【ピアノ】回想 いざ発表会、それなのに
前回の記事はこちら↓
発表会に向けて、息子は少し難易度の高い曲を、数ヶ月かけて練習してきた。
普段は電子ピアノでの練習だが、発表会前の一ヶ月だけは、グランドピアノを備えた練習室に通えるだけ通った。
全部屋グランドピアノ、1時間単位で借りられる練習室は、息子にはやや贅沢すぎるくらいの環境だった。
レッスンを重ね、練習室に行くたびに、演奏は仕上がっていった。
私はもう、本番が待ち遠しくてたまらなかった。発表会当日はリハーサルがないため、前日も練習室で最後の仕上げをした。
帰宅した息子は、どっと疲れたようにゴロゴロして過ごしていた。
そして、当日。
息子が、発熱していた。
感染症の疑いがあれば外出を控えるべき時期だった。迷う余地のない高熱だった。
私は、泣く泣く先生に連絡した。
先生もショックだったはずだ。
それでも、体調を気遣う言葉をかけてくれた。
先生への申し訳なさ。
体調管理をしきれなかった自分への不甲斐なさ。
息子の熱への心配。
そして、せっかく練習してきたのに、という悔しさ。
全部がぐちゃぐちゃに混ざり合って、私は息子の見えないところで泣いた。
こんなに悔しくて、いろんな感情が一度に押し寄せてきたことは、それまでなかった。
息子が初めてステージに立つ姿を、見たかった。
それだけ、楽しみにしていたのだ。
しかし、今はピアノどころの体調ではない。
親として考えるべきは、息子の体のはずだ。
頭ではわかっている。
わかっているのに、涙は止まらなかった。
ピアノでこんなに辛かったのは、後にも先にもこの一度きりだった。
息子は翌日には熱が下がっていた。体調が戻ったことは嬉しかった。
それでも、「なぜ今日だったのだろう」という思いだけは消えなかった。
だからこそ今でも、あの時のことを思い出す。
振り返ると、あのショックの裏にあったのは、「あれだけ完璧に練習できていたのに、一番大事な体調に目を配れていなかった」という、自分自身への不甲斐なさだったように思う。
気をつけなければ、とわかっていたはずなのに。練習させることに夢中になりすぎて、普段なら気づけたはずの変化に、気づけなかった。
次のレッスンで、私はまだ落胆と気まずさを引きずっていた。
すると先生が、静かに言った。
「体調が一番大事ですから。悔しいとは思いますが、無理をしなくて良かったですよ」
そして、続けた。
「半年後にあるコンクール、出てみませんか?」
「今回は残念だったけれど、曲はちゃんと仕上がっていましたから」
「リベンジしてみませんか?」
その言葉に、私と息子は思わず、顔を見合わせた。
つづきの記事はこちら↓
初めての方へ↓
🔽これまでのピアノ記事をまとめました
