【長編小説】獣戦記(アポカリプス)第十九話 神獣界アルガディア
幽玄の深森の夜は、静寂と神秘に包まれていた。 焚き火の炎が、3人の影を揺らしながら、祠の石壁にゆらゆらと踊っているように揺れた。
飛龍の傷はだいぶ癒え、ミラは湯を注いだ木の椀を彼に手渡した。
「ありがとう、ミラ」
「まだ無理しないで。毒は抜けたけど、体力は戻ってないでしょ」
「……ああ」
飛龍が湯を啜る音が、森の静けさに溶けていく。その隣で、テトラは焚き火の前にしゃがみ込み、枝をくべながら口を開いた。
「なあ、お前ら。この戦場の事、どこまで知ってんだ?」
「戦場って、神獣界の事?私は、ほとんど何も知らないわ。飛龍は?」
「俺もだ。戦いが始まってすぐ、上空からあたりを見回したが、一面に広がる森とその奥に荒野が見えるだけだった……」
「あなた、空飛べるの!?」
「あぁ……言って無かったか?」
「おいらは鳥でも飛べねぇってのに、ずるいぞ!」
「今、そんなことはいいだろう……それより話を戻せ」
少し不満そうにしながら、テトラは火の中を見つめて、ゆっくりと語り始めた。
「ここ、神獣界は、獣王神が作った土地。選ばれし者たちが集められ、戦い、生き残り、何かを証明するための場所だ」
「何かって?」
「それは、まだ分かんねぇ。でも、長老が言ってた。“この戦いに勝てば、神と同等の権利を得るだろう”ってな。」
「神と同じ力ってこと?」
「多分な……今後の世界を導くってのは、そういうことだと思う。神の力をがあるなら、もしかしたら、死んだやつを生き返らせることも可能かもしれねぇ。けど、それが叶うのは、最後まで生き残っていた十二人だけ……」
ミラが息を呑んだ。
「神の力……ね」
「でな、おいら、この神獣界にある5つの領域の内、ガロンを探して、4つの領域を回って来たんだ。」
「4つ……?」
「おう。空は飛べねぇが、おいらにはこの強靭な脚があるからなぁ。便利なもんだぜ。」
テトラは焚き火のそばの地面に、枝で円を描いた。 その円の中に、五つの点を打ち、さらに中央にひとつ、浮かぶように印をつける。
「まず、ここが今いる第三領域――“幽玄の深森”。神獣界の北側にあるんだ。光を拒むように、常に薄暗くて、霧が立ち込めてる」
「確かに……ずっと薄暗くて、妙な気配が立ち込めてるわ……」
「うむ……」
「で、ここから南に行くと第一領域がある。燃え盛る溶岩が大地を焼く、“業火の火山地帯”だ。」
テトラは円の下部に印をつけ、そこにギザギザの線を描いた。
「地面は真っ赤に焼けてて、足を踏み入れた瞬間、足底が溶けそうだったぜぇ。空気も熱くて、息をするだけで肺が焼けそうになるんだ。」
「なるほど……」
飛龍が頷く。
「次に、西にあるのが第二領域 “絶対零度の氷原” だ」
テトラは円の上部に印をつけ、波打つ線を描いた。
「すべてが凍てつかせ、空気すら凍るような寒さだったぜ。動くだけで体力が削られる。おいらたちみたいに、毛のある戦士じゃないと、凍え死んじまうかもなぁ」
「……それは厄介ね」
「東には第四領域 “深淵の大海” がある」
円の左側に、波のような模様を描く。
「荒れ狂う波が、すべてを呑み込む。海の底には、古代の神殿が沈んでるって話だ。おいらは潜ってないけど、あの海は……何か……嫌なものを感じたよ」
「水中戦か……俺の雷鼓は使いづらいな。」
飛龍が呟く。
「この4つの領域の間にそれぞれ、荒野が挟まってる作りだ。そして、中央の上空に第五領域 “天空の島” がある。」
テトラは円の中央に浮かぶように、最後の印をつけた。
「とは言っても、おいら、ここには行ってねぇんだ。」
「なぜ……?」
「なぜだ?」
ミラと飛龍が同時に問う。
「島に行く道がなかったんだよ。どうやってあの島に入るのか、さっぱりなんだ。どこかに入口があるとは思うんだけどなぁ」
「どこかにある入口か……。それも生き残るためのカギになりそうだな」
飛龍が腕を組み、考える。
ミラは地図を見つめながら、呟いた。
「まるで、神様が遊んでるみたいね」
「そうかもな……でも、遊びにしては、代償がでかすぎる」
テトラの声には、怒りと悲しみが滲んでいた。
「だから、おいらはこの戦いを終わらせたい。もし十二支になれたら、神に一言、言ってやらなきゃならねぇ。“こんな戦い、もうやめろ”ってな」
「そうだな。俺も神には、一撃入れてやりたいと思っている」
飛龍は微笑みながら、テトラへ返す。
ミラが微笑んだ。
「じゃあ、まずは、今後の事について話し合いましょう。3人がそれぞれ、全力を出せる領域と戦略も考えないとね」
「そうだな」
「おいらは、この幽玄の深森を拠点にするのがいいと思うんだ。暗闇だけど、身を隠せる場所も多いし、木が多いから、立体的な戦闘ができる。環境だけで言えば、不利になる要素があんまりないと思うぜ……」
「よし、決まりね!」
「決まったな」
3人は立ち上がり、焚き火を消した。
その瞳には、3人の揺るがぬ決意が表れていた。
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