・フィルに通い、ドイツの文化や人々の暮らしに深く触れる日々。
そんな中で出会ったのが、ドイツワインでした。
美しい酸と果実味を持つドイツワインに魅了され、周囲にもワイン好きとして知られるようになった父は、ある日、知人を通じて一本の古いワインと出会います。
あるご婦人が、ご主人の遺した地下セラーのワインを整理したいと考えていました。
ワイン好きな人に譲りたいということで父にも声が掛かり、家へ招かれたのです。
セラーを見ていると、ご婦人が一本のワインを手に取りました。
それはミュラー・トゥルガウから造られたシュペートレーゼ。ヴィンテージは15〜20年前のものだったそうです。
ミュラー・トゥルガウは比較的若いうちに楽しむことが多い品種です。
父は思わず、
「そのワインは、もう飲めないかもしれませんね」
と口にしました。
するとご婦人は、
「それなら捨ててしまおうかしら」
と一言。
慌てた父は、
「それはもったいない。開けてみましょう」
と、その場で抜栓しました。
そしてグラスに注がれたワインを口にした瞬間、父は驚きます。
熟成によって、こんなにも表情を変えるのか。
そこにあったのは衰えたワインではなく、時間によって磨かれた複雑で奥行きのある味わいでした。
ドイツワインは長い年月に耐え、魅力を増していくワインなのだ。
そのとき父は、身をもって学んだそうです。
この一本との出会いが、後に銀座ワイナックスの原点となっていきます。
次回は、父がなぜドイツワイン専門店を始めることになったのか、その続きをお話ししたいと思います。
