【長編小説】獣戦記(アポカリプス)第四十一話 幻獣、動く
夢幻喰との死闘を終え、3人は傷を癒し、束の間の休息を取っていた。
食事をしながら、テトラが興奮気味に声を上げる。
「それにしても、本当に信じられねぇぜ! おいら達があの“幻獣種族の一角”を倒しちまったんだからなぁ」
飛龍も深く頷く。
「あぁ……本当にギリギリだった。3人いなければ、おそらく勝てなかっただろう。」
「あっ、そういえば、飛龍……あなたが不完全な幻獣ってどういう意味?」
飛龍は少し言葉を選びながら答えた。
「俺たち龍族の使う技は、この背中の6つ雷鼓が重要なんだ。それぞれに“雷、地、嵐、水、炎、龍” の属性を宿している」
「なるほどなぁ~、色々使えて便利で羨ましいぜ。おいらも雷とか出してみてぇ~」
「使えればな……本来なら、それぞれの紋様が描かれた雷鼓を鳴らすことで、強さ、用途の違う三段階の技を使用できる」
「本来ならってことは……」
「あぁ……俺はまだそれら全てを扱えない。俺が使えるのは、“雷、地、嵐” の3つの属性の技だけ……さらに、幻獣種族が変化できるはずの “神獣形態” も完全にはなれない」
テトラが笑いながら肩をすくめる。
「まぁ、気にすんなよ飛龍。要は、今はまだ成長中ってことだろ?」
「えぇ、そういうことね」
(テトラ……ミラ……)
「フフッ、あぁ……そうだな」
「おっ!今笑ったか?」
「そんな訳ないだろう。俺は、そうそう笑わない」
「夢の中で結構笑ってたけどねっ」
「確かにな!おいら、びっくりしたんだぜぇ」
「たまたまだ……」
「まぁいいや。そういやぁ、夢幻喰と同時に倒された他の3種族。そいつらを倒した奴って、どんな奴なんだろうな。」
(確かに、夢幻喰とほぼ同時……何か匂うわね……)
「おいら、鷲族のエイダと面識はあるが、そう簡単に倒される奴じゃねぇ。なんせあいつは、“空の王者” なんて呼ばれてたくらいだ」
—スゥ……
「おそらく他の幻獣種族……霊亀族、妖精族、麒麟族の戦士たちだろう」
「どうして分かるの?」
「空気が変わった。直観だが……間違いない」
飛龍の直感は、まさに的中していた。
夢幻喰が暴走を始める、その直前。
神獣界で、“説明できない異変” が静かに広がっていた。
その異変に一部の獣たちが気付き、一斉に謎の嫌悪感に襲われるのと同時に、世界の3ヶ所で、“別の幻獣たち” が同時に目を開いた。
————深海の底。霊亀族の長は、静かに瞼を上げた。
「ふぅ……夢幻喰が揺らぎよったか……」
その声は穏やかだが、海そのものが震えた。
近くにいた鯱族の戦士、ミオス・オルカディオスは、 理由も分からぬまま息を呑む。
「な……なんだ……この圧っ!苦っ……ごぽっ……」
霊亀族の長はただ一言、告げる。
「抗う未来など……どこにもなかったぞい」
次の瞬間、ミオスは理解できないまま沈んだ。
何が起きたのか、誰も知らない。
————灼熱の火山地帯。溶岩が流れ、熱気で肺が焼けそうになる空間。その中心に、妖精族の女王は涼しげに浮遊していた。
「夢幻喰が倒れかけているのね……ならば、運命に従い、世界の“選別”を始めましょう」
土竜族の戦士、モール・グラウネスは、火山の熱気とは違う別の何かに膝をつく。
「な……なんだよ……これ! 何も……してねぇのに……なんで!」
女王は淡々と告げる。
「立っても、倒れても……結果は同じよ。すべては……無意味。この世のすべてが……」
モールは叫ぶ暇もなく崩れ落ちた。
何が起きたのか、誰も分からない。
————雲の上。麒麟族の戦士は、静かに槍を構えた。
「夢幻喰が落ちる。 ならば、俺も動かねばな……我ら純血を絶やさぬために……」
鷲族の戦士、エイダ・オルニセラスは、空の異変に気づき叫ぶ。
「な……なんだよ……空が……重い!」
麒麟族の戦士は冷たく言う。
「飛ぶな。無駄だ……戦士ならば、潔く死ね……」
次の瞬間、エイダは空から落ちていった。
何が起きたのか、誰も理解できない。
そして現在、ミラ、テトラ、飛龍が休んでいると、空が震え、再びグリムが現れる。
「代表選士諸君! これより、わが主、獣王神、アル=ラグナ様より、お言葉を賜る。心して聞けぇ!」
アル=ラグナの声が低く、唸るように神獣界に轟く。
「戦士諸君……ここまでの戦い、実に愉快なものであった。アポカリプス開戦より早2時間……お前たちの力は存分に見せてもらった」
「……!?」
——シュゥゥゥ……ボワァ……
突如、地面から光が放たれた。
「だが、我はもっと血が滾る戦いを見たい……よってこれより、戦士諸君を別の領域へ飛ばす。新たな土地での戦い、楽しみにしておるぞ。フッハッハッハッ——!」
「テトラ! 飛龍! 」
「なんだぁ、この光は!」
「まずい!……これは!2人とも腕を!」
飛龍の声で、3人は互いに離れないように腕を組む。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……」
——シュン……
光が収まる。しかし、幽玄の深森にミラたちの姿はない。
ミラたちの新たな領域での戦いが今始まろうとしている……
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