【長編小説】獣戦記(アポカリプス)第十八話 三獣の誓い
風が変わった。荒野の乾いた空気から、しっとりとした苔の匂いが鼻をくすぐり、木々のざわめきが3人の耳を撫でる。
「ここが、幽玄の深森か……凄ぇ暗いな」
「えぇ、でもさっきの荒野より、治療に専念できるわ……」
「すまんな……この程度の毒で……」
「何言ってるの、飛龍……無理しないで、すぐに休める場所を探すから」
脚を押さえる飛龍をミラとテトラが支える。
「おい、あれ!」
すると、苔に覆われた古い祠が目に入った。
「……あそこにしましょう」
3人は祠の中に身を寄せた。中はひんやりとしており、外の湿気を遮ってくれる。ミラが持っていた薬草を煎じ、飛龍の傷口に塗り込む。
「少し沁みるわよ」
「構わん……」
飛龍は目を閉じ、静かに呼吸を整えた。ミラは彼の額に浮かぶ汗を拭いながら、ふと隣に座るテトラに目を向けた。
「……これから、よろしくね、テトラ。改めて、私はミラ。この人は、飛龍よ。」
「あぁ、よろしくな!」
テトラはミラと飛龍に体を向け、目をつむりながら、腕を組んで座り込んでいた。その表情は、何か考え込んでいるかのようだった。
「……どうしたの?」
「ん?あ、いや……」
「何よ、言いたいことがあるなら、言ってよね」
「そうだぞ、テトラ……俺たちは、これから同じ死線をくぐる同志だ……隠し事は無しにしよう……」
テトラが真剣な眼差しで、2人を見る。
「そうだな、じゃあ1つ……2人が戦いに参加した理由は何なんだ?」
「え?」
ミラと飛龍は見つめあい、しばらくして答えた。
「私は……一族への恩返しと戦友たちの想いを繋ぐため」
「俺は、神界に連れ去られた娘を取り戻すためだ」
2人の顔は真剣だった。
テトラはしばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。
「……そっか、お前らも他人のために戦ってんだな」
「テトラ……?」
ミラと飛龍が顔を上げる。テトラは空を見上げ、木漏れ日の向こうに何かを思い出すように目を細め、語りだす。
「……おいらさ、家族のために戦ってんだ。酉族は、空の上の民。高い山の上に住んでてさ、風と太陽を友として生きてる。……そしてはるか昔の記憶も伝承している」
「はるか昔の記憶って?」
ミラがテトラに問いかける。
「おいらの村の長老が言ってた。ずっと昔、神様がこの世界でいくつもの種族を集めて、強い一族を決める戦いをさせたらしいんだ。で、負けた一族は……皆殺しにされたって……」
「そんな!」
「初めて聞く話だな……」
「何千年も前の話だからな、知らないのも無理はない。でも、だからこそ、うちの一族はずっと恐れてた。また同じような戦いが起きたら、今度こそ滅ぼされるんじゃないかって……」
テトラの声が、かすかに震えていた。
「おいらには、弟がいるんだ。まだ雛みたいなもんでさ、鳴き声も小さい。あいつを守れるのは、おいらしかいねぇ。」
「……」
「だから、勝たなきゃなんねぇんだよ。この戦いに勝って、神様に“うちの一族は生きる価値がある”って、証明しなきゃなんねぇんだ」
飛龍は静かに頷いた。
「……その覚悟、しかと受け取った。これで俺たちも負けられない理由が、1つ増えたな」
「そうね、絶対に負けられないわ!」
ミラがそう言い、そっとテトラの隣に座る。
「一緒に戦おう。あたしも、飛龍も、したい事がある。守りたい人がいる。だから、あんたの気持ち、すごく分かるよ。でも、だからこそ、これからは私たちを頼ってほしい。」
テトラはしばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。
「……ありがとな。おいら、同じ種族以外で、仲間ができたの初めてだぜ……改めてよろしくな!ミラ、飛龍」
「あぁ、これからは3人で勝ちに行くぞ」
飛龍が手を差し出す。テトラはその手を見つめ、力強く握り返した。
「おう!おいら、絶対に負けねぇ。家族のために、仲間のために、この戦いに勝って十二支になってやる!」
「その意気よ、テトラ」
ミラが笑い、三人の間に確かな絆が生まれた。
幽玄の深森の木々が、静かに揺れる。 その音は、まるで三人の誓いを祝福するかのようだった……
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