見出し画像

【番外】息子が妖精と商談しようとした話

子どもの歯が抜けたら、水を張ったコップに入れて寝ると、歯の妖精がコインと交換してくれるという外国の言い伝えがあるらしい。

我が家でも、さっそく導入することにした。
もちろん、私が妖精のかわりに歯をコインと交換する役目だ。
とりあえず手持ちの10円玉で対応することにした。

低学年の頃の息子は、歯が抜けることを異常に怖がり、何日も大事にぐらつかせたままにしていた。
そんなある日、当然のごとく歯は抜けた。
しかも、外出先のカフェでクッキーを頬張っている時に。
息子は抜けた歯を大事に持ち帰り、水を張ったコップを用意して歯を放り込んだ。
嬉しそうにコップを眺める息子。
私は微笑ましい気持ちで、そんな息子を眺めた。
その時、息子が笑顔で言った。

「この歯は、いくらくらいになるかな?」

「……はっ?」

息子は母の混乱には目もくれず、続けた。
「100円とか? まさか、ワンチャン500円とか?」
その瞳に¥マークが輝いていた。
「い、いや、そういう意図じゃないと思うよ、妖精さんは」
私はしどろもどろになりながら、続けた。
「妖精さんは、歯とコインを交換してくれるんだよ」
私の答えになっていない説明に、息子は納得のいかない顔になった。
「だから、いくらで交換してくれる?」
「い、いくら、とかじゃなくて……」

私が理想としていたのは、「妖精さん、来てくれるかな」という反応だった。
息子は、妖精の存在自体は疑っていない。
むしろ、来ると確信している。
その上で、「いくらで交換するか」を聞いているのだ。
息子にとって、取引相手が妖精だろうが妖怪だろうが関係ないのだろう。
妙に現実的な面がある息子。
ことお金が絡むと、急に現実的になる。

ファンタジーにコインを持ち込むと、こうなるのか……。
自分が持ち込んだ妖精の言い伝えを、私は静かに後悔した。

その後、息子が寝てから、歯と10円を無事に入れ替えた。
翌朝、起きてきた息子は、真っ先にコップの元に行き、妖精の仕事ぶりを確認していた。
そして、コップの底に10円を見つけて、手を叩いて喜んだ。

「今回は10円か〜」
息子は少し残念そうな笑顔になった。
しかし、すぐに気持ちを切り替えた。
「次は妖精にお手紙を書いて、100円と交換してもらおう!」

妖精と交渉しようとしている息子は、頼もしいのかがめついのか…。
10円玉を貯金箱に入れる息子を、私は複雑な気持ちで眺めていた。


🔽関連記事はこちら

初めての方へ↓

【記事まとめ】初めての方へ

いいなと思ったら応援しよう!